影は常にお前と共に_31

次に意識が戻ったのは、頬を撫でる優しい手の感触を感じたときだった。
その手の感触を義勇はとても良く知っている。

…さび…と……

離れて行ってしまうのが惜しくてその手にあまり力の入らぬ己の手を重ねると、手がぴくりと止まったので、ゆるゆると目を開けた。

目の前には愛おしい恋人の顔。
笑っているのに、泣いている。
人前で泣いている錆兎を見るなんて初めてだ…と義勇は思う。

──義勇、お疲れ様。本当にありがとうな
と、言う彼のもう片方の腕の中を見れば、布に包まれた何か…。

──びっくりしたよ。男女の双子なんて。
と、その横には同じように布に包んだ何かを持った姉弟子の真菰が晴れやかに笑っている。

そうして、ほら、と、布の中身が見えるように真菰が隣に来て布の合間を加減すると、そこには驚いたことに宍色の髪をした赤子…そう、顔立ちすらも錆兎がそのまま時を戻したのか?と聞きたくなってしまうような赤子が眠っていた。

「…か…わいい……」
と、思わず漏れる声。

「こちらはもっと可愛いぞ」
と、錆兎が見せてくれる布の中には、こちらはまるで己を模したかのような、赤ん坊。
たくましい父親の腕に抱かれて、安心しきって眠っている図は、羨ましいほどだ。

「じゃ、あたしは何か義勇が口にできるものを用意してくるね」
と、完全に義勇の意識がはっきりしたとみてとって、真菰が義勇の布団の横に自分が抱いていた赤ん坊を寝かせると、渡り廊下へと消えていった。

横を向くと紅葉のような手をぎゅっと握りしめた小さな錆兎がいて、思わず見入ってしまう。

握っている手のひらをつんとつついてみると、一瞬広がって、それからぎゅうっと思いの外強い力でつついた義勇の指先を握る。

ああ、この子は父親と同様に強く立派な剣士に育つのだろう。
義勇はそう思った。

「…鬼は……生まれなかったのか……」
と、思わず問えば、腕に抱いた赤ん坊の頬を楽しげにつついていた錆兎は顔を上げ

「だから言っただろう。お前の腹にいたのは、まぎれもなく俺とお前の子だ。
鬼であろうはずがない」
と、それは少したしなめるような口調でそう言うので、

「…でも…鬼でも抱えているのかと思うほどには辛かったんだ」
と、ありえないくらい長く続いた吐き気と、その後のこれも地獄の底にいるような痛みを思い出して口を尖らせると、

「そのあたりは代わってやることはできんから、すまなかった。
でも赤ん坊の世話はちゃんとする。
義勇はしっかりと身体を休めてくれ」
と、いつものように頭をなでてくれた。











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