勝てば官軍桃太郎_36_少年隊士山守九郎

6月21日…世にいう夏至の日の夕方のことである。
もう隠すこともないということで、ゆるゆると徒歩で産屋敷邸に向かう錆兎、宇髄、不死川…の後ろをついて歩く一人の少年隊士。

「水柱様ですよね?!
はじめまして!俺は山守九郎と言います!
以前、水柱様の右腕の村田さんに助けて頂いたのですが、今日はご一緒ではないんですか?
水柱様の任務の時はいつもご同行されると伺っているのですが…」

「…ほぼではあるが、絶対に毎回というわけではないな。
今日は家で待機している」

「そうですかっ!
では今日の任務は村田さんが出るほどのものでもない、軽いものということなんですねっ!
だから村田さんではなくこちらのお二人と任務につかれるんですねっ!」

何故いきなり柱に物怖じもせずに声をかけてくるのかよくわからない。
しかしまるで人懐こい子犬を思わせるまとわりつきように邪険にする気にもならず、錆兎は、さあどうするか…と思っていた。

そんな錆兎の隣では宇髄はなんだか面白そうなやつが現れたと明らかに楽しんでいたが、不死川の機嫌がどんどん下降していって、とうとう”村田を必要としない軽い任務だから自分たちと一緒に”という発言で、限界の壁をぶち抜かれたらしい。

「ふざけんな、ごらぁ!!!」
と、ぐるりと振り返って、少年隊士の襟首を掴んで叫んだ。

「だ~れ~が~村田以下だぁ?!
俺達を誰だと思ってやがるっ!!」

人相の怖い不死川に怒鳴られても少年は全く臆することなく、むしろ目をまん丸くして
「知りません。どなたです?」
と、聞き返す始末で、隣で宇髄が爆笑し始めた。
それにますます不死川がキレる。

「よおぉぉ~く、聞けっ!!
俺は風柱の不死川で、もうひとりは音柱の宇髄、二人とも鬼殺隊の頂点、柱だっ!!
村田と比べんじゃねえっ!!」

そう叫んだ不死川に、

「俺は山守九郎!癸ですっ!!
代々末っ子の家系の末っ子!
伯父たちや兄たちのように木こりや炭焼きで生涯を終えるのが嫌で街に出てきましたっ!
出世したいですっ!絶対にお役に立ちますっ!お供させて下さいっ!!」

と、いきなり返してくるので、さすがの不死川も

「おい、お前突然なにいってやがる?」
と、答えにつまった。

「西洋のほうでは、幸せの女神は前髪しかないから見つけた瞬間に掴まなければ幸せは捕まえられないというそうです。
長男は耐えて見送って手に入れられずに我慢をしても、末っ子なら掴んで引きずられても諦めずに食らいついて手にいれられます!」

「てめえ…何言ってんのか全然わかんねえよ」

…なんだか厄介な奴に構ってしまった…と半分引いている不死川。

「あ~…確かに諦めが悪いのは末っ子だよなぁ。
なにしろ長子は駄目なもんは駄目って言われて育つが、末っ子は飽くまでダダをこねれば要求が通ることも多いから、諦めなければなんとかなるって経験から学んでやがる。
失敗も上が尻拭いしてくれるから、チャンスに手を伸ばすのも躊躇ねえしな」
と、そこで宇髄がまだ少し笑いながらも、なるほど、といった風にそう補足した。

そんな周りのやりとりに、錆兎は一人、
…今日もし無惨を倒せたら、鬼殺隊がなくなるし、出世なんて意味もないと思うんだが…
などと脳内で冷静なツッコミをいれている。


そう、錆兎は脳内で思うだけだったのだが、すっかり頭に血がのぼった不死川はぽろりした。

「今日が最終決戦だからなっ!今更鬼殺隊で出世を目指したって意味はねえんだよ、クソがっ!!」
「ええええっ?!!!!」

「…あ…言っちまいやがった」
と、それを聞いて言葉ほど困った風もなくそう言う宇髄の言葉で、本人もあっと思ったらしい。
慌てて口を閉じるが、全てはあとのまつりだ。


「い、行きたいですっ!!俺も行きたいですっ!!」
と叫びだす

「バラしちまったのはお前だからな?」
と、宇髄は不死川に向かって苦笑してみせ、不死川は
「…いっそ…ここで殺っとくか…」
と、刀に手をかけるので、

「ま~て~!!」
と、錆兎が慌ててそれを止めた。

そして
「いっそ…撒けばいいだろう?」
とこそりと言うが、それも聞こえていたらしく

「俺、生まれつき鼻がよく効くんです!
犬並みだと言われているので、先に行かれても追いつけると思います」
などと言われて黙り込む。

そこでいよいよ困って宇髄に視線を送れば、宇髄はあっさりと
「連れて行けばいいんじゃね?
別に雑魚一人増えてもなんにも影響しねえだろ。
いざとなったらお館様の肉盾にでもしときゃあいい」
と言い放つ。

その宇髄の言葉に不死川は大いに不満な顔をしたが、そこで錆兎が
「お館様の所につくまでに殺人罪で捕まるよりは賢明な案だな」
と言うと、そこは漏らしてしまったのは自分なので諦めたらしい。

「ただし着くまで俺の側には近寄るなァ!!」
とぴしっと指差してそう言うと、ドスドスと足音をたてながら先に立って歩き始めた。








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