それは本当に快い勝利と言って良いものだった。
村田はまず救出された善逸と共に助け出した女性達を上弦の陸戦であちこちから色々な物が飛んでくるのに巻き込まれないように、少し離れたところまで誘導していたが、すぐ隠がかけつけてくれたので彼らに女性陣を預けて戦場へと急ぎ戻る。
と優しい善逸は心配そうに言うが、前回は宇髄と新人3人だけでも生き残ったのだから、そこに錆兎と義勇まで加わったらまず死なないだろう…とそのあたりを知っている村田は
「だ~いじょうぶっ!柱と柱と同等の隊士が揃ってて新人死なせるなんてないからっ」
と、元気づけるようにその背をポン!と軽く叩いた。
誰かが再起不能になるレベルの苦戦はしないだろうと村田は踏んでいた。
踏んでいたのだが、そうして急いで現場に駆け付けた二人が見たものは、その予想をはるかに超えた、なんとも現実離れした光景だった。
いや、鬼という存在自体がすでにおとぎ話のようで現実離れをしているのだが、今目の前に広がっている景色はそれにさらに拍車をかけている。
ちょうどキラキラと派手な額あてをつけた宇髄がこれまた派手な動作で斬ったところだったらしく堕姫の首が宙を舞い、その綺麗な黒髪が夜空に広がっていて、そこから少し離れたところでは、いかにも悪役然とした妓夫太郎に錆兎の力強い手に握られたキラキラ光を放つ青い刀から放たれた青い獅子が襲い掛かっているところだった。
そうして妓夫太郎の方から来る攻撃は華やかな着物の袖口を翻しながら義勇が振るう刀から広がる綺麗に澄んだ水面が吸収していく。
そこには村田が日々見てきた現実の戦いの泥臭さなど欠片もない。
まるで何かの芝居のように華やかなその冒険活劇に、いつのまにか一般の人々が遠巻きにそれを眺めつつ拍手喝采をしていた。
──いよっ!!いいぞ、桃太郎っ!!
──お姫さんも別嬪で強くて最高だっ!!
──キラキラ、よく魔物を倒したなっ!!
まるで歌舞伎の大向うのように、3人に声援を送る人々。
ここは本当に戦場か?!
どこぞの劇場じゃないのか?!
一応前世ではこの戦いで死人は出なかったものの宇髄が腕をやられて現役を引退することになったのもあって、村田も急いで駆け付けたわけなのだが、まるで娯楽の活劇のような状況に呆れ交じりのため息をついた。
隣では同じように心配していた善逸も
──なんだよ…余裕すぎでしょ…
と、気が抜けたように言ってその場にしゃがみこんでいる。
そうこうしているうちに妓夫太郎の方も片付いて、二人揃って喧嘩をしながら消えて行った。
恐ろしいことに怪我人もなし。
前世でのぎりぎり度が嘘のようだ。
まあ…敵の情報が完全にわかっていて、人手も充実していたからというのもあるのだろうが、現柱になって初めての上弦戦の勝利に歓喜する隠達をよそに、村田はあまりにあっけない勝利に唖然としてしまう。
「…びっくりした……。
上弦って…柱でも普通に殺されるって聞いてたんですけど、意外に弱い?」
と安堵しながらもやはり拍子抜けしたように聞いてくる善逸に、ああ、そう感じんのは俺だけじゃないんだな、と、村田は苦笑。
「う~ん…今回の鬼は一応陸だから上弦の中の最下層だけどね。
でもあれだ。
それでも宇髄や錆兎が強いんだろうね。
俺とかだったら余裕で死んでた程度には上弦の陸も強かったと思うよ」
と、そこはきちんと説明しておいた。
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