料理は色々な意味で素晴らしかった。
まず最初に思ったのは
…素晴らしく綺麗で…素晴らしく美味く…そして素晴らしく少ない。
錆兎はこの手の料理はどうも食べた気がしない。
正直ちまちまと食べるのが面倒くさい。
しかし隣の義勇は嬉しそうだ。
もともと年の離れた姉に大事に大事にされて育ってきたのだろう。
初めてあった頃もずいぶんとおっとりとしていて、チビチビと眼の前の物を口に運んでいる間に大皿料理を食べ損なうことも多々。
そこで錆兎が見かねて取り分けてやると、それもやっぱりチビチビとゆっくり味わいながら食べている。
その他にも修行の場まで一気に駆け抜けようとする錆兎と一緒に走っていたかと思うと立ち止まり、そこに咲く小さな花に顔をほころばせる。
そんな風に男にしてはやや繊細なところがあった。
それが錆兎の生存が分かるまでは性格もがらりと変わって、食事は身体を動かす燃料の摂取に過ぎないとばかりに流し込み、鬼以外に目もくれずにいたので心配をしていたのだが、すっかり元に戻ったようだ。
「これ…綺麗だな。食べてしまうのが惜しいくらいだ」
と、八寸の皿を前に箸を止めるので、
「良いから食ってしまえ。なくなるのが惜しければおれのをやるから」
と、錆兎は皿ごと義勇の前に置いてやる。
しかし
「え…でもそれでは錆兎が腹が減るだろう?」
と、さすがに戻そうとする義勇に、
「これではまったく腹の足しにはならん。
ちまちました物を食うと余計に腹が減る。
だから腹持ちが良さそうな物をたくさん食うからいい」
と言ってやると、義勇はそうか…と、嬉しそうに八寸の皿を自分の前に置き直した。
ちんまりちんまりと食べる義勇が可愛い。
大きく表情を変えるわけではないから無表情に見えるやつもいるかもしれないが、ずっと一緒に育ってきた錆兎にはわかるのだ。
ほわほわと花を飛ばすくらいご機嫌で食べている。
そんな義勇を肴に一献傾けながら、錆兎も炊き合わせや焼き物に手をつける。
普通に美味い。
少ないと言ったが、それは先付けや八寸の話で、全体的には品数も多ければ量もそこそこある。
炊合せ、焼き物の他にも、蒸し物、和え物、揚げ物と進んだあたりで、楽しげに食べていた義勇の箸が止まった。
「錆兎……」
との声で何を言いたいかがもうわかってしまうくらいには、同じ時を過ごしている。
「ああ、俺が食う」
と、笑いながら義勇の残った揚げ物に箸を伸ばすと、
「…美味いんだけどな。量がすごいな」
と、義勇が照れくさそうに笑った。
こんなふうな時間を義勇と共に過ごせる日がくるとは思っても見なかった。
まだ鬼退治の日々は続くだろうし、無事年をとっての引退の日を迎えられるなんて保証はどこにもない。
だが、今過ごしているこの時間は夢幻ではなく真実だ。
お館様、煉獄、不死川、胡蝶に真菰、兄弟子達…多くの人の心遣いで得る事ができたこの貴重な時間は、大切にすごさねばならない。
…きまずいから…と逃げているなど、男ではないな…
と、錆兎は思い直して小さな決意をする。
食事は最後に水物、棹物、甘みが一皿に乗って出てきたので、水物だけ口にすると、あとは義勇の皿に乗せてやり、心臓が口から飛び出すような思いで錆兎は言った。
「義勇…コレを食ったら話がある」
その言葉に頷きつつも、やっぱりきょとんとした顔の義勇に色々くじけそうだったが、男ならここでハッキリ告げなければならないものがある。
そう思って、錆兎は義勇がちまちまと水ようかんを口に運ぶのを眺めながら待った。
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