そうなの?そうだね。ああ、そうなんだ…などと適当に相槌を打ちながら暴走する炭治郎の横からそっと伊黒の方へと移動する村田。
「うるさいっ!静かにしろ。本当にお前はここに何をしに来ていると思っているんだ。まったくそれだから……」
とネチネチと始める。
が、炭治郎はそれにも
──でも……
と、口を閉じることがないので、とうとう師範が介入した。
「…炭治郎、お前はここに遊びに来たのか?
今俺達が普通に寛いでいるように見せているのは、飽くまでいつ現れるともしれない上弦の肆と伍を警戒させないためだ。
だから俺も伊黒も村田も極力静かにしてあたりを警戒している。
騒々しさで感知が出来ず初動が遅れれば、全員が命取りになるのをいい加減分かれ」
普段は気の置けない兄弟子という態度で接する錆兎だが、炭治郎にとっては兄弟子であると共に師範で上司だ。
その錆兎に静かだが厳しい声音で諭されれば、空気を読まない少年もさすがに
「…そうでした…。すみません」
としょげかえる。
しゅん…と肩を落とすその様子は、まるで飼い主に叱られた子犬のようで、どこか可愛らしいと村田は思ったが、彼の兄弟子も同様だったようだ。
少し苦笑しつつ、
「どうしても騒ぎたかったら女性陣の方へ入れてもらえ。
禰豆子はお前の妹だし、一緒にいても問題ないだろう。
ただし、甘露寺にはあまり近づくなよ?
湯浴み着を着ているとは言えここは風呂だ。
家族以外の妙齢の女性とあまり接触を持つのは風紀上宜しくない」
と、勧めてやる。
それに女性陣の方へと言った瞬間に表情を険しくした伊黒も、さすが錆兎、と、でも言う風に和んだ様子で頷いた。
「はい、わかりました。移動します」
元々男性陣よりも女性陣…というか、はっきり言えば義勇と居たかった炭治郎は、そこで師範の許可が出たことだし、と、移動することにしたようである。
そう返事をした炭治郎に錆兎は柔らかい表情で頷いて、
「いきなり行かせると驚かせたり気を使わせたりしても互いに気の毒だ。
だから村田、すまないが、皆で入る露天風呂に炭治郎が浮かれているが伊黒や俺は静かに入っていたいと言うのでそちらで引き取ってくれと向こうに言ってきてくれないか?」
と弟子と女性陣、両方に対しての気遣いを見せる。
確かに。
いきなり男性陣の方から炭治郎だけ行ったら何なのだろうと思うかもしれない。
錆兎もそのあたりにそつがないのは職業柄だろう。
「うん、わかった。炭治郎、おいで」
と、少年に向かって手招きをする村田。
しかし炭治郎からの反応がない。
見ればジッと女性陣の方を凝視している。
ん?と村田が炭治郎の視線の先を追ってみると、彼の視線は正確には女性陣を超えてその後方へ。
無言になった炭治郎と村田に気づいた錆兎と伊黒は、それに即反応して湯から飛び出ると、後方に置いておいた刀を手に取った。
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