──お前はまた口元汚しやがってぇ……
などと不死川あたりなら苦言を呈しているところだろうが、錆兎は口の周りを盛大に汚しながら弁当を食う義勇の頬についた米粒を黙って指先で取ってやりながら自分も弁当を食っている。
もう汚すなとさえ言わず、これが当たり前といった感じの自然さである。
そうして義勇の口元や頬から取ってやった米は当たり前に自分の口へ。
村田は不本意ながらもそんな近すぎる二人の食事風景など慣れてしまったのだが、そういう意味では他人を気にしない伊之助以外の二人…炭治郎と善逸はそんな錆兎と義勇を凝視している。
「…あの二人って…なんなの?あの距離感…」
「ああ、幼馴染でずっと一緒だからねぇ…」
と、善逸に
「錆兎いいなぁ…。
俺が隣で義勇さんの世話したいです」
「あれは錆兎だから黙ってやらせてんの。
他なら構うなって言うか、潔く食うのやめるよ」
と、炭治郎にそれぞれ答える村田。
そんな3人の目の前で、全く周りに構わず義勇はじ~っと錆兎の弁当を覗き込み、それで錆兎は苦笑交じりに
「…これか?」
と、義勇が好きなのであろうおかずを自分の弁当から箸でつまんで、あ~んとひな鳥のように口を開ける義勇に食わしてやっている。
互いに私服なのもあって本当に緊張感がない。
ただの夫婦か好いた男女の旅行風景だ。
いや、ただの、ではないか…。
錆兎の方は着物の上からでもそれとわかるほど鍛え上げられた筋肉質な体躯で男らしい凛々しい顔立ちをしていて、義勇は確かに男であるのに女性の着物を着ていても全く違和感がないどころか、鬼狩りの仕事が夜なせいだろうか…元々の透き通るような白い肌もそのままに、澄んだ大きな青い瞳が美しい女性にしか見えない。
つまり…“ただ”のではなく"絶世"の美男美女の旅行風景というのが正しい。
さらに言うなら、錆兎の義勇を見る目がとても優しくて、義勇が錆兎を見る目はとても甘いので、余計に同性に見えない。
というか、炭治郎達を含めて、この車両に乗っている村田以外の人間はみな、二人がそういう関係の男女であると信じ込んでいる。
「…偉くなればあんなのも許されるんだ……」
「…ああ、義勇さん……いいなぁ…」
と、二人を見ながらため息をつく善逸と炭治郎は伊之助に容赦なく弁当からおかずをかっさらわれているのにも気づいていないのがご愛敬だ…と、村田は伊之助の箸が伸びてこないうちに、と、そんな面々に構わずに自分の弁当を黙々と食べることにする。
前世で柱が一人死んだなんて信じられないくらいの平和さで始まったこの任務。
その後は前世で炭治郎に聞いていたように下弦の壱に眠らされて幸せな頃の夢をみて心が揺れたのだが、村田はそれからの戻り方を知っている。
だから自力で夢を振り切って戻ってみれば、あまりに幸せな夢すぎて若干戻る決意をするのに時間がかかった村田とは違い、眠らされたと気づいて即決断し戻ったのであろう錆兎がすでに禰豆子に指示をして眠った皆を起こさせていて、村田が目を覚ましたのを確認すると、
「一応皆が起きるのを確認したら乗客の警護をするよう指示しておいてくれ」
と言いおいて、自分は本体を斬りに機関室へと走り去っていった。
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