村田の人生やり直し中_26_察知

──碓井さん、攻撃来そうなら義勇に伝えてやってくれ。義勇が防ぐ
──へ?このお嬢ちゃん、戦えんのか?
錆兎の言葉にびっくりした顔で義勇を見下ろす碓井。

それに気を悪くすることもなく、義勇は
──う~ん。戦いはしないかな?防ぐだけ
と、コトンと可愛らしく小首をかしげる。
一応刀は握っているが、それを本当に振るうようには見えない華奢さ、愛らしさだ。

しかし…
──右後方45度っ!!
と、自分は前方で戦いながら後ろに目でも付いているのか後方の動きまで察知したらしい碓井がそう伝えると、義勇はすぅっと握った刀を前方に下ろすように構えて

──水の呼吸 拾壱ノ型 凪…
と、静かにその技を口にする。

叫ぶように言う錆兎とは対照的だ…と村田がそんなことを思っていると、彼を中心に水面が広がっていくような幻想が見え、敵の攻撃の手がすぅっと消えていった。

え?あれは錆兎が死んだあとに鍛えて鍛えて修得した技じゃなかったの?
この時分から使えたの?!
と、驚く村田。

もし普通にこの頃から使えたのなら、彼もまた秀才型ではなくとんでもない天才なんじゃないだろうか…と思っていると、敵の攻撃を防いだ義勇はにっこりと

「最終選別のあとにね、防御の型だけね…錆兎と一緒に研究してたんだ。
そしたら先生が協力してくれて、出来上がった。
錆兎と俺、二人一緒だからこそ出来る戦い方。
俺は攻撃は人並以下だけど、それは錆兎が担うから。
二人いて初めて機能するとなれば、ずっと錆兎と一緒に任務に出してもらえるかもしれないし…」
などと、とんでもないことをのたまわる。


錆兎と居るために攻撃を放棄して防御だけに特化する…と、まあよくそんな思い切ったことを決意したものだ。
水の呼吸は元々防御に特化した型ではあるのだが、それでも偏り過ぎじゃないか?

まあでも、宍色に藤色と暖色系の目立つ色合いと黒に濃い青という落ち着いた色合い、動的と静的、攻撃と守り…と、色々な意味で真逆な二人なのに、それが共にあるのがしっくりくるのが不思議な感じだ。
というか、もう互いの人生を互いにかけすぎだろ…とあきれ返る。


唖然としつつ固まる村田だが、その時錆兎が不意に
──特定したっ!先導するっ!!
と、有無を言わさず前方へと走りだしていく。

──りょ~うかいっ!ついていくぜっ!筆頭っ!
と、碓井がそれに続きかけ、そこでふと立ち止まって
──はぐれて死にたくない奴はついてきなっ!
と、他4人に声をかけた。
もちろん村田と義勇は言われる前にすでに錆兎の後を追っている。

錆兎を追いながら村田は碓井の言葉にあれ?と思ったが、容赦なく走っていく錆兎についていくのに必死でその違和感もあっという間に記憶の奥底に飛んで行ってしまった。

碓井はと言うと声をかけるだけかけるとさっさと錆兎を追いかけるので、他の4人は慌てたようにそれを追う。

そりゃあそうだ。
彼らが指示を仰ぐべき太田は一応息はまだあるが重傷でおそらく助かりそうにない。
…ということは、この窮地から彼らを救い出すことはできないのだから。



そうして走りながら村田は錆兎に
「隊への連絡するっ?!」
と叫んだが、錆兎から
「さすが村田っ!よく気づくなっ!
俺の鴉は太田さんが重傷を負った時に本部へ飛ばしてしまったから、次に連絡するようなことがあったらお前の鴉を飛ばしてくれっ」
と、返って来くる。

そう言われてみれば錆兎の鴉はすでに彼の傍からは消えていた。
あの状況でいち早く連絡すべきと気づいて鴉を飛ばしているなんて、とんでもない新人である。

そんな年下の少年に遅れて気づいた自分のことをさすが!と言われても…と思うが、そのあたりも上に立つよう教育を受けた子どものお育ちからくる言動なのだろう。
気づくのが遅いのを指摘するより、言われる前に気づいたことを褒めた方が何事もスムーズに進む。

のちに錆兎にその時のことをそう話したなら、彼は少し困った顔で
「俺は本来はそういう気を回すのはあまり得意じゃないんだ。
実家では2歳年上の従兄弟が、先生の所では1歳年上の真菰がその役を引き受けてくれていたんだが…いなくなってしまったから自分でやるしかない」
とうつむき加減で零した。

どこか悲しそうに俯くのも、引き受けてくれるではなく引き受けてくれていたと過去形なのも、二人がそれを引き受けることが出来ない…つまり死んでしまったのであろうことを示しているのだろう。

人一倍責任を持たせられる立場に居続けたまだ幼い少年にとって心の拠り所であった存在が二度に渡って失われたことは、大きな傷になったに違いない。

だからこそ、義勇のことを唯一絶対に失えないのだと必死になるのはわかる気がする。

だからこそそのあと、すぐ顔をあげて
「でも村田に出会って、村田がそういう細やかなところに気づいてくれる奴だから、すごく気が楽になった」
と笑って言う錆兎の言葉に、自分はまだまだ未熟だがそれで少しでも錆兎の心が軽くなるなら可能な限り色々に協力してやろうと村田は思った。

しかしまあ錆兎には出会ってからその後までずっと、なんだか過大評価され続けている。
だが、そうやって信頼して気持ちを預けてもらえるのは自分も家族を全て失って一人ぼっちになってしまった村田の心をなんだか温かくしてくれるのだった。


ともあれ、錆兎はひたすら走る。
後ろがついてこれないなと思えば少し歩を緩めて、それでも走り続けてたどり着いたのは、村の中心あたりの大きな広場だった。


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