──錆兎と義勇はこっち。村田はこっち。煉獄のぼっちゃんはここなっ!
個室の座敷に通されてから宇髄が仕切って席を決めて誘導する。
一応村田の歓迎会も兼ねているらしく、村田の席はお誕生日席で、その左側の隣に義勇、右側の隣がカナエと、きれいどころ?に囲まれている。
歓談に入ったところで村田は気になっていた点について宇髄に聞く。
「宇髄さんさ、昔一緒だった任務の時も錆兎のこと”筆頭”って呼んでたよね。
で、今回の柱合会議の時もそう呼んでて、でもなんで今は”錆兎”なの?」
そう、柱合会議の時に思い出したのだ。
宇髄に初めて会った村田と錆兎の初任務の時、当時お忍びだったのもあり碓井と名乗っていた宇髄は総指揮が崩れて代わりに指揮を執り始めた錆兎のことを”筆頭”と呼んでいた。
それに違和感を覚えたものの任務中だったので聞く暇がなく、今の今まで忘れていたのだが、思い出したところで聞いてみる。
「あ~、それはな、13でお館様の補佐に抜擢された時に、一応俺らより目上になるわけだしジジイ柱達が”渡辺様”扱いしたら、こいつが新参者の分際で大先輩達に”様付け”で呼ばれると居たたまれない気分になるから”錆兎”とでも呼んでくれって言ったわけなんだがな。
ジジイ達は融通が利かねえしな、俺がじゃあ実家が頼光四天王筆頭で本人は柱筆頭みたいなもんだから、”筆頭”って呼べばいいんじゃね?って提案してそれから仕事関係の場では”筆頭”って呼び名が定着したんだ。
ジジイ達の感性はよくわかんねえけど、”筆頭”だったらいいらしいぜ?
でも仕事を離れたら本人の希望通り”錆兎”って呼んでるわけだ」
「え?でもさ、初任務の時には錆兎はまだ”筆頭”じゃなかったよね?」
「あ~…それかぁ…」
と追及する村田に宇髄はガシガシと頭を掻いて言う。
「あの時名乗ってた碓井っての、俺の本家の名なんだけどな。
つまりあれだ、先祖が同じく四天王の一人の碓井貞光らしい。
まあうちはもうほぼ無関係だろってくらいの傍流で、碓井姓も名乗ることを許されないくらいの家だがな」
「うっそぉぉ~!!
すっげっ!鬼退治の英雄の子孫が鬼殺隊に二人もいんの?!」
「だ~か~ら~、うちはもうほぼ他人っつっていいくらいの傍流だっ!
直系本家の坊ちゃんと一緒にすんなっ!
代々の先祖に祟られっぞ!」
どこからどう割っても先祖に偉人など皆無であろう自分の実家に比べれば十分すごい家だと村田は思うのだが、なまじそういう家からすると超えられない格差というものがあるらしい。
いつもなんでも俺様すごい!の宇髄がそのあたり一歩引くくらいである。
「ふ~ん…。
うちの先生にもちょっと聞いてたけど、錆兎すごい奴なんだな」
と、別にそこまでこだわる気があるわけでもないのでそう流すと、もう一人それについてこだわりを持っている人間…つまり錆兎当人が
「実家がすごかったとしても、俺がすごいわけではない」
と、断固として主張する。
いや、本人も齢13でお館様の補佐役にとスカウトされているのだから十分すごいとは思う。
が、錆兎も結構頑固なところがあるのでそこにこだわっても仕方ないので村田はそれを
「いや、呼び方について変わるのがどうしてだろうと気になっただけだから」
と、苦笑で流した。
そうして自分で言っておいて、ふとまた一つ思い出した。
「そういえばさ、胡蝶さんが言ってたサラサラ君て?
俺のこと…だよね?」
と、隣の美女を振り返ると、胡蝶はにこっと綺麗な笑みを浮かべて言う。
「そう。あなたのこと。
任務で一緒になった一般隊士達からよく話は聞いてたの。
すごく目立つことをするわけではないけど穏やかで、任務で無茶をいうことなく適切な指示を与えてくれて、頑張ったあとにはご飯をご馳走してくれるサラサラの髪の甲の隊士の話。
髪がサラサラだからサラサラさんて皆秘かに呼んで慕っているんだって。
なんだかわかるわぁ。
いきなりときめきを感じるような感じではないけど、サラサラさんて傍にいるとホッとする感じ。
あ、私のことは良ければカナエって呼んでね。
妹も隊士で彼女も”胡蝶さん”だから何かで一緒になったら紛らわしいしね」
「え?え?ウソ。
俺いつも名前を覚えられなくて、みんなに『あ~、”おキツネ様” の~』みたいな言われ方してるんだけど…」
初めてとてつもない美女から笑顔で褒められて動揺しつつも自分の認識を伝える村田。
それに
「ああ、俺も聞いている。村田は特に経験の浅い隊士達からはすげえ人気だぜ?」
と宇髄が
「そうだな。俺の耳にも入ってきているぞ。
堅実で良い隊士だって」
と錆兎が言うと、それを聞いていた杏寿郎まで
「俺も”サラサラさん”の話はよく聞いていますっ!
同期達は理想の上官だと話していましたっ。
俺もいずれはそういう物理的に守るだけではなく、部下が安心できるような上官になりたいと思っていますっ!」
などと言い始めて、他人から褒められ慣れていない村田は羞恥でのたうちまわりそうになった。
前世では目立たぬ一般隊士のまま終わった自分が水柱になっただけでも驚きなのに、なんでここまで評価されているのかが本当にわからない。
しかし錆兎の
「村田は俺も気づかなかった鬼から義勇を守ってくれたくらいだからなっ!
攻撃が強いだけが良い隊士ではない。
以前も言ったが水の呼吸は防御に特化した型だからな。
周りがよく見えていて怪我人を極力出さないよう指示が出せる村田は良い水柱になると思うぞ」
と言う言葉はなんだか認められることのなかった前世と違い何故か過剰評価されていることを感じる今生で、少しだけ自分自身をちゃんと認められているようで、ほんの少しほわっと心があたたかくなった。
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