その日はそのまま報告だけして帰宅。
しかし翌日は詳しい話をとお館様に呼び出されて産屋敷邸に。
そして錆兎と義勇、それに煉獄が付いた時には、なんと柱がすでに勢揃いしていた。
鬼殺隊は上へ下への大騒ぎだ。
それは柱達も例外ではない。
「錆兎ならやってくれると思っていたよ。
これを機に一気に上弦攻略も念頭に入れていこう!」」
と、お館様も手放しで称賛。
状況説明は始めからいた煉獄がしていって、猗窩座に関しては実際にやりとりをした錆兎が説明を加える。
柱の中には猗窩座とやりとりをすることになることに懐疑的な者もいたが、連絡があっての戦闘の方がこちらも心の準備ができるだろうとのお館様の鶴の一声で、問題なしとあいなった。
その後はお館様が錆兎に戦った時の強さや受けた印象などを直接詳しく聞いて今後を考えたいとのことで他の者は聞きたいことがあれば煉獄へということで、錆兎だけ別室へ。
あまね様さえ退出させた2人きりの部屋。
そこでお館様こと産屋敷耀哉と錆兎は共犯者の顔になる。
「今回はこちらが柱の子達を早めただけじゃなく、向こう側の展開も早いのかな」
と、にこにこと語る産屋敷に、錆兎は
「標的をはっきりさせたから、向こうも手をだしやすいのだろう」
と、ため息をつく。
「おや?君はそれも良しと思っていると思ったけど?」
と、そのため息の真意を問うように産屋敷が小首をかしげると、錆兎は
「標的が俺だけということならな」
と、くしゃりと自身の前髪をつかんだ。
「ああ、今回の義勇のことだね。
こればかりはね…あちらが誰を狙ってくるかこちらで操作するのは難しいね。
確かに今回は君を御旗とする時に彼も添えたけど、それは別に彼を標的にという意味合いじゃなくて…」
「ああ、わかってる。俺といる限り義勇は狙われるし、それなら味方も含めて周知させてしまった方が守ってもらえるだけ安全だ。
それでも鬼の方では猗窩座は義勇を巻き込むのを潔しとしていないから、できれば倒すのは後回しにしたい」
「ふむ…遭遇するかしないかもこちらでは操作できないけど、君的にはどう思う?
誰がどこまでなら倒せるかな?」
との産屋敷の言葉に錆兎は考え込んだ。
前世とはたどる道筋も時期も違うので、当然強さだって違ってくるだろう。
今回の上弦の伍の玉壺だって、錆兎自身が前世よりは身体能力をあげてきているのと、前世の戦いで能力その他を知り尽くしているので、前世よりも早い時期にかなり楽に倒せた気がした。
そういう意味では上弦の肆の半天狗もからくりが分かっている分、確実に倒せるだろう。
というか、むしろこれは上弦慣れをさせるために、誰か他に任せたい。
上弦の壱の黒死牟と参の猗窩座は対峙するまでにどこまで剣技を底上げできるかによる。
猗窩座は前世では実弥と共に倒したのだが、現世ではおそらく一対一の戦いを望んでいるのだろうから、そこは前世よりも腕を格段にあげている自分がどこまでやれるかだが、頑張ればいける…か?
黒死牟は1人では確実に無理なので、できれば今生で色々教えて戦いの癖や気心も知れた継子柱3人と倒したい。
単純に型だけでなく戦いについてのちょっとしたコツなどを全て伝授した彼らと4人でならいける。
上弦陸の妓夫太郎と堕姫は妓夫太郎の毒が厄介だが当たらなければいい。
だからそちらは自分が引き受けて、同時に堕姫の首を斬るのは素早い実弥あたりに任せれば確実だろう。
そんな風に色々考えながら、急務は…と考える。
「まず童磨をなんとかしたいな。
一番先になんとかしないと、そのうち胡蝶が死ぬのだろう?」
そう、前世では錆兎が合流した時には胡蝶カナエの妹の胡蝶しのぶが蟲柱として立っていたが、彼女の姉で今生でつい最近花柱となった胡蝶カナエは彼女の姉で、彼女が上弦の弐に殺された跡を継ぐ形だったらしい。
「俺と義勇が楽しく狭霧山生活をするのはもちろんだが、他もできる限り死人をだしたくない。
なるべくなら情報と作戦と通常の鍛錬で。
出そうと思って出せるものでも、出すまいと思って出さずにいられるわけでもないが、できれば痣もでないに越したことはないしな…」
「おや?君は自分と義勇…それに左近次までが無事ならあとは気にしないと思っていたけど?」
と、わかっているくせに少し意外そうにわずかに目を見開いて驚いた様子を見せる産屋敷に少しムッとしながらも、錆兎はその憤りをはぁ~とため息にして流す。
「…そのはずだったんだがな。
前世と違って少々他と関わりすぎた。
一人の人間がどれだけ努力したところで、手の中で守れるものなんて限られているのにな。
感情というのは厄介なものだ」
そう言って視線を落とす自分の手は、前世の17歳の頃よりはだいぶ大きく硬い気がする。
あの頃よりは守れるものは少しは増えたのだろうか…。
「いや…一人じゃなくなった分、多くなったのか…」
というさらなるつぶやきには、産屋敷はただ笑みを浮かべるのみ。
「敵を倒す手段を考える時に…自然に共に倒すやつの顔が浮かぶようになったというのは、良いことなんだろう」
自分自身に確認を取るようにそう呟く錆兎に、産屋敷は──そうだね、と頷いて、
「じゃあとりあえず童磨については隠に全力で探らせるよ。
あとは?何か用意して欲しいものはあるかい?」
と、聞いてくる産屋敷に、錆兎は少し躊躇したあとに、やや気まずげに
「白無垢…とか、即用意できたりするか?
紋付きも…」
と珍しく視線を合わせずに言うので、聡い産屋敷は察したようで、
「なるほど。私は招待してもらえないのかな?」
などと、にこにこ笑う。
前世で24まで生きたものの、色恋沙汰など全く無縁に剣の道のみを歩んだ錆兎は、その手の話はどうも苦手で、他のことはそつなくこなすのに、どうもかわせず、
「年齢も性別も諸々アレだから2人きりで形だけだ。
わかっているんだろう、からかうな」
と、頬を赤らめるが、もう何十回も巻き戻しを繰り返し、婚姻も当然その回数分繰り返している産屋敷にしてみれば、自分と唯一対等に話す相手のそんな初心な様子はなんだか微笑ましく映った。
「なに、世間なんて気にすることはないよ。
私だってあまねと結婚したのは法的にはまだ認められない13の時だからね。
そうだね…明日の昼には盃その他必要なものも一式水柱屋敷に届けさせるよ。
だから明日の夜には祝言があげられるね」
と、実は服装以外全く知らない錆兎にとってはありがたい産屋敷の申し出に、錆兎はそれはきちんと顔をみて礼を言う。
さらに心憎いことには、
「そうだね。これから君には上弦から一気に無惨討伐まで頑張ってもらわなければならないし、その前に一休みということで、特別に1週間の休暇をあげるよ。
その間の任務は他の子達にがんばってもらうから」
とまで言ってくれた。
だてに色々仕切りなれていない、さすがお館様…と、錆兎は思ったが、それがどういう結果をもたらすのかは、この時は想像もできずにいる。
そう、少しばかり楽しくはしゃいでいる産屋敷の真意には気づかないのであった。
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