村田の人生やり直し中_22_寂れた村と少年たち

こうして村の東と西にある入口にそれぞれ一班ずつを残し、村田たちの班だけ村の中へ。

村と言うと少し歩けば景色が一望できるような小さなものを想像するが、ここは神社や墓場、畑なども全て敷地内にあり、ところどころに大きな木が木陰を作っているような、割合と広い…しかし見通しの良いとは言えない村だった。

そして…おそらく喰われた人のものだろう、ぷぅんと生臭さと鉄の入り混じったような匂いが夜風に運ばれてくる。

村田は前世でさんざん悲惨な現場は見てきたのだが、それでもこの妙な…生温かい静けさは正直気味悪く感じた。


村田の班は本当の新人の癸は村田と錆兎と義勇のみで、あとの6名の先輩のうち、一人は総指揮の太田。
残り5名の中の4名は壬から乙までなのだろうが、見覚えがない。
まあないのが正しい。
前世ではこの作戦に参加している隊士達は全員戦死しているのだから。

…が、そこで残りの一人。
どこかで見たことのある顔だと思う。


いや、覚えてるけどっ?覚えているけど、何故この人がここにいるのっ?!

忘れられるわけがない。
柱稽古の時はお世話になりましたっ。
お嫁様達の握ってくれた握り飯、大変美味しゅうございましたっ。
でもなんであんたがここにいる?!
前世でもいたのっ?!
実は一人生き残ってたのっ?!
それとも何かで前世と歴史が変わってんの?!

そう問い詰めてみたいのだが、突然それを言い出したら自分が変な痛い人認定されること間違いなしだ。

というか、その端正な顔立ちはものすご~~く似ている気がするが、そもそもこんな若い頃に会ったことがないし、派手な額あても変わった化粧もせず、簡単な自己紹介でも本来は来るはずの同期が急に体調を崩してこられなくなった代わりに来た丙の碓井と名乗っていた。
それに加えて、村田達新人3人にも面倒だから敬語は要らないという。
柱ならさすがにため口OKとは言わないだろうから、まさか他人の空似のそっくりさん?!

──…錆兎、ちょっと聞いていい?
──なんだ?
──今のさ、音柱って誰だっけ?
──……宇髄…天元って人だって聞いたが?どうした?突然。
──ううん、なんでもないよ。

一見今の状況に全く無関係で唐突な質問に錆兎は目を丸くしたが、村田の返答に追及されたくないことなのだろうと察してくれたようだ。

──ならいい。何かあったら遠慮なく言えよ?
と、なんだかもう好意全開だろっ…と思うような言葉と共に少し笑顔を見せて前を向く。
本当に…義勇を助けたということは、もう錆兎にとっては無条件の信頼の条件らしい。

その大切な兄弟弟子としっかりと手を握って歩く錆兎に
「お前…おこちゃまの遊びじゃないんだぞ。右手を使えない状況にしてどうするっ!」
と、太田がしかし言葉ほどには不快でもなさそうで、むしろ馬鹿にしたような声音で言うが、錆兎は
「一緒に育った兄弟弟子なので異常があれば口で言うより互いのわずかな手の緊張具合で伝わるので。
俺は両利きで義勇は右利きなので俺が右手を預ける形にしています。
お目ざわりでしたら申し訳ないとは思うのですが、互いに協力し合って諸々に対処してきた半人前の新人なので、ご容赦願えないでしょうか」
と、彼の剣技を見てきた村田が噴出してしまいそうなことを平然と口にする。

太田はプライドの高い男で、万が一にでも新米に後れを取ったりしないようにとピリピリしていたらしい。

普通ならふざけるなと言うところなのだろうが、
「ふん。最終選別のアレは噂に尾ひれがついただけか。
まあまだガキだしな。
安心しろ。俺はかなりの戦闘を乗り越えてきた隊士だ。
お前らが対処しなければならないようなことはない」
と、むしろ機嫌よく笑みさえ浮かべてそう言った。


──…錆兎は強いのに…それを言えないのは俺のせい?

太田が最初のピリピリした状態から一転、機嫌よく離れて言ったのを見て、義勇が泣きそうな顔で唇をかみしめる。
錆兎はそれに苦笑して、それからチョイチョイと村田に手招きをして、二人の肩に手を回して引き寄せた。

「情報を得たかった最終選別の時と違って、俺にとって今回一番大切なのはお前達二人と無事生還することだ。
大切なのは身の丈に合わない評価を得ることよりも、長く生き残って戦って鬼を倒して大切な者を守ることだろう?」

そういう錆兎に義勇はいつもの通り──さすが錆兎っ!…と、目を輝かせるが、その錆兎の視線は村田の方に。

そしてニコリと晴れ晴れしい笑顔で
──最終選別で冷静さを欠いていたのを村田の言葉や態度で落ち着いて…それを猛省したんだ。
などと言ってくる。

うあぁぁ~と村田はもう反応に困ってしまった。
もう過大評価されまくりだ。

「そうだね、村田はすごい奴だっ。
火をおこすのも上手だったし、錆兎がすごい奴だというんだから間違いないっ!」
と、義勇までキラキラした目で言い始める。

本当にもう純真な子ども達に過大評価されて懐かれてしまった感じがする。
まあ彼らはまだ13歳の子どもで、村田は25まで生きて巻き戻っているのだからそれもあながち間違いではないのだが…。

前世の時のこの作戦の結果と、それが原因なんじゃないだろうかと思うような少々問題のある性格な気がする総責任者と不気味な村の雰囲気とで暗かった気持ちが、少年二人の言動でなんだかあっという間に変わってしまった。

多分大丈夫。
…と、何かそんな要素があったわけでもないのに、不思議とそう思ってしまったのである。


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