村田の人生やり直し中_69_変わり者の鬼再びっ

──店主と話がしたい。呼んでくれ。

いきなりそんな言葉と共に札束をバサリ!と突き出した男がいた。

女衒でもなければ遊郭に来て店主と話をしたいなどという人間はそうはいない。
しかし女衒にしては男一人だし、逆に札びらをちらつかせるのだから遊女を売りに来た側ではなさそうだ。

金を払うと言うのだから店の遊女に対する苦情でもなさそうだし、そうなると何故店主と話?と謎が謎を呼ぶ。

遊女の中には店主の錆兎は良い男だから、”そういう意味”で買いたいのでは?などと恐ろしいことを言い出す者もいて、ちょっとした騒ぎになった。


まずは村田が対応を…と思って出てみると、どこかで見たことのあるような顔である。

もちろんその顔を忘れたわけではないのだが、前回見た時にはあった瞳の中の文字がなく、なにより、──まさか鬼が揚屋に来ちゃう?と、そんな思いもあって、一瞬別人かと思った。

しかしそんな村田の淡い期待も
「あの鬼狩り…好いた女のために鬼狩りをやめたんだな。
それなら子が出来るようになる鬼を紹介してやるから、早々に子を作っておけと伝えにきた」
と言う壮絶な勘違いの言葉で打ち破られる。

いやいや、それは…と思いながらも、子を作れということならばここで乱闘に持ち込むことはすまいと、

「ちょっとした知人でさ、俺も立ち会うから錆兎に『鬼月さんが来たから俺の部屋で3人で話そう』って報告してきて」
と、下働きの少女に言って、とりあえず、と、上弦の参を自室へと案内した。


そこで錆兎を待つ間、上弦の参、猗窩座から告げられたのは、この近辺で花魁をやっている鬼が居て、その鬼が客から聞いた噂で、綺麗な少女連れの宍色の髪の男が近所の揚屋を買い取ってそこに籠っているという話を聞き、珍しい髪色だけに錆兎の事だと思ったとのことである。

その花魁の鬼と言うのはおそらく上弦の陸なのだろう。

猗窩座いわく、少しばかり面倒な女だがこちら方面にはちょっかいを出さないようにと重々言って聞かせたからという、実にありがたいが申し訳なくなるような話だ。

鬼のくせに意外に誠実で人が好さそうなその対応に村田はむしろ困ってしまう。
だが、すぐにやってきた錆兎は村田が告げられたことを猗窩座からそのまま告げられると苦笑して

「何故俺がここでこうしているかは言いたくない。
確かにお前は俺に対して誠実に対応してくれてはいるが、それでも俺は人間でお前は鬼で互いに立場が違うし、最終的に利害が一致するものではないだろう。
そうなると互いに互いの事情に踏み込むのは双方にとってよろしくない」
と答える。

もう本当に上手いなぁと村田は感心した。
嘘はつかず、ただ嘘を言いたくなるような都合の悪いことに関しては口に出さない。

それによって相手が誤解したとしても相手の自己責任だ…というやり方が出来るから、彼はお館様の補佐役なんて地位につけるのだろう。


その代わりにその言わない部分を隠すため言っても支障のない部分は敢えて必要以上に口にする。

「まあ…俺と義勇は互いに将来を誓い合った仲ではあるし、ずっと離れるつもりがないのも確かだ。
実はな、義勇は元男で血鬼術で女になって、その血鬼術をかけた鬼が逃げてしまったために男に戻れるめどがたっていない。
だが逆にその鬼が倒されれば即男に戻るのだろう。
だから女で居られるうちに子を作れるならそれはそれで嬉しくはあるのだが…」
と、その錆兎のぶっちゃけに猗窩座は目を丸くした。

「なるほど!
ずいぶんと幼い頃に女になったのか…。
今では元男だったなんて全くわからんな。
しかしそうか…お前にしてみたら鬼狩り達がその鬼を倒してしまうのは、あまりありがたいことではないのだな。
良かろう、先日から言っていた鬼は早急に送ってやる。
さっさと所帯を持って子を作って暮らせばいい。
大勢作っておけよ?
お前の血を色濃く継ぐお前の子孫が多ければ俺が長く強者との戦いを楽しめる」

………
………
なんだか盛大に勘違いが広がった気がする。

猗窩座は錆兎が女になってしまった義勇と出会って、過去を知りつつも恋人になったと思っているようだが、義勇が血鬼術で女になったのは前回猗窩座に会った後だ。
さらに…錆兎が揚屋を買って鬼殺隊から離れて暮らしているのも、義勇を女の姿にした鬼を倒すのを遅らせるためだと思っている模様…。

確かに錆兎は嘘はついていないのだが、微妙に誤解をさせるような言い方をしている。
これでバレたら揉めないか?
…と村田が思っていると、錆兎はそこは抜かりなく、

「俺の言葉をお前がどうとるかはお前次第だ。
だが、あまりにこちらに対して好意的な方向の解釈をされるのも申し訳ないのであらかじめ言っておく。
俺は嘘は一切言っていない。
だがさきほど言ったように、俺の立場的に言わない方がいいかもしれないと思っていることは言っていないからな。
俺の一番の優先順位は義勇で、義勇が健やかに過ごせることを第一に考えて行動している。
それがお前やお前の仲間、そのほか、世界中の人間や鬼の不利益になろうともだ。
俺が目指すのは義勇を平和な環境で幸せに過ごさせることで、義勇は産めるなら俺の子を欲しがるだろうからそれを叶えてやりたいと思っているが、お前が俺に何かしてやろうと思う義理はないし、俺が口にしても差し支えないと思って告げている事実だけでお前が俺の全てを理解は出来ないと思う。
だからそれでもと向けてくれる善意があるならありがたく受け取るが、それを向けるべきかやめるべきかはお前自身がよく考えて判断してくれ」
と、敢えて全面的に信じる猗窩座にストップをかけた。

しかしながら、その錆兎の制止はかえって猗窩座の信頼感を厚くしたようで
「本当に信用の出来ない輩なら敢えてそういうことは言わん。
お前は強くて信用できる男だ!」
などと満面の笑みで頷く。

本当にヤバいよ、こいつお館様バリの人たらしだよ…。
これだから上に立つよう育てられてきた奴は…
と、あきれ顔の村田には一切注意を向けることなく、猗窩座は上機嫌で帰っていった。







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