村田の人生やり直し中_73_次の任務の人選について

前世では上弦の陸を倒してからが怒涛だった。

それからそう間を置かずに刀鍛冶の里で上弦の肆と伍の襲来を受けて撃破。
これは居合わせたのは炭治郎と禰豆子、そして無一郎と蜜璃だった気がする。

もちろん村田はその場には居なかったので詳細は知らない。
聞いたのは全て炭治郎からである。

ただ、それぞれがどんな戦い方をするのかはわかっているので、それはお館様へ報告済みだ。
しかし今、その人選について揉めているらしい。

前世と同じ人選にすれば基本的には倒せるはずだが、その戦いで無一郎と蜜璃は力が著しく向上する痣が発生している。


それが単に力の向上というだけなら迷うことはない。
今後の無惨戦でも少しでも強くなっていた方がいい。

だがその痣は良い事ばかりではない。
人の限界を超えた強さを手に入れる代わりに25まで生きられないという短所がある。

まだ少年の無一郎と一生添い遂げる伴侶を望んで鬼殺隊入りをした娘である蜜璃にそんな重荷を背負わせて良いものだろうか…。

上弦の陸戦の圧倒的な勝利を考えれば、その倒し方がわかっている以上、上弦の肆と伍に関してはむしろ気配に敏い宇髄と錆兎の組み合わせで行かせればそう激戦にはならずに倒せる気がする。

だが、問題はその後の戦いだ。


肆、伍、陸はそれぞれ決戦前に撃破しているが、上弦の上位、壱、弐、参は最終決戦で無惨たちの本拠地である無限城で激戦の末倒している。

いや、倒しているといえるのかも怪しい。
上弦の弐の童磨はとにかくとして、上弦の壱と参は最後は再生しかけたのを自らの意思で放棄して滅んでいるので、鬼の側に勝敗の鍵がある。
だからもし彼らが生を放棄しなかった場合、完膚なきまでに倒しつくせるかと言うと正直わからない。
そうなると犠牲を度外視で少しでも力をつけておかねば…という考えも捨てきれないのだ。

そういうわけでお館様と錆兎が次の人選を話し合う会合に村田も呼ばれて意見を聞かれて悩む。

「この戦いは私の代で終わらせたい。
未来に災いを持ち越したくないんだよ。
だから蜜璃達だけじゃない。私自身も命を捨てる覚悟はあるんだ」
と言うお館様の言うこともわかるし、

「不確実な未来のために将来に希望を持っている人間を犠牲にするのはいかがなものかと思う。
どうしても痣が必要なくらいの強さが必要なら、女こどもを犠牲にするなら俺が代わるぞ」
と言う錆兎の言うこともわかる。

正直…来世で嫁に…と言って死んでいった前世の蜜璃は不憫だったと思う。
まあ痣で寿命が来るまでもなく、戦闘で死んでいったわけなのだが、出来れば戦闘でも痣の寿命でもなく、普通に伊黒と所帯を持って子の一人でも産んで幸せに生きて行って欲しい。

ただ、その前提は無惨を倒せること…ということなので、痣を発生しない状況で果たして皆どのくらい戦えるかという点が重要なのだが…。


無一郎と蜜璃を推すお館様と悩む村田の前で錆兎が唐突に口を開く。

「…実は…揚屋で待機している時に上弦の参が尋ねてきた」
「…上弦の参が?」

村田は知っていたがお館様は初耳だったらしい。
さらりと綺麗な黒髪を揺らせながら小首をかしげた。

「ああ。なんだか前回の列車の任務の戦いの時に気に入られたようでな。
せっかく強いのだから鬼にならないかと誘われたんだが、俺は人間として生きるから鬼にはならんと言ったら、何か勘違いされたらしく、子孫を残したいから鬼にならないのなら、子を作ってからなればいいと言われて、それも断ったんだけどな。
今回義勇を連れて揚屋に籠っていたのを勘違いされたらしく、子を絶対に宿らせることのできる鬼が居るから送ってやると言われたんだ。
上弦の参の性格からすると本気らしいから、そのうち義勇に俺の子を産ませることになるかもしれん。
そうなったら…まあ、跡取りも出来るし、少なくとも蜜璃がこれから伊黒と所帯を持って子を作ってと一通りの家庭を築くより早い。
蜜璃や無一郎に痣を発生させるくらいなら、俺の方がいいだろう。
まあ…上弦の陸戦の感触からすると伍や肆では出ないかもしれないが…」
と錆兎が言うと、お館様の口から出た言葉は

