──義勇さんて綺麗な方ですねっ!!
炭治郎が最終選別を超えて無事隊士になり初任務に就くのに狭霧山から街に降りてきた。
通常は新米隊士達は任務の時以外は藤の家と呼ばれる協力者の宿に泊まりながら日々を過ごすのだが、鬼である禰豆子付きの炭治郎にはそれも難しいだろうと、村田は彼を水柱屋敷で預かることに。
なので迎えに行った時の第一声がそれだ。
と、こちらはこれから始まるであろう諸々に頭を悩ませているというのにあまりにのんきな炭治郎の言葉にさすがの村田も呆れた声で返す。
今回、炭治郎が最終選別を受けるに当たって、一応村田も狭霧山に足を運んで鱗滝元水柱に今までの礼を言いつつ炭治郎が戻るのを待つことにしたのだが、本当なら一緒に来る予定の錆兎に外せない予定が入って、代わりに義勇が同行することになったのだ。
炭治郎を預けるのに鱗滝元柱を説得に来た時は逆に義勇は留守番で錆兎だけだったのもあって、炭治郎が義勇に会ったのは前世とは違ってこの最終選別後に狭霧山に戻った時が初めてになる。
ゆえにその言葉なのだろうが…目をキラキラさせて言う炭治郎には少しばかり嫌な予感がしないでもない。
「うん…まあ義勇は綺麗な顔立ちはしているとは思うけどね…」
と、当たり障りのない返事を返す村田だが、炭治郎の方は容赦なくぶっこんで来た。
「ですよねっ!でもなんか話題がほぼ錆兎の事ばかりだったんですけど、義勇さんと錆兎って兄弟弟子以上の何かがあるんですか?」
ああ、もうお前遠慮って言葉が辞書にないのか?と思いつつ、村田はまず先に突っ込んでおくことにする。
「あのな、炭治郎。
錆兎については俺は昔馴染みで親友だから錆兎って呼んでるけど、本当は俺だってあいつには”さんづけ”しないとダメなくらいなんだよ?
だから当たり前だけどお前は”錆兎さん”って呼ばないとダメな相手だからね?
縁もゆかりも義理もないのに俺の無茶を聞いてお前を大切な師範に紹介してくれた恩人っていうのもあるけど、それ以上にやつは鬼殺隊ではお館様に次いで2番目に偉い人だからっ」
「えええーーーっ?!!!!」
その村田の言葉は炭治郎をたいそう驚かせたようだった。
驚きに目を丸くした炭治郎は身を乗り出して
「だってっ!だって、俺がずっと鱗滝さんの最終試験の岩を斬れないで行き詰ってた時とか、普通にひょいっと遊びに来たついでとか言って稽古つけてくれてたから、暇な下級隊士なのかと思ってましたっ」
などと言うから、村田は青ざめて大きく息を吐き出す。
これ…他の誰かに聞かれたら炭治郎の隊士生活が終わるところだったかもしれない。
錆兎は隊士達の憧れで目標で…全女性隊士の半数以上くらいには恋されているような男だ。
それを軽々しく呼び捨てをして暇な下級隊士扱いなんかしたら真面目に隊則をかなぐり捨てて斬り捨てようとするくらいのガチ勢は少なくはない。
「…お前…ねぇ……少なくとも錆兎はたぶん鬼殺隊で一番忙しい男なんだよ?
お館様の代理で大きな作戦の指揮をして隊士を鼓舞したりすることもあれば、柱の手が空いていない時には柱じゃないと無理な難しい任務に入る時もあるし、なによりお館様の代理で鬼殺隊の中枢の仕事をこなすこともあるし、次代のお館様になられる輝利哉様の教育係でもある。
少なくとも柱の俺の数倍は忙しい。
そんな人間がね、最終試験を超えられずに煮詰まっているお前のためにわざわざ色々時間を詰めて詰めて合間を縫って来てくれてたのっ。
真面目に感謝しときなさいっ。
…ってか、そうじゃなくても自分に刀を教えてくれていた相手を呼び捨てはダメでしょ」
と、これはその認識を持たないで他に話すとそれでなくても禰豆子が居ることで危うい炭治郎の立場が救いようもないレベルで危うくなるので村田にしては少し真面目な口調で注意すると、炭治郎は混乱しつつも
「えっと…最初に錆兎が錆兎って呼べって言ったから…。
でも確かにそれは”さんづけ”しないとダメなとこでしたね。
これからは”さんづけ”して、あと、お礼の手紙を書いて送っておきます」
と、素直にそう認識を改めたようで、村田もホッと胸をなでおろした。
しかし確かに炭治郎は素直な少年で正しい注意をされればすぐ態度や言動を改めたりはするのだが、それ以上の空気は読まないか読めないらしい。
「じゃあ錆兎…さんについてはそういうことで。
ということで…義勇さんと錆兎…さんってただの兄弟弟子じゃないんですか?」
とかましてくれて、村田はおおいに脱力したのである。
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