村田の人生やり直し中_24_おびき寄せ

村の奥に進んでいく間ちらほらと鬼は出没して、その都度太田が倒していった。

そうして得意げに
「今回3体目だなっ。
この調子で鬼を倒し続ければこの任務が終わる頃にはあと3体は行って累計で50になるかっ」
と誰にともなく口にする。

それに錆兎が
──すごいな…と呟いた言葉を拾って、
「おおっ!お前も素質はあるんだろうから、俺のように精進すればいずれ階級も上がっていくかもしれないぞっ」
と、もう最初の敵対心丸出しの態度が嘘のように上機嫌に返してきたが、錆兎はそれに少し困ったように笑うのみだ。

そこで
──…そういう意味で言ったんじゃないんだけどな…だろ?!
と、さきほどからずっと構ってくる碓井がやはり楽し気に寄って来て小声で言う。
まあ、そうだろうな、と村田も思った。
一晩で最高10体の鬼を斬り捨てた錆兎がその程度ですごいと思うはずがない。

案の定、碓井が
「自分が鬼を50体倒したいがために全部隊を利用しているのを隠しもしなくなったのがすげえってことだよな?」
と、さらに付け足してくるので、村田も苦笑したが、錆兎はさらに困った顔で
「それは…まあ実害もないからいいんだが……」
と、ため息をついた。

「おいおい、”それはいい”のかよ?
奴の出世のためにお前さんも含めて他の隊士がいいように使われてんだが?」
と、その錆兎の言葉に碓井が目を丸くする。

それに対して、
「俺は先生に恥ずかしくない立派な行いを続ける隊士にはなりたいが、別にそれが階級という形であらわされなくても構わない。
俺の生き方、隊士として臨んできた姿勢は、先生と義勇と村田と…親しく付き合いたい人間だけが認めてくれていればそれでいい」
と言う錆兎の声音は穏やかで、心からそう思っているのだとわかるようなものだった。

あ~すごいな、こいつ。
と村田はそれを見て思う。

前世もそうだったが今生はまだ体が出来ていないため、自分は前世以上に目立つところのない極々普通の弱い隊士だが、それでも太田の出世のためにいいように利用されているらしいと知って腹が立つとまではいかないが、少なくともいい気持ちはしない。

なのに自分が明らかに表舞台の主人公になれるような実力があっても凡人に利用されることに嫌な顔一つしないのはすごい。

ああ、これが金持ち喧嘩せずということかなぁ…
と、一見男らしいキツイようにも見える顔立ちの錆兎の整った横顔をみながら、村田は感心してしまった。

しかしそれだけではなかったらしい。
錆兎は村田よりももっと色々を見ていたようだ。

「それはいいんだ。それは。
先ほども言ったが誰が斬っても鬼が斬られていなくなれば別にいいだろう?
それよりも問題は、あの程度の鬼があのくらいの数居たくらいで村が一つ滅ぶわけはないと太田さんが思っていないところなんだ。
この村は立ち並ぶ家々を見ても小さな村ではない。
その村の人間が一人も外に逃げることができずに居るということが重要だ。
一人も逃さないということは、鬼達の間である程度統率が取れているということだろう。
そうなると俺達の班が村に足を踏み入れたということは、その統率者には当然バレているだろうし、阻止されないということは鬼が行かせたい方におびき寄せられているんだろうと思うんだが…」

ひぃぃぃーー!!!!
とんでもない話を聞いて村田は悲鳴を飲み込んだ。

今この瞬間も危険なんじゃないだろうか…。
というか気づいていないなら申告しようよと思う村田。

だが、そんな村田の心の内を読み取ったように、碓井が
「あ~、でも太田に言っても信じねえよな。
返って意固地になるだけだし、あいつが痛い目合うまで静観だよなぁ…」
などとにやりと悪い笑みを浮かべて言う。

「まあ…仕方ないよな。
いざとなっても村田と義勇は根性で逃がすが…」
「俺も協力してやるからそこに入れろ」
「村田と義勇を助けるのに協力してもらえるなら、その次くらいには…」
「お~、任せろっ。
退路を築くのは得意だぜっ!」

と、撤退前提くらいの…というか、村人が一人も逃げられなかったくらいの鬼に班ごとおびき寄せられているわりには慌てた様子もなくそんな話をする二人に村田は信じられないものを見る視線を送った。


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