──やだ。君だけはダメだ。
で、村田はぽか~んと呆けてしまう。

「君の子どもは君じゃないし、少なくとも私が死ぬくらいまでは君には生きていてもらわないと私が寂しいじゃないか」
と続く言葉に、ああ、これは”耀哉モード”だな…と、だいぶ慣れてきたこともあって内心苦笑した。

それに対する錆兎の反応も友人モードで、ただただはぁあぁ~と大きくため息をついて見せる。

そして錆兎が
「そういう我儘を言っている場合じゃないだろう?
確かにお前は俺以外に友人と言える人間がいないようだが…」
と呆れ返った様子を隠さずに言えば、お館様は
「いや、言っている場合だよ。
私ははっきり言って人類のためにかなり尽くしている。
だから人の方も私の細やかな我儘くらい聞いてくれてもいいじゃないか。
友人が全くいない人間になるのは嫌だっ」
ときっぱりと言い切った。
ああ、他に友人がいないことは認めちゃうんだ…と、村田は内心また苦笑する。

「ああ、でもね、錆兎、俺も嫌だよ?」
と村田は脳内で出た結論を口にした。

「俺はね、お前だけじゃなくて、同期もお館様も他の柱達も…それこそ隊士全員、可能な限り生きて鬼のない世界を一緒に見て欲しいと思っている」
と、そこで今まで無言だった村田が口にしたことで、二人が揃って村田に視線を向ける。

鬼殺隊トップとその補佐の次席、2代巨頭に注目をされるなんてすごいことだよなぁ…と、しかしその前の緊張の欠片もないやり取りを見ていたため大して緊張もせずに村田は続けた。

「結論から言うと、錆兎は参戦して…でも経験積ませるために甘露寺さんと無一郎も戦った方が良いんじゃないかな。
痣ってさ、今回の戦いじゃなくたってキツイ戦いになれば出る人間は出るんだろうし、それを避けられる戦いで無理に出さなくても良いんじゃない?
せっかく遭遇時期が予測できてるんなら、可能な限り割ける人員割いて、余裕持ってやっちゃダメなの?」

もう素朴な疑問だ。
肆と伍を倒せばあとは戦うのは無限城戦なのだから、戦うタイミングはわかっている。
敵の能力もわかっている。

上弦の陸が上弦最下層だと言っても、前世では宇髄が引退を余儀なくするほどの大怪我を負ったのに今生では全員ほぼ無傷で終わったのだ。

他の上弦や無惨だって前世よりは色々と楽にはなるんじゃないだろうか…。

「俺は死ぬのを前提にとか考えずに相手の能力や戦い方を研究して作戦を練って練って可能な限り集団戦に持ち込んで無理なく全員生還を目指したい」

村田の言葉にお館様も錆兎も一瞬ぽか~んと呆けたあとに
「「そうだよね(な)」」
と何か憑きものが落ちたように頷いた。

「うん。あまり人数が多すぎても相手に気づかれそうだし、今回は上弦の陸戦に行った子達は刀の手入れということで、無一郎と蜜璃もしばらく手入れに行っていないから参戦で良いかな」
「そうだな…。
まあそれだけいれば余裕だろ」
「うん、じゃあそういうことで…」
と、最初のやり取りが嘘のように、なんともあっけなく人員が決定する。

まあ今生での巻き込まれはいつものことなのだが、それにしても前世ではほぼなかった上弦戦に毎回出動と言うのは我ながらすごいな…と、村田はそれを聞きつつ他人事のようにそう思った。









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