──…全く…耀哉は……
翌日…産屋敷家の敷地内にある錆兎と義勇が住んでいる離れで村田は錆兎を待たせてもらっていた。
そうして疲れてはいるが任務自体は速やかに終わってすっきりとした様子で家に戻ってきた錆兎は出迎えた村田とその隣の美少女を見て、──ただい…ま?…と、彼にしては珍しく唖然とした様子で問いかけるように村田に視線を向ける。
そして村田の困ったような苦笑いで何かを察したらしい。
はぁ…と片手を額に当てながら大きくため息をつくと、
「お前が居るのはお館様の差し金だな?
とりあえず中に入ろう。
義勇は茶を一杯入れて来てくれ」
と、履物を脱いでまっすぐ居間に向かった。
「うん、わかったっ」
と、この状況でも何故か嬉しそうにそう言って小走りに台所に向かう義勇。
村田は錆兎の後を追う。
そうして羽織を脱いで床に置くと、錆兎はドカッとテーブルの前に座り込んで
「で?何故義勇が女になっているんだ?」
とどこか呆れたような様子で村田に聞いてきた。
そうして村田が前日にお館様から聞いたことを全て話すと、錆兎の口からため息と共に零れたのが冒頭の言葉である。
え?耀哉?
錆兎、お館様を名前で呼び捨てした?!
え?ええぇっ??
驚いた顔をする村田に気づいて、錆兎は己の失言に──しまったっ!という顔をしたが、村田がふと思い出して
「…そういえばさ、この話をされた時にお館様が自分から話すと錆兎にすごく叱られるからって言ってたんだけど…マジ?」
と聞いてみると諦めたようだ。
──俺を誰だと思っている。輝利哉様の教育係だぞ。
と小さく息を吐き出しながら言う。
「…??」
「つまり、だ。正しいお館様像というものを教えて行かねばならないんだから、一番身近な手本にはそれなりの態度を見せてもらわねばならないだろう?
だから耀哉が輝利哉様の手本としてふさわしくない態度をとれば、当然苦言を呈することになる」
「………」
「…?なんだ?」
「うん…あのさ、お館様の言葉の意味はわかった。
あと気になるのは……それとお館様を呼び捨てしてんのと関係あるの?」
「…っ!あ~、そっちな」
村田の言葉に錆兎は苦笑。
「実は…俺は自分の実家にいた頃から耀哉と付き合いがあるんだ」
と、驚くべき事実を告白した。
「家が有名な剣術家なのは知っていると思うが、耀哉は子どもの頃に自分も隊士を送りだすだけじゃなくて、自分も一緒に戦いたいとか言い出したことがあってな。
それならと俺の実家に剣術を習いに来てた時期があったんだ。
その時に剣術の相手をしたのが俺でな。
耀哉は友達いないし、本人から2歳年下なだけだったから友のように接してくれと頼まれて普通にため口をきいていた。
もちろん公私のけじめは大切だから、今はそういう言い方も二人きりの時だけだけどな」
「うわぁ…お館様の友達って…」
確かにお館様とて人間なので友人の一人も居たところでおかしくはないのだが、想像がつかない。
しかし納得はした。
なるほど、気の置けない友達だから”すごく叱られる”のだろう。
まあ…一般の隊士として鬼殺隊の頂点の存在としてのお館様と出会った村田にしてみれば、それでも『耀哉は友達いないから…』なんて言い切る錆兎は恐ろしいとは思うが…。
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