そうして歩きながらも九郎はよくしゃべるしゃべる。
雑魚相手に本気を出さない村田がいかに格好良かったかなど、不死川の地雷の上で足踏みをしまくった挙げ句、口した話題は
長子は全部財産を継げるから勝負に出ないし、色々が目減りしてくんですよ。
今あるものを抱え込んで耐えてれば良いって時代じゃないでしょ。
うちの長子の家系に竈門って家があるんですけど、そこの長男なんて、二言目には”俺は長男だから耐えられた。次男だったら耐えられなかった”とか言うんですけど、耐えるだけでは今よりも良くはならないんです。
そこは耐えるよりは勝負してみないと…!
これだから長男は……」
…で、不死川のこめかみにピクピクと血管が浮かぶ。
そこで宇髄がにこやかに
「まあ、不死川も俺も、お前が大好きな村田も、鬼殺隊の御旗の桃太郎、錆兎も長男だけどなっ!」
と言うと、九郎がピタッと言葉を止めて、錆兎を見上げてきた。
しかしその言外の問いに錆兎が苦笑しながら
「あ~、まあそうだな。
俺は一人息子だから、厳密に言えば下の兄弟がいる長男とは少し違うと思うが」
と言うと、九郎は
「きっと錆兎さんにはご自身が知らないだけで生き別れの兄さんがいるんだと思いますっ!あなたは絶対に末子ですっ!」
と、どきっぱりと宣言した。
本当にめげない男である。
「まあ…俺の兄弟関係はどうでも良いが、お館様の前ではその話はするなよ?
お館様は長子だから家を継いでお館様をやってるんだからな?」
と、まあ本人はキレたりすることはないが、周りが大騒ぎになりかねない、と、錆兎はそこで釘を刺して、その話はなんとか流せと宇髄に目配せをして、宇髄が別の当たり障りのない話題を持ち出しつつ、日が落ちない前にと産屋敷邸へと急ぎ向かった。
その日は産屋敷邸にはお館様と奥方様以外は隊士が一人いるだけで他には誰も居ない状況で、錆兎達がくるのと入れ違いに奥方様は隠と共にすでにお子様たちが避難している水柱邸へと向かうことになっている。
なのでその移動時間も含めて日が落ちない前に着くと、互いに互いの伴侶を任せることになるため、錆兎も奥方様も共に、宜しくおねがいしますと頭を下げて、入れ替わった。
前世ではお館様が亡くなる前提だったのと、お子様がもうなんとか指揮を取れる年齢だったので、奥方様もお館様と共に…と残って亡くなられたが、今生ではお子様たちはまだ4歳なこと、そしてなによりお館様も生き残る前提で進めるので、少しでも守らねばならない人間は少ないほうが良いということで、避難していただくこととなっていた。
今後の予定については先日に大方話し合ってあるので、急遽増えた九郎には、おそらく今日の夜に無惨がここに来るため、まだ弱い九郎では無惨に向かうだけ無駄だし、何かあった時にお館様の盾になることとそれだけを言い聞かせておく。
館には罠に詳しい宇髄と錆兎が張り巡らせた罠が多数ある。
前世で珠世の作った薬も用意した。
他の鬼と違って無惨は首を落としても死ぬことはない。
だから日の出まで無惨を外に釘付けにするか、もう一つ…これは今まで試したことはない方法が一つ…。
どちらにしても別の意味で総力戦だ。
その前に少しでも緊張をほぐそうと、不死川が茶をいれてくれる。
初めて自らの生存もかけての最終決戦に、何度も時を遡って無惨戦の火蓋を切って落としている産屋敷もやや緊張しているようだ。
錆兎だってもちろん今回は巻き戻したくないのでどことなく緊張する中、とにかく空気を読まずによくしゃべる九郎は正直ありがたい。
これも想定しての宇髄の決断だったのかもしれない…と、もういつも肝心なところで上手に空気を盛りたてる宇髄の卒のなさに頭の下がる思いだ。
長子末子の話題はやめておけと宇髄が来る道々言ったからだろう。
九郎の話題はもっぱら村田賛辞だ。
水の呼吸の剣士なのに、水を見せずに呼吸を使って倒していたのがすごいと大絶賛。
それ…単に薄すぎて見えなかっただけでは?とツッコミをいれる不死川と、桃太郎の右腕と言われる人物に限ってそんなわけはない、あえて見せていないのだと大舌戦を繰り広げている。
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