鬼舞辻無惨の間者は宍色の髪の少年の夢を見るか?_06_透明な命2

20数人いた希望者の中で戻ったのは5人。
まあ毎回そんな感じらしい。

錆兎の祖父の時は祖父が最終選別でほとんどの鬼を1人で倒したために、脱落者は25名中たった2名だったというのを聞いてそれを目指していたのだが、まあ仕方ない。
鬼殺隊に入ってから鬼を斬りまくればいい。
それより7日間でかなり衰弱した様子の義勇が気になった。

集合場所についた頃にはもう意識がなかった義勇はすぐ隠と呼ばれる係の者に医療所へと運ばれていった。
本当は付いて行きたかったのだが、錆兎には新米隊士向けの説明がある。
その場に残って鎹鴉を与えられ、日輪刀用の鋼を選び、隊服の採寸を終えると、とりあえず日輪刀が打ちあがるまではそれぞれ元の場所に帰るということで、解散。

だが、錆兎は解散を言い渡されてすぐ、義勇の様子を知りたいと係の人間に頼み込んで、医療所に連れて行ってもらった。

そうして向かった先の医療所で、おそらく軽症の隊士の大部屋が並ぶ奥にある重症の人間用の個室。
そこに義勇は横たわっていた。

「…ぎゆう……」

錆兎が声をかけても義勇は目を覚まさない。
そう言えば6日目を過ぎた辺りからほぼ意識がなくなって、脱水症状だけは避けようと錆兎が水を最初の日のように口移しで流し込めば飲み下しはしたが、言葉に反応することなく、ただ眠り続けていたように思う。

「…ぎゆう…だいじょうぶですか?」

ぽろりと頬を涙が伝う。
これまでどんなに辛い修行の時だって泣いたことなんてなかったのに、胸が痛くて痛くて涙が止まらない。

そんな錆兎に、義勇の様子をみていた医師らしい人が振り返って、優しい声で言った。

「君が選別中ずっと怪我をしたこの子の面倒を見ていたんだってね。
偉かったね。
確かに鬼を斬る事は大切だけど、助けられる相手を極力助ける…それはもっと大切なことだよ」

柔らかな声音でそう言う医師に錆兎は

「…偉く…ない…。助けられてない…」
と、首を横に振る。

医師はそれにもまた優しく言った。

「君がいなければこの子は確実に死んでたからね。
傷口の止血、手当、それに食事にいたるまで、あの環境でよくここまで完璧に出来たものだと思うよ。
鬼殺隊の隊士だってここまで出来る人間は早々居やしない。
通常であったなら、おそらく普通に回復していると思う。
ただ…ね、今回の場合、おそらく鬼の持つ特殊な毒が傷口から入ってしまったようなんだ。
だいたいそういう鬼の攻撃を受けると喰われて死んでしまうからね、この手の情報は鬼殺隊内部でもあまり多くはない。
だから…こちらも情報が欲しいんだけど、君はこの子を襲った鬼を見ているかい?
どんな鬼だったのか覚えていて話せるようなら助かるんだけど…」

そう言われて錆兎は顔をあげた。
あの時の状況なら忘れられずに脳裏に焼き付いている。

鬼の詳細、攻撃はもちろんのこと、義勇の様子…そして場所や近くで隊士を喰っていた鬼の姿まで。
それを仔細に話して聞かせると、そんな状況でよくそこまでと驚かれた。

そしてそれを元に、何か知っているものがいないかと鬼殺隊内部のみならず、他にも広く情報を集めてみると言われた。

その鬼は倒したものの、今後も同様の事があるかもしれないので、鬼と戦う上で重要な情報だからと…

が、結局とどのつまりは、今打つ手はないということだ。

錆兎は青ざめた。
絶対に絶対に絶対に…絶対に死なせたくない。

こんな時、先生なら…と思った瞬間、気がついた。
鱗滝先生なら鬼殺隊、そして柱としての経験も長く顔も広い。
もしかして何かわからないだろうか…

そう思った瞬間、いてもたってもいられなくなった。

「俺も俺の師匠に聞いてきますっ!」
と言うなり返事も聞かずに病室を飛び出す。

そうしてそれからはもう一気に狭霧山までひた走った。
子どもの頃から慣れ親しんで、今は炭治郎と禰豆子の訓練のために設置してある師匠作の罠も一足飛び。

ひたすらに師匠の元へ向かって走り抜けた。

ということで、全ての事情と鬼の特徴などを錆兎が話すと、鱗滝は

「錆兎は少し飯を食って待っていなさい。真菰も手伝ってくれ」
と言って立ち上がって、隣の部屋へ。


錆兎もそれを追おうとするが、そこで気のつく炭治郎が
「たぶん錆兎兄さんが行くと、先生の手が止まると思います。
それより今は次の行動にうつるために英気を養ってください」
と、お櫃から飯をよそった椀を錆兎に差し出した。

そう言えば選別中は義勇に食わせるため自分は米を食べなかったので、白米を食べるのは久々だ。

炭治郎は飯を炊くのがとても上手くて、大抵のことは弟子たちの中で一番器用にこなす錆兎が唯一敵わない。

「やっぱり炭治郎の飯は旨いな…あいつにこれを食わせてやりたいな…」
と、思わず呟くと、炭治郎は
「元気になられたら、連れてきてください。
俺、思い切り気合入れて飯を炊きますからっ!」
と、気持ちに寄り添ってくれる。

そんな炭治郎の優しさに、錆兎は泣きそうになって唇を噛み締めた。


結局鱗滝と真菰が戻ってきたのは錆兎が飯を食い終わった頃だ。
どうやら交友の広い友人数人に手紙を書いてくれたらしい。

「これから鴉に届けさせる。
なにか分かれば鬼殺隊の方へ報告するから、今日は泊まっていきなさい。
お前には休息が必要だ。
誰かを助けるためには、まず自分が万全でいなければならないだろう」
と、言われて頭を垂れる。

確かに7日間、野草と魚だけを食い、気を張り詰め、休む間もほとんどなかった。
そう自覚してしまえば、疲労感がどっと押し寄せてきた。

「じゃ、私がお布団敷いておいてあげるから、炭治郎とお風呂入ってきなよ」
と、そんな錆兎の様子に気づいて真菰がそう言って、

「行きましょう!今日は背中を流しますよ、錆兎兄さん」
と、炭治郎に手を引かれる。

すると禰豆子が
「お兄ちゃんだけずるい!私も!!」
と、立ち上がるが、9歳にもなったらさすがに一緒に風呂はダメだろうと言われて頬を膨らませて拗ねるので、錆兎が
「わかった。風呂はダメだが、俺もしばらくここには帰れなくなるし、今日は炭治郎と3人で寝るか?」
と、頭を撫でてやって、なんとかかんとか機嫌を直して頷いた。

「本当に、二人共錆兎のこと大好きだよね」
と、それを見て真菰が笑うと、禰豆子は
「真菰ねえも好きよ?みんなどんどんいなくなっちゃって寂しい」
と言うので、真菰がやっぱり笑って
「じゃ、今日は私も一緒。4人で寝ようか」
と言うと、禰豆子は
「じゃあ、先生も一緒!ふすまを開けて5人で布団並べて寝よう!」
と、鱗滝まで巻き込んで、結局全員横並びで寝ることになった。







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