村田の人生やり直し中_23_任務と目的

そうしてしばらく村の中を進む一行。

正直村田にはそれは全くわからなかった。
しかし錆兎には何かわかったらしい。

──太田さん…
と、何かに気づいたようにピクリとそれはおそらく反射なのだろう。
義勇とつないだ手を放して刀に手をかけながら、前を歩く太田に声をかけた。

──なんだ?しょんべんか?
と、足を止める太田。

彼の脳内では錆兎達はまだ幼い未熟者という認識のようだ。
そんな言葉と共に振り返る。

しかしそんな子ども扱いも気にすることなく、錆兎は
──右前方の木の陰に鬼がいます
と、報告した。

それに
──鬼っ?!
と、全員がそちらを振り返るが、数メートルも離れた木の陰の向こうなど見えはしない。

そこで太田は
「鬼など見えんぞ。
恐ろしい恐ろしいと思っているから何でも鬼に見えるのだろう」
と鼻で笑って見せる。

だがただ一人、前世の音柱にそっくりな碓井という隊士だけが、
「あ~、居るなぁ。お前よく気づいたな。普通気づかねえよ」
と、苦笑交じりに言った。

「あぁ?!どこにも見えんぞっ」
錆兎だけじゃなく碓井までが言い出したので、皆もう一度そちらを見るが何も見えない。

するとその太田の言葉に
「感知するのは視覚だけじゃねえからな。
坊ちゃんは何で気づいたのかは知らねえが、俺は元々すごく耳が良いんだ」
と、暗に目で見ても見えないと伝えてきた。

錆兎はその碓井の言葉に敢えて答えず、ただ
──斬ってきましょうか?
と、一歩前に出るが、太田は
──いや、いいっ!俺が行くっ!
と、慌てて止めた。

そうして太田が木に向かって進むと躍り出てくる鬼。
鬼である以上油断はできないが、そう強い鬼でもないようで、太田はなんなくそれを斬って捨てる。

それを見てにやにやとする碓井。
──あれ、どう思うよ?
と聞かれて戸惑う村田や義勇の代わりに錆兎が
──いいんじゃないか?斬りたい人が斬れば。
と淡々と答えた。

それにちょっともの言いたげに片方の眉毛をピクリとあげる碓井に、錆兎はにこやかに
──どういう鬼が出ても同じように斬るなら尚可…だが。
と付け足して、
──違いねえっ!
と、その言葉に碓井が噴出した。

──錆兎…碓井さんとのやりとりの意味、わからない。
と、二人だけでわかりあっているのが嫌だったのか、義勇がそこで少し口を尖らせて錆兎の羽織の裾をツンツンと引っぱるので、錆兎は、ああ、すまん。と、言いつつ義勇と村田に説明してくれる。

「たぶん…太田さんはせっかく鬼が多くいるであろう任務に就いたからには鬼を50体斬りたいんだと思う。
甲だしな。
それ自体はまあいいんだが、本来は総指揮なら指示を出すために前に出ず他の班を先鋒に出すべきだろう?
それを自分の都合で職権乱用してしまっているあたりが少しばかり自分の都合を第一に動いてしまう人に思えるし、弱い鬼は斬るが危険を感じる強い鬼が出た場合に撤退ならいいが他に押し付けて逃げなければいいなと…まあ、俺と碓井さんはそう感じたわけだ」

うわぁ…と村田はありがちすぎて頭を抱える。
錆兎が言ったことは碓井が思っていたことそのまんまだったのだろう。

「お前、察しすぎだろっ!!」
と爆笑した。

「んで?どう言って自分だけ逃げると思う?」
と、そこでさらににやにやしながら聞いてくるのに、錆兎は少し困ったような顔をして、それでも言う。

「俺達子どもを安全に逃がしてやるために護衛する…あたりか」
「うはっ!やっぱりそう思うかっ!!
どう見ても奴よりお前の方が強そうだけどなっ!」
と、碓井はさらに笑った。

「笑い事じゃない。その場合、置いて行かれる5名が死ぬ」
と、錆兎は急に真顔になる。

ああ、大人の事情を察して困った顔で微笑むより、まっすぐ真面目な顔で話す今の方が錆兎らしいな…と村田は思った。
古くから続く名門の…しかもまとめ役を担う家の跡取りとして育てば綺麗ごとだけではいられないのだろうが、それでも彼は清廉潔白で公明正大で…まっすぐ光の中を歩くのが似合っている。

「それでもいいんだろ?お前。
さっき連れの二人と無事生還することを目指すと言ってたし。
それってそのためには他を斬り捨てても良いってことじゃねえか?」

そんな風に思っている村田の横で、しかし碓井はそんな意地悪いことを言って錆兎の顔を覗き込んだ。

すると錆兎は
──言ったな。
と短く答えたあと、少し目を伏せて
──しかしそれは優先順位の問題だ。
と続ける。

「俺の優先順位はまず義勇。次に村田。
そのあとは俺が死ねば義勇が悲しむから義勇が必要としているうちは自分。
しかしだからと言って他がどうでもいいわけではない。できる限り生存者は多い方がいい」

そういう錆兎の目には迷いも偽りの様子も見えない。
はっきりきっぱりと心からそう思っていることを口にしているのだと思う。

「助けられる相手は可能な限り助けたい。
俺は大勢の命と引き換えに生かされた人間だから、その大勢の人間が恥ずかしいと思うような生き方はできないししたいとも思わない。
もちろん、理想だけでは生きていけないことは重々承知しているし、必要とあればそうだな…意に染まぬ現状というものも受け入れねばならぬこともある。
…が、飽くまでそれはあるべき目的を遂げるための手段にすぎないし、理想と言う目的があってこその妥協と言う手段だと思う」

うわ…重っ…と、村田は正直思った。
自分、この年にそんなたいそうなこと考えてたっけ?と思うと、否というしかない。

ただただ唖然とそれを聞いている村田と、例によって、さすが錆兎っ!心構えが違うっ!と目を輝かせる義勇。

そして碓井的にはそれは好ましい答えだったのだろうか…
「あ~、合格だなっ!
せいぜいお前さんが極力お綺麗な正道を貫けるための手段になってやるから、遠慮なく頼ってきなっ」
と、よくわからないが機嫌よくそう言って錆兎の背をバン!と強く叩いた。


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