村田の人生やり直し中_64_ザ・交渉人

「………村田、俺はお前のことを確かに信頼している。
だが、今回のこれは……おそらく耀哉の差し金なんだろうが…」

村田はかろうじて善意の第三者に八つ当たりはするまいと怒りをこらえているような笑顔の親友を前に、たら~りたら~りと冷や汗を流す。

だから嫌だったのだ。

確かに自分が錆兎に特別に信用されて色々が許されているのは自覚している。
しかしその最初の理由は初対面の時に義勇をかばって怪我をしたからだ。
そう、義勇に害を与えず守ってくれる相手、それが錆兎の信頼のバロメータだ。
だから義勇を危険に晒すような提案は当然却下されるのである。


そもそも村田だって引き受けたくはなかった。

例によっていきなりのお館様のお呼び出し。
お館様直々に村田を呼びつける理由なんて、もう一つしかない。
そう、錆兎に対する説得要員としてである。

たいていの隊士は柱を含めて随分すごい無茶ぶりだとしても、お館様に説得されてしまう。
なんというか、お館様は実にそのあたりが上手いのだ。

そんな中で幼い頃からの付き合いだからだろうか。
お館様が唯一説得できないらしい相手が彼の補佐役にして彼の息子の教育係でもある、この男だ。

説得できないどころか、道理が通っていなかったりするとあのお館様ですら叱られるらしい。
前回、錆兎の許可なく錆兎の管理下である継子の義勇を連れ出して、あまつさえ血鬼術を食らわせてしまったということで、その現状を自分が錆兎に伝えると叱られるからと、何故か説明役を押し付けられたのは、記憶に新しい。

その時は村田が悪いわけではないからと村田自身は欠片もお咎めはなく、お館様に対しても、決まり事を守らない大人の姿を見せるのは輝利哉様の教育上とても宜しくないと言う面でのお叱りはあったようだが、村田でワンクッション置いたおかげで激怒するとかはなかったようである。

その時もいきなりのお呼び出しだったため、今回もそうだろうと気は進まなかったのだが、柱であっても鬼殺隊の隊士である村田に拒否権などあるわけがない。

おそるおそる御前に出れば、やはり想像した通り錆兎を説得して欲しいとのことだった。

「今度の任務ね、上弦の陸絡みなんだけど、場所が遊郭なんだよ。
それで宇髄の3人の奥方が先行して潜入したんだけど、3人とも先日から連絡が取れなくなっていてね。
男だと潜入しづらいし、かといって場所が場所だけに嫁入り前のしのぶや蜜璃を送り込むのも気が引けてね。
そこで今ちょうど義勇が女性になっているし、しのぶ達と違って彼は一生女性として生きていくわけではなくて、最終的に男性に戻るから。
もちろんそれでも万が一は起こらないように手は尽くすけど、それでも絶対とは言えないしね」

う~ん…聞きたくはない。聞きたくはないし予想も出来るけど、このままだと長くなりそうだ。

──…で?結局、俺に何をさせたいんですか?

………言ってしまった。
少し前なら考えられないところだが、あの一件から日々、錆兎に”耀哉”について聞いていたので、何かタガが外れてしまったようだ。

お館様の話を遮るなど言語道断なはずなのだが、ついつい口が滑って出てしまった言葉にお館様は気分を害されたようすもなく、むしろホッとしたような表情でのたまわる。

──うん。義勇をね、花魁として遊郭に潜入させてくれるよう錆兎を説得して欲しいんだ。
──無理っ!!

ああ、また言っちゃったよ。
と、村田は我ながら失礼すぎる態度に絶望するが、お館様はやはり怒ることなく、
──そこをなんとか…
と、飽くまで下手に出られる。

そう、上から命令口調ではなく、”お願い”という形なのだが、断っても断っても諦めてくれる様子がない。

これは“うん”と言うまで帰さないつもりらしい。
そこでお館様を放置で勝手に帰るなんてことまでは、さすがに村田もする勇気がなかった。

結果、
──聞くだけは聞いてみますけど、それだけは無理だと思いますよ?
と結論を先送りするしかなく、
──君ならきっと説得できると信じてるよ。ああ、良かった。
と、笑顔のお館様に見送られて産屋敷家を出たのは午前中に来て昼を挟んで数時間後…夕方の事であった。










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