村田の人生やり直し中_27_最終戦

──鬼の品評会みたいだな…

辿り着いた広場に並ぶ鬼、鬼、鬼。
それを見て錆兎がそう言って苦笑する。

──で?どれが本物よ、大将。
と、錆兎以外に唯一慌てていなさそうな碓井。

その後ろの4名は鬼の数と多様さに怯えて震えていて役には立ちそうにないし、戦う気満々で2本の刀を両手に握る彼は唯一くらいに戦いの役に立ちそうな人材だ。

なんだか楽しそうに問いかけてくる碓井に、錆兎ははぁ…と大きくため息をついた。

「気配がちょろちょろと移動している。
今は右前方の青い鬼の左の人差し指だが、ちょっと前は隣の赤鬼の右耳だった」
「…つまり?」
「ここにいる鬼の半分くらいは一体の鬼が擬態している姿だ。
その部分だけ狙うのはやや面倒だ。
半数は弱目の鬼。
…というわけで、一気に踏みつぶすしかないから任せてくれ」

と、その言葉自体がもうすでに色々謎なわけだが、一つだけ、任せてくれと言うことだけは理解したので、村田は一歩後ろに引く。

一方で隣の義勇は逆に一歩前に出て
──凪?
と錆兎に声をかけ、
──ああ、頼むな
と錆兎が柔らかく返してくる言葉に刀を抜いた。

そうして大方が自分の取る行動を把握したところで、碓井が
──俺は?何かするか?
と、最後に聞いてくるので、錆兎がそれに
「一応これで片を付けるつもりだが、つかなければいったん撤退だからその際の退路を検討しつつ、本部への連絡をお願いしたい」
と答えると、
「了解。任せておけっ!」
と、返したところで、最終決戦が始まることと相成った。



──錆兎、今回も何か秘密にする感じ?
それなら戦っている間に全員に周知してやろうと村田が問うと、錆兎は義勇と顔を見合わせニコリと笑う。

そうして二人で笑顔で振り向いた。
「大丈夫っ!これは元水柱の鱗滝左近次先生考案の、兄弟弟子が同じ任務に就けた時専用の新しい水の呼吸の型だからっ」

そう答える錆兎の横で、義勇が嬉しそうな笑顔でうんうんと頷いている。

「さっきの攻撃要素を持たない凪に対して、これから俺が使う型は防御よりの水の型には珍しく防護要素を一切持たない攻撃型の技だ。
義勇の凪がないと多分死ぬが、それがあれば水の呼吸の中では最強だと思う。
なんならこの剣技を生み出した先生の素晴らしさを宣伝してくれてもいいぞ」

と、そう言って、先生大好きな二人はどこか誇らしげな顔をしつつ頷き合って刀を抜いた。


──では行くぞっ!準備は大丈夫かっ?義勇。
──うんっ!任せてっ!!

夜でも目立つ暖色の色合いの精悍でキリリと少年らしい容姿をした錆兎と落ち着いた色合いの少女のように愛らしい義勇。
その対照的な、でも、絵物語のように美しい少年たちが並んで立つとまるでおとぎ話を元にした芝居の舞台のようだ。

──鱗滝左近次が弟子、渡辺錆兎、参るっ!!
と、それも思い切り特徴的な光が零れ落ちるような明るい青の刀を抜く錆兎。

──同じく、冨岡義勇、行きますっ!
と、闇にかすかに浮かび上がる落ち着いた濃い青の刀を構える義勇。


これは芝居ではなく飽くまで実戦だというのに、それを見て村田はなんだかわくわくしてしまう。
それは村田だけではない。
碓井も…その後ろで震えていた他4名の隊士もどこかキラキラした目でそちらに視線を向けていた。


──鱗滝式水の呼吸拾弐の型、獅子爆流!!

光りを舞い散らせながら青い獅子が大きく吠えて敵に突っ込む。
そしてそれと呼応するように

──鱗滝式水の呼吸拾壱の型、凪…
と、静かな波紋が獅子の足元から広がった。


首も手足も胴も関係なく、再生する間を与えられずに獅子の牙にかみ砕かれる鬼達。
なるほど。
首が移動して斬れないのなら、全てをほぼ同時に攻撃すればいい。

──すっげえ派手な力技だな
と、碓井が感心したようにつぶやく。
他もそれに言葉もなくうんうんと頷いた。

そんな中、村田も無言で夜空にキラキラした光を舞い散らせる青い獅子と、それを包み込む、光を受け止めて輝きを増す水面を凝視する。

ああ、思えば前世で村田が対峙してきた鬼狩りは常に苦しく辛いものだった。
それなのに今生ではこんな希望に満ちた何かを感じさせる心躍る戦いが目の前で繰り広げられている。

時間にしてほんの数分。
水の獅子が止まった時にはあれだけ感じていた鬼の圧は消え、視覚的にも周りはさらさらと舞う砂のみだ。


──実戦で使うのは初めてだったから、結構緊張したな。
と、軽く首を傾けながら、そう言って刀を鞘に納める錆兎。

それに対して義勇の方は
──錆兎が居れば絶対に大丈夫だと思ってたから、俺は平気だったっ!
と、晴れやかに笑う。

そうしてそれは二人揃って
「「でも先生の生み出す剣技は最強だっ」」
と主張する。


──さすがに鱗滝さんは本当に弟子たちに好かれているなぁ
と、その時、後ろから声がする。
え?と振り向くと、金色に赤の差しが入った派手な髪の男性が立っていた。


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