鬼舞辻無惨の間者は宍色の髪の少年の夢を見るか?_04_帰還

「あ~真菰ねえ帰ってたんだ~。
この前も帰ってたよね、仕事いいの~?」

狭霧山は今日も弟子たちでにぎやかだ。

この山の上の掘っ立て小屋に住む鱗滝左近次は元鬼殺隊の水柱で、現在は鬼に家族を殺された子ども達を引き取って育て手をしている。

今年も最終選別に1人送り出したところなので現在育成中の子どもは二人。
今まで鬼殺隊に送り出してきた子どもは五人。
今回最終選別に送り出した子どもが無事戻ってきたら、六人になる。

真菰は昨年最終選別を終えた新米隊士だ。
そして無事最終選別を終えれば今日帰ってくるはずの錆兎とは姉弟のように育っている。
だから彼が最終選別に向かうにあたって、戦い以外に必要なものは全て教えに戻ってきたし、その後いったんは仕事のために戻ったが、錆兎が帰って来る予定の日にはこうして狭霧山に戻ってきている。

もっとも支度の時は錆兎のためだが、迎えに戻ってきたのは弟弟子のためというより、師匠の鱗滝のためだ。

鱗滝は厳しい師匠ではあったが、同時に弟子たちに惜しみない愛情を与える優しい育て手でもある。
そして…鬼殺隊に送り出してきた子どもは五人と言ったが、彼が最終選別に送り出して来た子どもは今回の錆兎を含めて12人。
つまり半数以上の6名は生きて帰っては来なかったのだ。

毎回子ども達を選別に送り出すと、帰って来る予定の日には昼食を摂るとすぐに家の前に出て、ある年は戻ってきた子どもを出迎え、ある年は夜まで待って肩を落として帰ってくる。

真菰は師匠が大好きだったから、自分の選別の年まではずっとそんな師匠に寄り添った。
そして…自分が最終選別を突破してから初めての弟弟子の最終選別にも、こうやって寄り添うために休暇を取って、狭霧山に帰ってきたのである。

「まあ、錆兎は強いから大丈夫だね。
私達のなかで一番強かったあの子が超えられないくらいなら、私も兄さんたちも超えられるわけないもの」
という真菰に鱗滝は言葉は返さず、ただぽんぽんとその頭をなでる。

戦闘には絶対と言うものはない。
それこそ鬼殺隊最強の柱達とて死ぬ時は死ぬのだ。

彼は身を持ってそれを知っている。
だから肯定はしない。
しかしそれでも否定もまたしない。
同時に自分を元気づけようとしてくれている可愛い弟子の優しい気持ちも知っているからだ。


戻ってくる子はだいたい昼の2時過ぎから3時くらいには戻ってきた。
だが今日はそろそろ夕方になろうとしている。

ぴゅう…と冷たい風が吹いてきた。

「錆兎…遅いね」
と、真菰が羽織の前を合わせて震える。

「寒いなら、家に入っていなさい」
と、そんな愛弟子に鱗滝は言うが、こんな状況で彼をひとり残せるはずがない。

「錆兎には、どこをほっつき歩いてたの?寒かったんだからって文句の一つも言ってやらなきゃだから」
と、それを言う相手が本当に無事に帰ってくるのか、いい加減不安になりながら、それでも真菰はそう言って首を横に振った。

そうしているうちにとうとう日が西に沈みきった。

「…錆兎が…か…」
と、そこで鱗滝は初めて声を発して、少し身を震わせて、そして、戻るか…と、真菰の肩に手をかける。

真菰も思っても居なかった展開に信じられない気持ちで家の方へ……その時だった。


何かが走って近づいてくる気配。
二人して驚いて振り向くと、翻る白い羽織。

「錆兎、遅いっ!!あなた何してたのよっ!!!」
と、さすがに半泣きの真菰に、
「待たせた!悪い」
と、短く答える錆兎。

だがその視線は鱗滝の方へ。

「先生、帰りました!遅くなって申し訳ありませんっ!
一つお聞きしたいことがあって…。
お聞きしたら即街に戻ります!」
と、心ここにあらずという風に言う。

そんな弟子に少し驚いた顔をむけたものの、鱗滝はすぐ、
「おかえり、錆兎。とにかく家に入ろう」
と、両手で二人の弟子たちの肩を抱いて、家の中へと促した。


「錆にい、遅い!錆にいのご飯、お仏壇にあげちゃうところだったよ」
「こら、禰豆子!縁起の悪い事を言うんじゃないっ!
すみません、錆兎兄さん。
疲れてるでしょう?ご飯出来てます!」

弟弟子の炭治郎と妹弟子の禰豆子は実の兄妹だ。
年は10歳と9歳。
3年前に親兄弟を鬼に喰われて孤児になったところを鱗滝に引き取られて、現在修行中の身だ。

二人が引き取られた時にはすでに真菰と錆兎しかいなかったので、彼らとは距離が近い。
まるで兄弟のような気安さで帰宅が遅れたことへの文句を述べる禰豆子を、炭治郎は兄らしく叱ると、いつ戻ってもいいようにと用意していた錆兎の食事をよそいに台所へと走っていった。

「先生、俺すぐ戻るのでっ!」
と、それを旅支度も解かずに見送る錆兎に、鱗滝は
「まあ、落ち着け。
何があって何を知りたいのか、ちゃんと気を落ち着けて話しなさい。
それが重要なことなら、慌てて説明が疎かになってもいいことはないぞ」
と、鱗滝は錆兎に座るように言う。

確かにそうだ…と錆兎は思った。
先生の言うことは昔から正しい。
自分よりもずっと世間を見ていて、鬼殺隊の柱までのぼりつめた人だ。

錆兎はそう思い直して、逸る心を抑えてうながされるまま炭治郎が持ってきた膳の前に座った。

そうして口を開く。

「鬼の毒について知りたいんです」
…と。









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