「…村田……お前も鬼殺隊に属している以上、お館様の命となれば断れないのはわかるけどな……」
今回…村田は今更ながら、錆兎の自分に対する厚い厚い友情を見ている思いがした。
たぶんこれ、お館様相手だとしても一発殴るくらいはしてるんじゃない?
と思うくらい、錆兎のこめかみに血管が浮かんでいる。
そしてそこでその怒りを抑え込むようにぎゅっと握られた拳が膝の上でプルプル震えていた。
「わかってるっ!
俺も無理だって言っちゃったし。
でも説得するだけしてみてって言われて…」
と言いつつ、一応結論だけではなくお館様が話されたその結論に至った理由なども全て伝えてみたが、錆兎はただただ色々溢れ出そうな感情を吐き出すように、はぁ~と大きく息をついた。
ああ、怒ってる…。
これ、怒ってるよね…と、村田もさすがに申し訳なさ過ぎて視線を合わせられない。
「…元々が男だからとか女だからとか…そういう理由じゃないよね…。
嫁入り前だろうと婿入り前だろうと…万が一があったら傷つくのは同じだし……」
と、わざわざ自分の首を絞めるようなことをついつい口にする村田に、錆兎はまたため息をつく。
「男だからと言って貞操を汚されて傷つかないわけではない…。
好いた相手が居ればなおさら合わせる顔がないと思う人間も多いだろう。
耀哉は”俺の”相手だから”俺は”許してくれるだろうと思っているのだろうが、これは俺ではなく義勇の問題だ。
俺に気の置けない相手対する甘えがあるのはこの際仕方がないが、義勇は俺の所有物ではないし、どう扱っても良いというわけではない。
お前にもわかることが何故聡い耀哉にわからないのだろうな…」
それはおそらく…我儘を言ったり地を出したりしていい相手が他にいなかったから…。
その距離感がわからないんだろうな…と村田は思うわけで…。
逆に錆兎も他の人間に対しては察しの良い人間なのに、お館様に関してはわかっていない気がする。
どちらも相手に対して気の置けない友人と思っているのがわかるだけに、なんだか困ってしまう。
そして…空気が重い。
しかしその時!
突然居間の障子がガララっと開いて、
「そんなの新人君たちにやらせればよくない?
なんなら可愛い禿に見えるよう、あたしがばっちり化粧してあげちゃうよ?」
と、振ってくる声。
そこには何故か同期の衣装担当の隠、百舞子が目をキラキラさせて立っていた。
「え?百舞子、お前なんでここにいるの?!」
と村田が驚いて目を丸くすれば、百舞子は
「これっ!義勇ちゃんの隊服っ!
ほら、女の子になっちゃったからさ、今までの隊服だと若干ブカブカだから新しいの作ってもってきたのよっ」
と、相変わらずどこか裾がヒラヒラした感じの隊服を広げて見せる。
「どう?せっかく女の子になったから前のより少しギャザー寄せてスカートっぽさをマシマシにしてみたんだけど」
と、錆兎に笑顔を向ける百舞子に、それまで厳しい顔をしていた錆兎も毒気を抜かれたように
「ああ、いいな。可愛らしく出来てるな。
さすが百舞子だ」
と、笑みを返した。
一気に空気が変わってホッとする村田。
そしてその後、許可も取らずに居間に入ってどっかりと座り込んだ百舞子は、
「村田、あたしにもお茶っ!」
と非常に上から言ってくれたが、もうこの空気を変えてくれるなら何でもよい、と、村田は、はいはい、とおざなりな返事をしつつ、かつて知ったる錆兎の家の食器棚から湯呑を一つ追加で出して、テーブルの上の急須に湯を注ぐと、百舞子にも茶をいれてやった。
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