鬼舞辻無惨の間者は宍色の髪の少年の夢を見るか?_09_鱗滝ファミリー

熱が下がればあとは早かった。
念の為1週間医療所にいて、退院の日は錆兎が迎えに来てくれた。

薬は錆兎の方がしっかりしているからと、錆兎が管理するということで錆兎に渡されていて、義勇の身の回りのものは錆兎が義勇の師範のところに取りに行っておいてくれたらしい。

義勇は松庵の失踪を知らない事になっているので、一応知らなければ気にするだろうと、自分が挨拶に行かないで大丈夫だったかと錆兎に尋ねたが、錆兎は師範は事情があってしばらく帰らないと聞いたから、家人にきちんと事情を話した上で挨拶をしてきた、と、実に彼らしいしっかりした対応をしてきてくれたことを知った。


住まいは鬼殺隊の方で用意をしてくれたらしい。
街の中心からは少し外れた場所の小さく古いものではあるが、一応一軒家。

「建物は古いが、中はきちんと掃除をしたし畳も替えた。
小さくとも俺たちの新居、隊士生活の始まりの場所だ」
と、嬉しそうに繋いだ手を引っ張って中に入る錆兎に、義勇も嬉しくなってくる。

しかし中にはいると草履が一足。
あれ?と思っていると、

「おかえり~!とりあえずご飯は作ったし、布団も敷いておいたから疲れているようならすぐ休めるよ」
と、奥からパタパタという足音とともに、小さな狐の髪飾りをつけたとても可愛らしい女性が出てきた。

服装は隊服なので鬼殺隊の世話係か何かの人なのかとも思ったが、それにしてはどこか錆兎と距離が近い気がする。

そんな事を考えていると、女性は義勇に視線を向けると、うわぁ~と笑みを浮かべた。

「かっわいい~~!!そりゃあ錆兎が構うわっ!!義勇くん、入って入ってっ!!」
と、いきなり錆兎とつないでいるのと反対側の手を取られてびっくりする義勇。

え?え?とひたすら戸惑っていると、錆兎が、ていっと彼女の手に軽く手刀を落とす。
軽く当てただけだが放される手。

「真菰、義勇を驚かすなっ!とりあえず居間で紹介するから茶をいれてくれ」
と少し苦言を呈するような…しかしどこか距離が近いような感じに言う錆兎に、女性、真菰は
「ごめ~ん!じゃ、すぐいれてくるから居間で待っててねっ」
と、またパタパタと奥へと走っていった。

それを見送って、小さく息を吐き出す錆兎。

「騒々しくてごめんな?
あれは俺の姉弟子の真菰。
俺と真菰とあとまだ先生のところにいる弟弟子と妹弟子は、兄弟みたいに育ってて、1年前から鬼殺隊士としてこっちにいる真菰に家の掃除とか諸々手伝ってもらってたんだ」

と錆兎から説明があり、なるほど、だからあんなに親しげだったのか…と、義勇は思う。

そして言う。

「…ううん。少し驚いただけ。
俺こそごめん。お礼…言わないと…」

「あ~…気は使わないでいいから。
それより久々の外で疲れただろ。中に入ろう」
錆兎に言われて草履を脱いで中に入る。

廊下の奥にはおそらく台所。
左側にある部屋が居間らしい。

畳を替えたという錆兎の言葉通り新しいい草の良い香りがする。
その広いとは言えないが居心地のいい小さな居間の中央には丸いちゃぶ台。
そこに並んで座ると、真菰がお茶をいれてきてくれる。

まず義勇に、そして錆兎、自分と順番に湯呑を置くと、真菰はにこにこと人懐っこい笑みを浮かべた。

「えっと、さっきはいきなり驚かせてごめんね。
私は真菰。見ての通り鬼殺隊の隊士で、錆兎とは同じ師匠のもとで一緒に育った姉みたいなものなの。
で、先生のところに帰るなり義勇が義勇がって大騒ぎするから、会ってみたくてね、押しかけちゃった」
と、やはりにこやかに言う真菰に
「真菰っ!余計な事は言わないでいいっ!!」
と、錆兎が年相応の少年のような顔ですねたような照れたような風に言う。

