鬼舞辻無惨の間者は宍色の髪の少年の夢を見るか?_07_透明な命3

そして朝…なんだか身動きが出来ないと思えば、錆兎の両隣に寝ていた炭治郎と禰豆子にしっかりと腕枕をさせられて、しがみつかれている。

「…錆兎…お兄さん養成装置装着だね」
と、すでに目を覚ましていた真菰がそれを見て爆笑した。

「笑ってないでなんとかしろ、真菰」
と、錆兎が言うと、真菰は、はいはい、とやっぱり笑いながら、二人をそっと引き剥がす。

そうして昨夜ははしゃいでいたためなかなか寝なかった弟弟子妹弟子は寝かせておいて、久々に二人で台所に立った。


「ねえ、錆兎…」
「ん?」
「その子…ぎゆうちゃんだっけ?
元気になったら一度わたしのうちに連れておいで。
狭霧山より近いしね」
「…なんで?」
「なんでってそりゃあね?
弟の彼女の品定めはお姉ちゃんのお仕事でしょうが」

と、タンタンタンと小気味良い音をたてて漬物を切る真菰の横で味噌汁を小皿に注いで味見をしていた錆兎は、思わずそれを吹き出しかけた。

「あ~、なにしてんの、錆兎。大丈夫?」
と、むせて咳き込む錆兎に手ぬぐいを投げてよこす真菰。
それを受け取りながら呼吸を整える錆兎に、

「大丈夫!小姑根性出していじめたりしないから」
と、真菰はにっこり笑みを浮かべる。

「…っ…違うっ!」
「ん?何がよ」
「…彼女っ…じゃっ…ないっ!!」
ゲホゲホ咳き込みながら言う錆兎を真菰は笑って肘でつついた。

「ま~、そのうちそうなるでしょうがっ!
錆兎絶対に彼女のこと好きでしょ?
でもってだ、自分が死にかけた時に助けてくれてずっと寄り添って守ってくれたりなんかされたら、よほどの女じゃない限り、きゅん!とするからっ。
錆兎顔も男前だし手足大きいからたぶんこれから背も伸びると思うしね、何より強いから鬼殺隊で出世するだろうから甲斐性もできる!
完璧じゃないっ!大丈夫っ!すぐ振り向かせられるって!
ていうか、もう落ちてるんじゃない?」

真菰はとてもとても楽しそうだが……

「あのなぁ…期待を盛大に裏切って申し訳ない限りだが…」
ようやく咳が収まってきて、錆兎はポンと真菰の肩を叩いて言った。

「義勇は男だ」
「はあ??!!!」

まあその時の真菰の顔ときたら、本当に鳩が豆鉄砲をくらったような表情をしていた。

「え?え?だって…だって、錆兎、薬を口移して飲ませたとか言ってなかった?!!」
「仕方がないだろう!ひどい熱で意識朦朧としているし、そうでもしないときちんと飲めなかったから…」
「え~っと…」
「……………」
「でもね、口移しの件を別にしても、錆兎がその子の話してる時って、好きな女の子の話してるみたいだったよ?」
「…言うな。わかってる」

「…好き…なんだよね?」
「…わからない。でも死なせるのは絶対に嫌だ。守りたいと思うし………できれば幸せにしてやりたいと思ってる」
「うん、好きなんだね」

「……たぶん」

いつも白黒はっきりした物言いをする錆兎にしては端切れの悪い言葉。
だが、顔どころか耳まで真っ赤なので、そういうことなんだろうなぁと真菰は苦笑した。

確かに錆兎は色々が器用だが、幼い頃から狭霧山で師匠の鱗滝と兄弟子達と真菰と炭治郎と禰豆子くらいとしか接する事がなかったから、意外に恋情とかになると不器用なのかも知れない。

「うん、まああれだ。
鬼殺隊はほとんどが男の世界だから、同性でっていうのも珍しくないから大丈夫。
私はいつでも錆兎の味方だからね?
ということで…色々相談にものってあげるし、義勇君?が元気になったら、やっぱり連れておいで?」
と言ってやると、錆兎は少しホッとしたように頷いた。


そうして朝食が出来たところで鍛錬がてらおそらく新しい罠を作っている鱗滝とまだ眠っている炭治郎と禰豆子を呼びに行って、全員で朝食。

そうして食事が終わると、自分も翌日は仕事だからと真菰も錆兎と共に街へ帰った。



街で自宅へ帰る真菰と分かれると、錆兎は一路鬼殺隊の医療所へ。

受付で名前を言うと、前回のこともあって話が伝わっていたらしい。
普通に通してもらえた。

受付で
「ああ、鱗滝錆兎くん?冨岡義勇くんの面会ね」
と、にこやかに言われて、あれ?っと思う。

「あの…義勇の容態は?」

確か自分が昨日ここをあとにした時は、確か今の時点では毒をどうすることも出来ないという話だったけど…とおそるおそる尋ねると、案内の女性は少し考えて

「う~ん…意識は戻ったし、命は助かった…と言えるかな。
それ以上は話して良いのかも私には判断出来ないから、義勇くんか先生に聞いてね」
と、なかなか微妙な言葉を返してくる。

