「うわぁ…小さい…」
「お前も昔はこんなんだったぞ」
と、錆兎が渡されておっかなびっくり抱いているというよりは手に乗せられた状態の赤子の一人を覗き込む千寿郎と杏寿郎。
一人は鱗滝が抱いてうんうんと頷きながら涙をこぼしている。
最後の一人は雛鶴が抱いて宇髄に見せに来た。
「天元様ぁ、須磨も赤ちゃん欲しいですぅ!」
と、そこに割り込む須磨を
「あんたはぁ!天元様が見ていらっしゃるのを邪魔すんじゃないよっ!」
と、殴るのを、宇髄が笑いながら止めて
「あ~、うちも最終決戦が終わったら派手に子ども作るかぁ!
一人につき一人でもお前ら3人で赤子も3人になるしなっ!
なんなら一人くらい桃太郎の息子の嫁とかにしても楽しそうだしなっ!」
と、言い出して、嫁3人がはしゃぎだす。
そんな中で錆兎が
「あの…義勇は…」
と、一番気になっていることについて声をかけると、雛鶴は宇髄にいったん赤子を渡して錆兎のところまで来ると、
「大丈夫、お元気ですよ。出産の後始末に時間がかかるので、赤ちゃん達だけでも先に錆兎さんに会わせるようにとの奥方様の指示で連れてこさせていただきました。
準備が出来たら授乳もありますし、赤ちゃんを義勇さんの所に連れていきますので、その時に錆兎さんもご一緒にということです」
と、にこりと笑みを浮かべて説明をした。
「ありがとう。本当に世話になった」
と、その雛鶴の説明にホッと安堵の息をつく錆兎。
子どもが生まれるのは嬉しいが、それは義勇が無事だという前提のことだ。
義勇を犠牲にしてまで欲しいものはない。
こうしてひとまずその無事を確認して落ち着いて、錆兎は手の中の赤子に視線を戻す。
もう笑えるほど自分に似ている。
自分が赤子の頃は絶対にこんな顔をしていたのだろうと思う。
宇髄曰く200万分の1の奇跡だという三つ子。
どうせなら義勇に似た女の子の三つ子ならなお嬉しかったのだが、贅沢は言うまい。
本来は持てないはずの子が持てたのだ。
義勇の腹で育った自分の分身と思えば、愛おしさもひとしおだ。
一所懸命育てねば。
鬼のいない世になると言っても、完全に平和な世になるわけではないだろうし、3人もいれば一人くらい剣の道に進んでくれたりしないだろうか。
どちらにしても護身のためにも武道は教えたい。
小さいのに思いの外ズン!と重く温かいその身体を抱いていると、色々夢も膨らんでいった。
ふくふくした手を指先でつついてみれば、ぎゅうっと驚くほど強い力で握り込まれる。
ああ…強い男に育ちそうだ…と、それに思わず顔がほころぶ。
義勇に似た優しく可愛らしい女の子が欲しかった…と、ついさきほど思ったばかりなのに、己の子が強いことを嬉しく感じてしまうあたりが、我ながら性もない男だと錆兎は苦笑した。
義勇に似た愛らしい女の子は孫に期待ということで、今はせっかく強く生まれついた息子たちを立派に育ててやらねば。
そんなことを考えていると寝室の襖が開いて、奥方様に呼ばれたので中に入る。
すでに色々と片付けは終わっていたが、かすかに残る血の匂い。
さぞや大変だっただろう。
布団の上に横たわっている義勇の髪はしっとりと汗で濡れていて、かなり疲れているように見えたが、それでもしっかり起きていて、奥方様と錆兎、それに雛鶴がそれぞれ抱く赤子を見ると
「小さな錆兎…だ…」
と、大きく目を見開いて言った。
「それではこちらに寝かせていきますね」
と、そこで奥方様と雛鶴がそれぞれ抱いていた赤子を小さな布団を敷いた籠に寝かせて部屋を出ていく。
礼を言ってそれを見送ると、錆兎は義勇の横に座って
「義勇…よく頑張ってくれた。ありがとうな。お疲れ様」
と、その頭をそっと撫でる。
その手に甘えるように少し頬をすりつけたあと、義勇はまた赤子を見て
「小さな…錆兎。
俺は錆兎の血をちゃんと残せたんだな。
嬉しい…」
と、ポロポロと涙をこぼした。
「ああ、確かにお前の腹の中から出てきたはずなのに、どこをどう見ても俺そのものだな」
と、それに錆兎は苦笑する。
本当にお前の血はどこへ行ってしまったんだ…と、思わず零せば、俺のは別に良いんだと義勇が言うので、錆兎は俺はお前の血は孫に期待することにしていると、自分的には己の血はもちろん嬉しいが義勇に似たところも欲しかったと主張しておいた。
それでも…義勇との間の子であることは間違いないのでとにかく嬉しい。幸せだ。
ただ、自分に本当にそっくりな子が義勇の乳に吸い付いているのを見るのは、少し複雑な気分にはなる。
いや、んくんくと乳を飲んでいる我が子は愛らしい事は愛らしいし、それに妬くなどとは口が避けても言えないわけなのだが…
「大きい錆兎を含めて4人もの錆兎に囲まれるなんて、人生において大勝利を掴んだ気がする!」
と、実に嬉しそうな義勇を見ると、錆兎も本当に幸せな気分になってくる。
そしてこの状況を見てからの決戦で良かったと心底思った。
絶対に巻き戻しなんてさせるわけにはいかないと思えば、無惨を粉砕くらい出来る気がする。
そんなことを考えている錆兎の前で、同じく考え込む義勇。
「どうした?何を考え込んでいる?」
と問えば、少し困ったように眉尻をさげて、
「名前…どうしよう?三人分も考えていなかった」
と言う。
なるほど。確かに錆兎も3人分は考えていない。
「ふむ…ちなみに義勇は男ならどんな名を考えてた?」
「よりみつ…」
「よりみつ?」
「ああ、頼れる光で頼光な。源頼光にちなんで。錆兎のイメージでもある」
「俺はそんな大層な者ではないがな。良い名だ」
「錆兎は?」
「右近。左近次先生にちなんでな。俺と義勇が今こうしてあるのも、全て偉大な元水柱の鱗滝先生のおかげだし」
「ではあと一人は…俺と錆兎の名から一字ずつ取って勇人とかどうだ?」
「ああ、いいな。長男から頼光、右近、勇人な」
と、名が決まったところで、乳を飲み終わった赤子を錆兎が義勇の手から受け取り、おっかなびっくりゲップをさせる。
本当にそっくりで親でさえ間違いそうな3人だが、そこはさすがに5つ子の母、奥方様が赤子の手首に長子、次子、末子の字を書いた紐を結んでくれている。
「これは…しばらくは結んでおかねば間違うな。
そのうち慣れればわかるようになるのだろうが…」
「うむ…」
と、顔を見合わせて苦笑する新米両親の心配は、翌日にお館様から届く立派な色違いの腕輪によって当座は解消されるのであった。
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