勝てば官軍桃太郎_39_日の出

総勢9名。
しかし夜明けまではまだ遠い。
いくら鍛え上げた柱とて、一晩全力で戦い続けるのはあまりにきついし動きも鈍くなってくる。

まず時間も長くいて体力のない胡蝶がやや動きが悪くなってきた。
おそらく次は伊黒あたりか…

「危ねえっ!!」
と、足をもつれさせた胡蝶に向かった蔓を不死川が防ぐ。

「少し村田の方に行って休んどけェ!」
「でもっ!!」
「次はかばえるかわかんねえし、脱落者を出すわけにはいかねえからっ!!」

そういう不死川も一番動きの激しくなる部分を受け持ち続けていたので、疲れているだろう。
休ませてやりたいが、夜明けまであと7時間以上ある。

とにかく死人がでないように…そして痣も発症しないように…
もちろん、倒せないくらいなら、そのあたりの犠牲も最終的にはしかたないのだが……
そんなことを思いながら、ひたすら無惨の猛攻を防ぎ続けていたその時である。

最初に変化に気づいたのは宇髄だ。

「錆兎、見てみろ!!」
と、宇髄の視線を追うと、蔓の一本にわずかばかり残る傷痕。

「効いてきたのかっ!!」
「見てえだなっ!仕上げ行けるかっ?!」
「無論っ!今出来ないでいつやるんだっ!!」

錆兎は一歩退いて、すぅ~と息を吸い込んだ。

上弦の弐との戦いから、さらに修業を重ねて得た成果。
手先に気を集中させれば青い刃先が紅く染まる。

──参るっ!!

走り抜ければ金色の光の粒がこぼれ落ち、刀を振り上げればそれが宙でキラキラ舞い上がる。

異変に気づいた鬼舞辻の蔓が一斉に錆兎に向かうが、それは宇髄や不死川、その他柱全員が防ごうと斬りつけた。

赤青黄色…多数の色合いが混ざった神獣が錆兎の刀から無惨をめがけて襲いかかる。

──伍の型…麒麟!!

童磨戦のあとに編み出した奥義、麒麟。
その角が牙が爪が…無惨の7つの心臓と5つの脳を切り裂いた。

切り裂かれた肉体は再生せず、無惨は過去にも経験した恐怖に打ち震えている。
ここで数百年前は身体を四散させて逃げおおせたのだが、今回はできなかった。
傷ついて弱った肉体は急速に抵抗力を奪われ、最初にマキビシに仕込んだ薬に苛まれていく。
そう…前世で珠世が作ったもう一つの薬…鬼を人間に戻す薬だ。

通常の状態ではなかなか効かないそれも、無惨が傷ついてそれを治すのに体力を使えば抵抗力が落ちて効いてくる。

ずっと蔓を斬り続けることでだいぶ弱ったところで、治らぬ傷を与えたのがトドメとなったようだ。

どんどん人間に近くなるにつれ、傷口から大量の血が吹き出し始める。
そしてとうとう身体を支える事ができずに地面に崩れ落ちた無惨は、鬼のようにそのまま消えることなく、血を流した傷だらけの肉体を残したまま息絶えた。

まだ…それでも皆信じられず、その遺体を凝視しながら夜明けを待つ。

そうして朝日が昇り、消えぬままの肉体が陽射しにさらされるのを確認した瞬間、産屋敷邸の庭には歓声と号泣の声が溢れかえった。

参戦した者は皆生きている。
痣もなく、日常に支障をきたすレベルの怪我もない。

「…やったっ…やったのかっ!」
産屋敷の目に涙が浮かぶ。

「ついにやりやがったぜ!桃太郎さんがよぉ!!」
と、宇髄がバン!と背中を叩くのが地味に痛い。

そう、痛いというのは生きているからこそだ。

鎹鴉が鬼殺隊中に無惨戦の勝利を告げ、隠が産屋敷邸に戻ってきてこれが最後のご奉公とばかりに後始末を始める。

奥方様も隠に一歩遅れて戻ってきたので、錆兎は
「耀哉、悪いが俺もいったん帰らせてもらうぞ。
義勇に無事な顔をみせてやりたい」
と、断って水柱邸へと戻ることにした。








0 件のコメント :

コメントを投稿