「ごめんね、錆兎。忙しいのに…。
ほんと、なんなら隠に頼んで?」
その第一歩が隊士達の能力強化で、現在生存している隊士達を各柱の元で鍛える、いわゆる柱稽古が始まることになる。
柱達は柱合会議のあとにそれぞれ何について鍛えるかを話し合い、村田は防御に長けた水の呼吸の使い手ということで、防御力について鍛えることになった。
とはいっても、村田自身、自分が使い手に弟子入りしていた修行時代に特別その手の訓練を受けたことはない。
そこで同じ水の呼吸の師範の元で学んだ錆兎に相談してみたら、彼らが剣術よりまず先に学ばされた罠を避ける訓練について話してくれ、その罠を作るのを手伝ってくれることになった。
こうして水柱屋敷の裏手の山に、錆兎が狭霧山という自身の修業の地で設置されていた罠の数々を作ってくれる。
忙しいのに申し訳ないと冒頭のように謝罪したら、錆兎は罠を作る手を少し止めて、一瞬ジッと考え込むように目を閉じて、そしてどこか悲しそうな笑みを浮かべてた。
「…いや…先生の所に居た頃は義勇が来てからは義勇用に罠の修繕とかを手伝っていたから…。
炭治郎用のも戻った時には手伝っていたし。
………俺の時にも姉弟子がこうして俺のために罠を整えてくれていた。
先生の所の弟子たちはみな、後輩の修業のためにこうして環境を整えてやるのが慣例になっているから、未だに生きて後輩たちのために手を貸してやれる俺は幸せ者だと思う……」
幸せ者と言いつつどこか悲しそうに聞こえるその響きの裏には、自分と違ってもう手を貸してやれない自分の時に手を貸してくれた姉弟子に対する悲しさや寂しさ…そして無念があるのだろう。
──…たった1年だ。
と、ぽつりと零す錆兎。
──1年?
と、その意味を取りかねてその言葉を繰り返す村田に、
──今更色々考えても仕方ないんだけどな…
と、錆兎は苦笑した。
「俺も義勇も一緒に修行してとても世話になった姉弟子は俺達より1年年上なだけで、俺達より1年早く最終選別に向かったんだ。
もし彼女が1年遅い俺達を待っていてくれたら…あるいは俺達がもう1年早く選別を受けていたら…彼女は今頃こうして一緒に後輩のために尽力していたのかもしれない…なんて思う時がある。
俺と姉弟子は当時もう先生の最終試験である岩を斬っていたんだが、俺はまだ切れなかった義勇を1年間待っていた。
あの時、義勇を置いて先に最終選別を終えていれば姉弟子は死なずに済んだかもしれないが、今度は逆に義勇が命を落とした可能性もある。
でももしかしたら義勇は一人でも突破して、3人皆無事だったかもしれない。
そう思うとなんだかすごく…な…、自分の判断が正しかったのか、あるいは俺が選択を間違ったせいで姉弟子が生きて戻らなかったのか、すごく悩むことがある…」
そういう錆兎の手は少し震えていて、いつも不安も弱みもないように見えて、実は人一倍色々考えている親友にどう反応すべきが村田は悩んだ。
もし~だったら…と言うのは、村田も2度目の人生を歩んできて常に抱えてきた悩みである。
前世で確実に起こることを知っていて、死というものを遠ざけようとしていても、竈門家の家族や不死川の兄弟子の死などは防ぐことができなかった。
それもうっかり時期を忘れていたという体たらくのせいである。
それを考えれば何も知らぬまま目の前の情報だけで判断してきた錆兎はすごいし、比べ物にもならないが、自分の判断ミスで人を死なせたのかもと思う辛さは村田もよくわかった。
「…どういうべきなのかわからないけどさ…でも助けられなかった人がいるとしても、錆兎のおかげで命を拾った人間がたくさんいるのは確かなことだよ。
俺もそうだしさ、錆兎が俺が義勇をかばったから義勇が助かったって言うけどさ、その前に錆兎に助けられてなければ俺はいないしかばえないわけだからさ、間接的に義勇の命も救ったわけだよね?
そのあとも俺達の同期のほとんどは錆兎に命を救われてるしさ。
そうして錆兎に救われた俺達がまた誰かの命を救っている。
今こうして柱稽古で鍛えれば隊士達もさらに強くなって、もっとたくさんの人を救えるようになる。
守れなかった相手についてはどうしようもないけどさ、俺達はそうやっていつか誰かを救うかもしれない、物理的に誰かを救わなくても誰かにとって大切な人になるかもしれない、そうして誰かの生きがいになるかもしれない人たちを救って、少しでも良い未来を作っていくんじゃないのかな」
「…そうだな…。
過去を悔やむよりも生きている人間を少しでも多く救うのが先だな。
よしっ!罠を整えつつビシバシ隊士を鍛えるぞっ!!」
錆兎はそう言うとまたせっせと罠を作り始める。
これ…ビシバシ鍛えられたくない善逸とかが見たら、俺、恨まれそうだな…などと思いつつも、親友が浮上したらしいことを察して、村田もまた罠の制作を再開した。
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