──別に情報を得るために潜入するなら強くなくてもいいんじゃない?
と、村田のいれたお茶をズズっと一口。
ついでに村田にと出された羊羹をブスっと楊枝で刺して口に放り込んで残りのお茶を飲みほして、お代わりを催促するように村田に湯呑を差し出したあとの百舞子の第一声がそれである。
「うん。だって元忍のそれなりに強い音柱の奥方達が3人揃って行方不明って、義勇ちゃん一人放り込んだところで同じことになるのがオチじゃない?
それならむしろ鬼殺隊に染まり切ってない新人君3人の方が怪しまれないで良いと思うよ」
「なるほどっ!」
百舞子の言葉に錆兎は目から鱗が落ちたとばかりに納得した顔でポン!と手を打つ。
義勇を一人で色々な意味での危険地帯に放り込まないで良いということで村田もその案には大賛成でホッとした。
そもそもが前世でも元々は炭治郎達3人が潜入していたわけなので、彼らはおそらく潜入しても無事戻れるだろうというのもある。
「そもそもがさ、”義勇君”が”義勇ちゃん”になっちゃった原因が彼らにあるなら、なおさらでしょ」
という言い分も確かに正しい。
もちろん普通に任務に必要なら錆兎の許可なしだったということを置いておけば義勇が加わるのもおかしなことではないが、あの任務で義勇が加わったのは不死川と炭治郎の不仲の仲裁という、極々私的なもめごとが理由である。
その結果が本来ならその任務に就く義務のなかった義勇の少女化なのだから、もともと例の任務に従事するはずだった4人に責任の一端があるというのはもっともな主張だ。
目に見えて機嫌のよくなる錆兎に安堵する村田。
そこで百舞子はちゃっかりと
「でもさ、本来なら花魁姿の義勇ちゃんを見れたかもしれないわけだし、任務に入れないとしても華やかな着物着た姿は見たいなぁ…。
ね、用意するのはあたしがやるから、錆兎君お金出して着させて見てくれない?
義勇ちゃんを危険に放り込まないで済むんだからそれくらいいいよねっ?!」
などと錆兎にすり寄る。
「百舞子っ、お前なぁっ…」
と、せっかく機嫌の直った錆兎を刺激したくなくて村田は慌てて止めようとするが、錆兎の機嫌は思ったよりも急上昇したらしく、
「ああ、いいぞ。
義勇も女の着物を着るのには全く抵抗がないらしいし、金なら好きなだけ出すから百舞子から見て義勇に一番似合うと思う着物を用意してやってくれ」
などと大盤振る舞いだ。
「やったぁっ!!
義勇ちゃん、絶対に絶世の美少女花魁姿になると思うっ!
新人君3人も可愛い顔してるしねっ!
お化粧しがいがあるわぁっ!!」
とそれに百舞子が狂喜乱舞。
義勇のためというよりも、全員に可愛く化粧を施してみたいという自身の趣味全開の提案だったのだろうが、ここはそんな百舞子の特殊な趣味も目をつむろう。
村田も…そしておそらく錆兎もそう思っている。
「…というわけで、百舞子案を採用させるため、村田は悪いがまた百舞子を説得役として同伴させてお館様の所に説明に行ってくれ」
結局その手のやりとりは自分かぁ…と思わないでもないが、それでもお館様の命を受けて錆兎の所に来た時よりは数段気が楽だ。
こうして村田は百舞子を伴って依頼した結果を待つお館様の元へと戻っていった。
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