勝てば官軍桃太郎_29_鱗滝左近次の楽しい老後生活

「あ~、おじいちゃん、また作っちゃったの?
まだ生まれてもいないのに、気が早いなぁ…」
「お~ま~え~はぁぁ~~!!!
元水柱様になんて口のききかたしてやがる!!!」

母屋と離れを結ぶ通路の離れに向かって右側には小さな小屋、左側には木で出来たブランコや滑り台など、幼子が遊ぶような手作りの遊具が並んでいる。

「いやいや、すぐ大きくなるだろうしなぁ。
山と違って街中は幼子だけで遊ぶのも危ないだろうし、館の中でものびのびと遊べるようにと思ってな」

離れに食事を運ぶ二郎がまた今日もそこに増えているうんていに目を丸くして言うと、通りがかった兄の太郎が青ざめて弟の後頭部をはたいた。

しかしながら言われた元水柱様は穏やかなもので、天狗の面をつけていてもなんとなく微笑んでいるのがわかるくらいの上機嫌さでそう言って、楽しげに新しい遊具に目をむけて満足気に頷く。


鱗滝左近次…元水柱は錆兎と義勇がまだ10やそこらの時に彼らを引き取って育てた師範である。

育て手になって10人以上も最終選別に送り出した弟子たちは皆生きて帰らず、最後の最後に錆兎と義勇が唯一選別を突破して戻ってからは弟子を取ってはいないので、実質二人が生存している唯一の弟子だ。

そんな二人がお館様の仲人で祝言をあげたと思いきや、いきなり義勇が子を身ごもったとありえない話を聞いて驚いて山を降りてきたのがきっかけで、そのまま水屋敷邸に住みついている。

自分が育てたのはふたりとも男児だったはずだ。
そう思って最初は何かの間違いかとも思ったのだが、実際に来てみれば義勇の腹に義勇のものとは違う意志を感じる。

鼻が大変良くて他人の気持ちを匂いでわかってしまう鱗滝は義勇の腹の中に確かにいる別の存在がわかってしまって、逆に義勇が少年だったという自分の記憶の方が間違っていたのか?と悩みはしたものの、錆兎も義勇も鱗滝にとっては子か孫のようなものだ。
その二人の子となれば、嬉しくないはずはない。

もう義勇の腹に子がいるのが事実と確認した時点で彼は元水柱から孫フィーバーするお爺ちゃんへとジョブチェンジをした。

自身に子はいない。

可愛がっていた継子は痣が原因で引退、田舎に帰った。
その継子の息子は剣の才能に恵まれず、しかしその息子の息子、つまり継子の孫は祖父の血を確かに引いた剣士の資質の持ち主で、その父親が鬼に殺された時に自分に託されて手元で育てた。

それが錆兎である。

そして同じく身内を鬼に殺されてその錆兎より少し遅れて引き取った弟子は、気立ての良い料理上手で、錆兎の嫁になりたいと常々言っていた。

少年だったと思っていたのだが、もうそれは自分の勘違いだったということでいい。

とにかく己の孫も同然の錆兎と錆兎と共に唯一生き残った己の弟子の間に子が出来たのだ。
これを猫可愛がらずに何が老後だ。

幸いにしてそういうことで錆兎の嫁は自分にもたいそう懐いてくれている自分の弟子だ。
舅の滞在に嫌な顔をしたりはしない。

むしろ大歓迎で、先生を他の隊士と一緒に住まわせるなど申し訳ないと、自分の離れを空けてくれようとするが、身重の弟子にそんな事はさせられない。

なので、そこは全て手作り自給自足で生きてきた鱗滝らしく、弟子に何かあったらすぐ飛んでいけるようにと、許可を得て母屋と離れの間の中庭に自力で掘っ立て小屋をたてさせてもらった。

そして狭霧山と同様自給自足をしようと思っていたのだが、錆兎が最終選別で面倒を見た1人だという柔らかい雰囲気の家事を取り仕切る少年が、どうせ全員分作るのだからと、食事は届けてくれる。

礼にと鱗滝が弟子たちに作ってやっているのと同じ狐の面を彫ってやったら随分と喜んでくれて、錆兎と義勇に次ぐ第二の子どものように仲良くなった。

その他、せっかく居るのだからと、たまには隊士達に稽古もつけてやる。

特に師範であった実父が稽古をつけてくれなくなって久しいという炎柱の青年は、鱗滝が来てから以前にも増して足繁く通ってきて、稽古をねだるようになった。

そんな合間をぬって、鱗滝の日課となっているのが、生まれてくる赤ん坊のためのおもちゃ作りで、中庭に設置した大きな物以外にも、独楽やでんでん太鼓、人形に、もちろん赤子用の小さな小さな狐の面なども、掘っ立て小屋の中に所狭しと作って積んである。

こうして現水柱屋敷は錆兎と義勇の同期18名と炎、風、蛇の柱に加えて、元水柱までいる、下手をすればお館様の屋敷よりもよほど安全かもしれない場所になっていた。








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