「俺ははっきり言ってずっと弱いよ。
強かった時期はないと言い切れる。
まず誤解を解いておくと、俺が強いと思われたのはめちゃくちゃ強い錆兎がそう思われるような発言をしたから。
それだけだからねっ」
「そう。自分が助けられなかったのに俺が義勇を助けたっていうやつ」
「…あ~きいたことあるわ」
「うん、もう有名な話になっちゃったみたいなんだけどね…。
あれ、錆兎が前で鬼斬ったりしてて、俺は義勇の隣に居てたまたま鬼に気づいただけ」
「…それだけ…か?」
「ん~~正確に言うと、義勇が鬼に襲われかけて俺はそれかばって腕に軽い怪我を負ったんだよね。
それで気づいた錆兎が戻って来てその鬼を斬り捨てたってのが真実。
俺が最終選別で鬼と関わったのってそれだけよ?
一体だって鬼倒したりしてないよ?
でも錆兎いわく義勇が傷つかないように動いてくれた=義勇を救ってくれた…ってことらしい。
でも錆兎が助けられなかった状況で俺が義勇を助けたとか言うと俺が鬼倒したみたいじゃん。
で、いつのまにか錆兎が俺を強いって言ったって話が変わっていって、任務に放り込まれると一緒の任務の奴らに一番難しいあたりを任されたりするようになっちゃったわけ。
俺も死にたくないからさ、毎日必死。
死なないために休みの日も鍛錬。
錆兎も責任感じて暇を見つけては稽古つけてくれてさ。
辛すぎてなるべく一人でやる任務回してもらって、その代わり数だけはこなしてたら階級あがっちゃったってわけ。
まあね…それでも隊士を続けてたのは、最初は師範への恩かな。
だってさ、俺、家族どころか町ぐるみで皆鬼に殺されて、何にもなくなったところに引き取って飯食わしてくれたのが今の師範なわけよ。
拾われてから入隊まで数年間、隊士を育てる仕事だったとしてもさ、俺はその期間確かに師範に飯食わして生かしてもらってたわけでしょ?
勝手に拾ったとか、自分が望んでそういうことになったんじゃないとかはなしね。
だって俺は無理やり飯詰め込まれたわけじゃなくて、自分で口に入れて自分の意思で飲み込んだんだからさ。
だから確かに師範に救われたし恩はあるんだよ。
その恩を返すにはさ、やっぱり師範が育てた俺が立派に隊士として鬼斬り続ける事しかないじゃん。
そしたら師範はちゃんとした隊士を送り出した育て手ってことになるしさ。
喜んでくれると思ったんだ」
「…俺の師範は去年死んだけどなァ……」
「墓に報告しないとだめだよ。
少なくとも自分が育てた隊士が生きて鬼を斬り続けたってだけでも十分立派なことだけど、柱に就任したって言うのは育て手にとってもすごいことなんだから」
「…実力もねえのに……」
「だ~か~ら~、俺も始まりは完全な誤解だっつってるでしょうがっ。
つか、今でもさ、他の柱とかと一緒に居ると少しだけな、みじめな気になるよ?
俺だけ圧倒的に弱いし。
でもさ、最初はやらなきゃ死ぬしくらいな感じでこなしてた鬼狩りだけどさ、後輩出来たりして、本当に自分の方が少しだけね強かったりして、色々助けられるようになって助けられるところは助けるようにしたりするようになったらさ、なんだか慕ってくれる後輩とか居るらしくてさ。
俺、サラサラさんとか呼ばれてるらしいよ」
「…知ってる。
…強くて冷静で優しい理想の上官らしいぜぇ…サラサラさん」
「げっ!!お前まで知ってんの?!」
「……有名な話だァ…。
それが水柱になったってんで、周りがはしゃいでやがった…」
「…ん~、強いって言うのは本当に誤解なんだけどね。
俺は錆兎にさんざん稽古つけてもらってもなお柱最弱どころか下手すれば甲や乙の隊士より弱いよ。
でも柱になったからには他が安心できるようになんとか頑張るしかない。
いつだって俺は出来るからやってるんじゃなくて、やらなきゃ仕方ないから必死にやってるだけ。
まあ…言うよりも見る方が早いよな。
今回鬼が出たら最初俺だけでやってみるな?
それで俺が強くはないってわかるから。
で、不死川の気持ちが落ち着いたら参戦してきてよ。
それまではなんとか死なない様に頑張るから」
「…おう……」
「ちなみに…今回の敵は下弦の参ね。
一般隊士が6人ほどで遭遇して戦闘中だから、実力があろうとなかろうと彼らを安心させてやるのが一番の仕事だから、自分は柱じゃないとかはなし。
お前が師範に弟子入りしてからお前に関わってきた人間はみんな、俺のところと同じでお前がただひたすらに鬼を斬って周りを守り続けていくことを喜んでくれると思うよ?」
「………」
「そろそろ現場だ。行くよっ!!」
根は真面目な男だ。
このあと色々ごねたとしても、戦いの最中はきちんとやってくれるだろう。
そう信じて村田は不死川の返事を待たずに前方に見えてきた現場である森へと飛び込んで行った。
0 件のコメント :
コメントを投稿