勝てば官軍桃太郎_7_帰宅

地元の人間はあまり居ないので、みんな駅までは同じ道だ。
それぞれにはしゃぎながら道を走っていた。

錆兎は選別の間、夜が開けてから午前中いっぱいとちょうど今頃眠っていたので実は眠くて仕方がないが、それでも急いで帰りたい。
だから元気な面々に合わせて駅までの道をひた走った。

なにしろ前世では錆兎は鱗滝の最初で最後、唯一の選別を突破した弟子だった。

錆兎自身は肩を落として絶望して戻ったが、鱗滝は錆兎が生きて帰った事を泣いて喜んでくれていた。
義勇のことが悲しくないわけでは決してなかっただろうが、弟子が生きて帰ってくるのは初めてだったのだ。

錆兎はそんな師範の気持ちなど全く考えずに自分のことでいっぱいで自暴自棄になっていたが、思えばもう少しマシな態度を取れば良かったと、今落ち着いて思えば少し後悔もある。

今度こそ、そう、義勇と共に選別を突破した今度こそ、先生の嬉しい気持ちに素直に寄り添って感謝の言葉を伝えよう。

初の選別突破が2人揃ってなのだ。絶対に喜んでくれる。

前世ではそうやって唯一選別を突破した弟子なのに鬼殺隊に入るのは嫌だとダダをこねたうえに、日輪刀など物資面だけは頼るという体たらく。
本当に師匠不孝をしたものだ…と、猛省した。



駅について汽車の切符を買い、弁当を買う。
そこまでは行きと一緒だが、帰りは周りを7日間一緒に過ごした同期達が囲んでいる。

真っ先に自分は譲る宣言をしたために米を食うのは久々だが、中にはあまり路銀に余裕もなく来ている同期もいるので、頑張れば歩いてでも帰れる距離の自分は帰宅後食えば良いからと、行きに約束した干し杏だけは義勇にやって、あとの弁当はそういう同期にまるごとやってしまった。
義勇もそれを見て干し杏だけは口に放り込んで、錆兎に倣う。

恐縮する同期達には、
「それならいつか出世したらキビ団子ででも返してくれ」
と言って、
「それ、逆だろ。桃太郎はお前だろうが」
と返されてみんなで笑いあった。

こんな風に皆で楽しく笑顔で帰れるなんて、思っても見ないことだった。
腹は減ったが心は膨れた。


ほんの少しの汽車の旅。
一番最初に駅について降りる錆兎と義勇を仲間たちが手を振って見送ってくれる。

──また会おうな、今度は隊服着て任務でな!
そんな事を言い合って、今度は走り去る汽車に乗った仲間たちを錆兎と義勇が見送った。



こうして今度はひたすらに狭霧山の上を目指す。
行きと同じく帰りも道を使って良いとは言われているが、それでも急いで駅から4時間の道のりだ。

「義勇、荷物を貸せ」
と、刀と荷物を持ってやり、一刻も早く先生を安心させるべく錆兎は義勇の手を取って走り出した。

「さ~び~と~」
と、山を半分ほど行ったくらいで義勇の声。

それを錆兎は察して
「ん、わかった。荷物はお前が背負っとけ」
と、義勇に荷物を背負わせて、義勇の前にしゃがみ込む。
それに躊躇なくおぶさる義勇。

伊達に3年間筋力と体力を作るためだけに費やしてはいない。
錆兎はそのまま義勇を背負って残り半分を駆け上り始めた。


こうして狭霧山の山頂。
霧の立ち込める小屋の前で天狗のお面をつけた男…鱗滝が待っている。

「せんせえぇーーー!!!」
その姿を見て元気になったのか、義勇も錆兎の背中から滑り落ちて、2人で一緒に駆け寄ると、鱗滝は両手を広げて二人を受け止めた。

「よく生きて戻ったっ!!」
そういう声も肩も震えている。

天狗のお面の下、涙がこぼれ落ちるのを見て、二人も声を上げて泣いた。

「本当に…本当に二人共よく生きて戻った」
と、何度も繰り返す師範。

これまで送り出した12人、全て生きては帰って来なかった鱗滝からすれば、送り出した2人が2人とも帰ってくるなんて、感無量、夢のようなものだろう。
錆兎にしても時を遡ってまでも目指した義勇の生存。

それぞれにその思いは深く、3人でしばらくその場で泣いていたが、現実の体はまだまだ素直な子供のようだ。
そこで盛大になる腹の音。

「す、すみませんっ!」

さすがに恥ずかしいと錆兎が謝ると、義勇がそこですかさず

「錆兎は皆を助けて回って、自分より体力がない仲間に自分の分の米を全部やってしまってたんです。
帰りのお弁当も腹を減らして、でも弁当を買えない遠くから来てる仲間にやってしまったから…」
と、鱗滝に言ってくれる。

それを聞いて、
「そうか。それは良いことをしたな」
と、鱗滝が錆兎の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「お前は強く生まれ育った人間の責務というものを教えるまでもなくわきまえているよく出来た子だ」

そうどこか嬉しそうに言われて、前世で親不孝ならぬ師匠不孝をしたと猛省中なので余計にほわほわと嬉しい気分が沸き起こる。

「…先生の…鱗滝左近次の弟子として恥ずかしくない人物になりたいんです」
と言った言葉は本心だ。

勝てば官軍。勝つためにはなんでもするとは思ってはいるが、師匠を悲しませること、義勇を不幸にすることだけはすまいと思っている。

そんな気持ちもおそらく鱗滝には伝わっているだろう。
また嬉しそうに、そうか…と、頭を撫でたあと、

「飯の用意はできている。
二人共荷物を置いて手を洗ってきなさい」
と、二人を小屋の中へと促した。










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