「恥ずかしがらなくても良いじゃないっ。
私達ずっと狭霧山で兄弟弟子以外と会うことがほとんどなく育ってるからね。
ものすご~く久々に出会ったのがこんな可愛い子だったら、そりゃあ構い倒したくもなるわっ。私でもなるっ。
錆兎が家族になるって決めた子だったら、私達にとっても家族だからねっ。
義勇君が記憶なくしちゃったんなら、うちの子になっちゃいなさい。
鱗滝一家総出で面倒見るし、私の事もお姉ちゃんだと思って気軽に頼ってね」

…ねえ…さん……

それはなんだか懐かしい響きに感じる。

今まで姉の事を考えると亡くなった日のあの凄惨な光景ばかりが思い出されたが、何故だろう…錆兎だけではなく、真菰もどこか明るく温かい空気をまとっていて、義勇は久々にあの最期の日以前の、姉の明るい笑顔を思い出した。

そんな風に考え込んでいると、
「義勇?」
と、錆兎が心配そうに顔を覗き込んでくるので、義勇は慌てて首を横に振る。

「いや…何も覚えてないのに、なんだか、ねえさんて響きが懐かしい気がして…
もしかして真菰さんみたいな人だったのかなぁ…なんて…」
と、記憶をなくしている事になっているのだからと、そう言って少し笑みを浮かべると、

「あ~真菰って呼び捨てでいいからねっ。なんなら、ねえさんて呼んでもいいよっ!」
「真菰に”さん”は要らないからな。俺にも真菰にも気軽にな」
と、真菰と錆兎に両側からぎゅうっと抱きしめられる。

「え?え…あ……ああ、じゃあ、俺も“義勇”って…」
「うん、わかった!義勇、とりあえず今日はゆっくり休んで、体調が大丈夫なようなら、明日は狭霧山に行こうっ!」

「はああ???」
いきなりの真菰の宣言に錆兎が驚きの声をあげる。

「何とつぜん言ってんだよ、真菰!」
「だって、そうと決まれば鱗滝さんと、炭治郎、それに禰豆子にも紹介してあげないとねっ!」
「いや、それはそうだけど、昨日の今日だと義勇も疲れるだろっ!」
「だって任務入っちゃうとなかなか時間取れないしさ。
街中抜けたら錆兎が抱えてってあげればいいじゃない」

「あ~…それは良いけど…」
と、そこで錆兎がちらりと義勇に視線をむけた。

そして
「あまり一度に人に会うと義勇疲れないか?」
と言う錆兎の背を真菰がバ~ン!と叩いて
「錆兎~~!!普段Noukinなのに、義勇にだけ細やかだねっ!」
と、言ってケラケラ笑う。

それでいて、それでも真菰は
「うん、しんどかったらね、ちゃんと言って良いからね?
気を使わないで言いたいことは言う、それがうちの家族だから」
と、優しい顔で義勇の顔を覗き込んで頭を撫でてきた。

真菰も錆兎と一緒でどこかほわほわと温かい。
きっとこの二人を育んだ鱗滝元水柱も、一緒に暮らしていた二人の弟妹弟子達も温かい人たちなのだろう。

おそらく…いかにも怪しいのであろう自分のことを見れば、錆兎の師匠である元水柱は正体に気づくだろうし、どうせ騙されていたと知って錆兎が傷つくのなら、見ず知らずの隊士の中でより、温かく慰めてくれる家族の元でのほうがいいのではないだろうか…。

自分で死ぬ勇気はないものの、錆兎の手を振り払えなかった時点で、義勇は生きることを望むこともなくなった。
出来れば錆兎を傷つけない形で、でもなるべく苦しまずに死にたい…。

そういう意味では元水柱に会いに行こうという申し出はとても良いものに思えた。
だから言う。


「真菰は…なんか錆兎と似てて…温かい感じだから、疲れはしない。
でも、二人のお師匠様は弟子ならとにかく、見ず知らずの俺がいきなり訪ねていったら迷惑じゃないか?」

と、それでも義勇にしたら当たり前の事を言ったのだが、二人共ぽか~んと固まったあとに、
「「迷惑じゃないっ!!!」」
と、やっぱり左右から抱きしめてくる。

「大丈夫。先生は大切な人が出来たらいつでも連れてきなさいって言ってたし」
「弟弟子の炭治郎の作る飯はすごく旨くてな、今度張り切って作るからぜひ義勇を連れてきてくれって言ってたから…」
と、2人に言われて、結局翌日に狭霧山の錆兎の師匠を訪ねて行くことになった。








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