なにかめでたしめでたしとは言い切れないものがあるのだろうが、それでも命が助かったならとりあえずは良かったと、義勇の病室へと入っていく。

「やあ、錆兎君。早かったね」

病室では義勇は眠っていたが、昨日の医師が錆兎を出迎えた。
そしてにこやかな笑みを浮かべる。
ずいぶんと義勇の状況が好転したのだろうか…とその表情を見て思ったが、必ずしもそのためというわけでもないらしい。

「君は元水柱の鱗滝さんの一番弟子なんだってね。
お祖父様も彼の継子で、身体の不調で引退が余儀なくされなければ、柱の座につくのも確実な逸材だったんだって?」
言われて、あ~そっちか…と錆兎は内心ため息をついた。

確かに師匠の鱗滝も自身の祖父も尊敬しているし、自慢の先輩たちだが、それは今は関係ない。それより義勇の容態を教えてくれと思う。

もちろん口に出しはしないが…

「はい。先生も祖父も偉大な人ではありますが、俺はまだ何も実績のない新人なので…」
と言うと、医師は

「謙虚だね。心根も偉大な育て手に育てられただけに素晴らしい。
でもあの誰もが自分の身を守ることで手一杯の最終選別で同期のために鬼を斬って道を開き、怪我をした子をずっと面倒を見て守り続けたというのは十分実績だと思うよ」
と頷いた。

そのまま放置すると延々とそんな話をされそうなので、

「その相手を…本当に守れたのかどうか知りたいんですが…」
と、錆兎が暗に義勇の容態を聞くと、知りたがっていることは察してもらえたらしい。

「ああ、義勇君の容態だけどね」
と、医師は話し始めた。

結論から言うと、治療法はわかったらしい。
ただし完治する方法はわからない。
ただ、定期的に薬を服用することで毒の効果を抑えられるということだ。

「ずいぶん昔にね、同じ状態になった隊士がいたそうだ。
君の師匠の鱗滝さんから連絡がいった元隊士の1人が連絡をくれてね。
薬の調合方法も伝えてくれたから、それを元にした薬を服用させて、義勇君の容態も落ち着いている。
さすが元柱の人脈だね」
と、医師に言われて、錆兎も自分の師匠に心から感謝をした。

「ただ、普通に呼吸を使っている分には問題ないけど、過度に使うと毒の影響が出る可能性もあるし、ぎりぎりの戦いになった時に危険が残る。
午前中目を覚ましていた時に義勇君にそれは確認したんだけど、やっぱり鬼殺隊に残るということだったから、まあそれ以上は私の仕事ではないしね。
定期的に薬を取りにきて、摂取するってことでいいんだけど、問題はもう一つの方で…」

「もう…一つ…?」
今の話だけでも全然良くはないと思うのだが、これ以上なにかあるのか…と、錆兎が眉を寄せると、医師もまた眉を寄せて困ったような笑みを浮かべた。

「高熱がずっと続いたせいか、記憶が…ね、混濁してしまっている。
最終選別前のことを忘れてしまっているようで、しかもこのところ育て手の謎の失踪が相ついでいるんだが、その中に彼の師範もいてね…連絡が取れない。
身内も彼が6歳の時に全員亡くなっていて、その後、その育て手に引き取られて今に至っているから、その人物がいないと戻る場所もないしお手上げでね。
最悪鬼殺隊の方で住まいを用意するのは良いんだが…身体も記憶も本調子じゃないから…」

「俺のことは?!俺のことは覚えてますか?」

たとえ覚えていなくても、これから覚えさせる気は満々ではあったのだが、医師がいいたかったのは実はそこらしい。

「うん。彼のはっきりした記憶は最終選別後からみたいで、正直君とこの医療所の人間以外の記憶がほぼないんだ。
だから、時折で良いから彼の様子をみてあげてもらえると…」

「引き取ります!」
「は?」
「俺が義勇を引き取って一緒に暮らします」

医師の言葉を遮って錆兎がそう断言すると、医師が驚きに目を丸くした。

「いや、そこまではさすがに…」
と言うのに
「俺もどちらにしてもこちらに居を構える事になりますし、二人で住める住まいを探して、もし鬼殺隊の方でそうしてもらえるなら、同じ任務につけてもらえば全面的に補助します」
と、さらに言い切る錆兎に、
「いやはや、君も面倒見の良い子だねぇ。じゃあいちおう私からも本部にそう進言してみるよ」
と、医師は請け負ってくれた。

そうしてその旨を伝えてくるからという医師から待っていてもらえるように言われて、錆兎は義勇の病室で待つ。

寝台の上で眠る義勇はまだ青白くやつれた様子ではあるが、苦しそうだった呼吸は安らかになっていて、それに錆兎はホッとした。

「義勇…あの時は始めから守ってやらなくてごめん。
これからはちゃんと守るから、安心しろ。
絶対に守ってやるからな」

と、汗で額に張り付いた前髪をそっとかきあげて、そのまま頭を撫でてやると、ぴくりと動いたあと、ゆっくり開く瞼。

その下の深い青色の目が錆兎を認めた瞬間に安堵したように淡い光を帯びるのを見て、錆兎はなんだか嬉しくなって、

「おはよう、義勇。今日からずっと一緒だ。よろしくな」
と、それでもまだ戸惑っている義勇にそう言って笑いかけた。







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