村田の人生やり直し中_53_那田蜘蛛山

あの日から1週間ほど経った頃、村田は宇髄と共に那田蜘蛛山の任務の助勢に向かうことになった。

この人選は単にたまたま手の空いていた柱二人というだけで意味はない。

前世では村田は助勢されるほうで、蜘蛛の糸の繭のようなものに捕らわれていたところをカナエの妹で当時は蟲柱だった胡蝶しのぶに助けられたのはいいが、繭に服を溶かされてうら若い乙女である彼女に全裸を見られたというなさけない黒歴史であった。

そんな自分が今生では柱として助勢に向かっているのだから、人生なんて何が起こるかわからないものだ…と、感慨深く思う。


前世では下弦の伍と退治してボロボロになっていた炭治郎に、彼を助けに来た義勇が
「俺が来るまでよく堪えた。後は任せろ」
などと言ったらしい。

今生のあのぽよぽよっ子な義勇を見ていると信じられない。
というか、むしろ錆兎の方がそういう台詞を言いそうだな…などと思いながら、村田は宇髄と二手に分かれて隊士を救出すべく那田蜘蛛山を走った。


そうして見つける炭治郎。

おそらく前世もそうだったのだろう、ボロボロの状態で踏ん張っているまだ本当に新米隊士の彼に、村田はいつも他の隊士にもそう接しているように
「炭治郎、すごく頑張ったな。
もう大丈夫だから俺にまかせて少し休んでて」
と、賞賛といたわりの言葉をかけて、自身の日輪刀を抜く。

前世では下弦どころかその手下にすらいいようにやられていた自分が今下弦とは言え十二鬼月を前に当たり前に戦うつもりであるのがすごいな、と、他人事のように思いながら、村田はそのまま目の前の鬼に集中した。

時折り一緒に戦うことのある錆兎や他の柱達のように軽々と倒せる気はまだしない。

とにかく今まで学んできた水の呼吸の型を脳内で反復しながら、緊張しすぎないように…でも、油断もしないように、相手を斬る場面をイメージしながら刀を振るうと、脳内の画像を綺麗になぞるように動く剣先と飛ぶ鬼の首。

それが地面に落ちて体と一緒に砂となってサラサラと風に舞ったところで村田はようやく息をつく。

そうして緊張がようやく解けて、さあ炭治郎に向き合おうかと思った瞬間、飛んでくる刃。
それはもちろん村田に対してではなく禰豆子に対してで、村田は慌ててその間に入る。

ちょっと待ってくれっ!と、とりあえず炭治郎達に逃げるように言いつつ宇髄の引き留めに入る村田だが、鋭敏さで村田が宇髄に敵うはずもなく、有無を言わさず炭治郎達を追う宇髄を必死に追っていた。

しかしそこでなんとかお館様からの停止命令が間に合って、二人の事は緊急で開かれることになった柱合会議で話されることになり、村田は今度こそ本当に安堵の息をつくことになった。

まあ少なくとも今の様子を見る限り宇髄は認めない気満々のようだし、前世で考えると他の柱の反対もすごいだろう。

唯一、普段から鬼とも仲良くを口にしているため味方してくれそうな胡蝶カナエが生きているのが救いと言えば救いだろうか…。

あとは前世よりも良さそうなのは、前回は口下手だった義勇だけだったのが、今回はそれよりは説得上手な錆兎がいて、義勇よりはいくらかは説得が出来るであろう自分が炭治郎達に対する責任者なことくらいだろうか…。

それでも絶対ということはない。
心して会議に臨まなければ…

本当に胃が痛くなりそうなことが目白押しだが、とにかくやるしかない。
そう思いながら、村田は重い足取りで那田蜘蛛山を後にした。








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