そんな会話が水柱邸で交わされている頃、産屋敷邸ではまさに無惨戦について話し合われていた。
だから皆が上弦の壱と無惨を倒せるくらい育っていると感じたら決行かな?
いつ頃にするかの判断は錆兎、君に任せたいんだけど…」
産屋敷と錆兎、それに今回はもう事情を話したということで宇髄も加えて3人での話し会いだ。
錆兎はそのおびき出し方を前世で体験しているので知ってはいるが、今回に関して言うならそれはなしだと思っている。
というか、当たり前にその発想になる産屋敷がどうかしている、とすら思った。
そして言う。
──耀哉、お前馬鹿だろう?
…と。
隣で宇髄が青くなった。
多少のことには動じない宇髄がこんなに青ざめたことがかつてあっただろうか…。
人間の顔ってこんなに色が一気に変わるんだな…と、それを見ていた人間がいたらさぞや驚いただろうが、あいにくここには錆兎と産屋敷しかおらず、二人とも宇髄の顔色になど欠片も注目していなかった。
産屋敷はそんな暴言を吐かれたのにも関わらず、むしろどこか嬉しそうに
「ひどい言い方だなぁ、錆兎。
前回だってそれでおびき寄せただろう?
毎回やってることなのに…」
と、にこにこと笑顔で返す。
それに錆兎は呆れたようにため息をついた。
「前回までは次回があったからな。
でも俺は今回で終わらせるつもりだから次はない。
つまりお前は今回死んだら死んだままになるぞ」
「うん。でもそれはまあ仕方ないことかなと…」
「仕方なくはない。
俺は自分の友人を犠牲にするつもりはない。
言っただろう?全員揃って鬼のいない世界の夜明けを見るんだと」
…友人?こいつお館様に友人って言った?!
もはや突っ込むところはお館様の安否よりもそちらになりかけている宇髄。
もともと胆のすわった奴だとは思っていたが、マジかよ…と思う。
そんな宇髄に構わず話を続ける二人。
「でもさすがに柱が勢揃いしてたら無惨だって来ないんじゃないのかな?」
「いや、その辺りは大丈夫じゃないか?
人間風情に倒されると思ってないだろうし、なによりお前のことは自分の手で倒したいと思っているだろうから。
それでも気になるようなら、俺と2,3人の柱だけ先に控えていて、あとの柱は時間を決めてあとから来させるということでどうだ?」
「う~ん……先に控える人選は?」
「宇髄と実弥…あたりか。
動きが早くて死ににくい。
全員集合まで死なないようにしないとだからな。
耀哉が出来そうなら他の柱が到着するまで話をして引っ張っておいて欲しいんだが…」
「うん、それはやってみるよ。
でね、念の為なんだけど…私が万が一の事故で指揮を取れなくなった場合のために輝利哉を水柱邸に避難させてくれないかい?
左近次も居るし桃太郎世代が守っているからね。
今は鬼殺隊の施設の中で君の邸宅が一番安全だ。
当日は槇寿郎にも詰めてもらうように手配するよ。
あとは…そうだな、日程だけど…6月21日前後でどうだい?」
「…夏至の日…か」
「うん。気休め程度だけど、少しでも夜が短い日が良いかなと思ってね。
その頃なら君の所の子も生まれているだろう?」
「ああ、予定では5月半ばだから1ヶ月くらいにはなっているな」
「ふふっ、ちょうど良い頃だね。
桃太郎の所に子どもが生まれて周りもお祝いモードで盛り上がって士気も高まる」
「その発想がもうえげつないな」
「そうかい?悲壮な決意だけで戦うより、未来に向けてって感じがしていいじゃないか。
輝利哉のお嫁さんが生まれるか、娘達のお婿さんが生まれるか、私だって個人的にも楽しみにしてるんだよ」
「その話は義勇の許可が出たらだと言っただろう」
「じゃあ義勇に付け届けをしておこう」
クスクスと笑いながらそんな風に言う産屋敷を、宇髄はもういっそ謎の生物を見る目で見ていた。
いや、本当は今までのお館様像がおかしかったのだろう。
彼だって自分と同い年の若者なのだ。
あんなに老成して皆を受け入れているようでいてその反面、自分のそばには全てを寄せ付けず1人雲の上というほうが人間として不自然だ。
今まで宇髄が見てきた“お館様”は皆の父で包み込むように優しい笑みをうかべていたものの、今のただの“耀哉”の笑顔の方がなんだか幸せなように見えた。
「あ~、じゃあな、決行当日はうちの3人の嫁たちも水柱邸にやっていいか?
3人とも腕利きのくノ一だし、普通に家事とかもできるから、色々な面で役に立てると思うぜ?」
とりあえず一通りの方針が決まったところで、最後の最後で一言それだけ宇髄が申し出ると、
「うん、それがいいね。3人に来てもらってもいいだろう?錆兎」
と、お館様が言って、錆兎が了承したところで話し合いが終わった。
「…まったく…てめえは大した野郎だぜ。
よもやお館様とあんな距離感でつきあってるたぁ思わなかった。
未来の親戚ってかぁ?」
産屋敷邸からの帰り道、思わずそんな言葉をこぼす宇髄に錆兎は
「あ~、あれな。
まあ子どもは子どもの意志もあるだろうし、なにより産むのは義勇だから義勇次第だが、鬼狩りが終わったら、はい、他人というのも寂しいんだろう。
耀哉、友達いないから」
と、なんだか失礼な発言を口にする。
お硬いあたりが聞いたら激怒されそうだと思いつつも、宇髄自身はそういうものにこだわるのをやめた人間なので、スルーしておくことにした。
しかしまあ確かに、命がけの中で非常に濃い関係を築いてきただけに、本当に鬼がいなくなるなら、これでじゃあ他人なというのが寂しいというのはわかる気はする。
錆兎がさらに
「婚約というところまでいかないにしてもな、無惨を倒したら耀哉の家族とうちの家族で旅行に行こうとは言っているぞ。
宇髄も嫁3人と一緒にどうだ?」
などと言うので、なんだかその気になってしまった。
そして
「おお~、いいなぁ、それ。
俺は嫁達と温泉巡りが趣味の一つだしな。
鬼の居ない世になって、命をかけるようなことがなくなるなら、うちも派手に赤ん坊作るかぁ」
と、宇髄も言う。
死にやすい鬼狩りの身で後ろ盾もない中で子を作って身重の嫁や赤子だけ残したら…と思っていたが、鬼がいなくなって死ぬ危険が激減する中でなら、子どもの1人や2人いるのも悪くはない。
鬼狩りでなくなったあとも家族ぐるみで桃太郎やお館様一家と付き合って行くのは楽しそうだし、嫁たちだって好いた男の子どもの1人くらい欲しいだろう。
そんなことを思えば、恐ろしいはずの最終決戦も楽しみになってくるというものだ。
「互いに生きて家族連れて派手に豪華温泉旅行だな」
と、そう言えば、錆兎は
「ああ、それとは別に師匠も旅行に招待したいな。
今日の俺があるのは全て師匠のおかげだから、少しでも恩返しをしたい」
と、実に彼らしい言葉を返して笑った。
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