村田の人生やり直し中_18_平々凡々なはずの村田のとてつもない偉業

──選別はどうじゃった?

最終選別が終わったのは朝だったが、それから服の採寸やら日輪刀が出来た時の届け先の確認、それに入隊に関しての諸々の説明を受けていたので会場を離れたのは午後になっていて、無事師範の元に着いたのはすでに夕方。
そこからさすがに少しばかり休憩をさせてもらって、その後すぐ夕食だった。

師範は信州の出で実家では味噌を作っていたという人で、隊士をしていた時はさすがに時間も場所もなかったが、隊士を引退して育て手を始めて落ち着く場所を決めてからは、再び味噌やら糠漬けやらを自家製で作っている。

村田も村田の兄弟弟子たちも、師範の自家製味噌のみそ汁を飲んで育ち、旅立った後も時折その味を懐かしんで師範の元を訪ねたりする弟子も多い。

村田ももうこの味にどっぷり浸かっていて、──ああ、やっぱり旨いなぁ。ホッとする…と、みそ汁をすすってため息をついた。

そんな弟子に師範は湯気の向こうで目を細めながらも選別の様子を聞いてくるので、村田が錆兎と義勇のこと、藤襲山の最奥にいた大鬼のことなどを報告すると、

──なるほどな、そういうわけじゃったか…
と、師範は訳知り顔で頷いた。

──そういう…わけ?
と、それに村田が不思議な顔で聞き返すと、師範は

「あの選別ではな、普通に鬼を斬る強者ほどあっさり死ぬということがしばしばあってじゃな…わしら育て手の間では謎に思われていたんじゃ。
運…というにはあまりに強者の死亡率が高い。
しかし強者しか辿り着かぬ最奥にそんな鬼がいるとなれば、それも納得じゃ」
と答えると、少し考え込むように目を閉じる。

「もったいないことをしたのぉ…。
そこでそういう強者が脱落せず隊士になっておれば、人手不足で無理をして死ぬ隊士も減ったじゃろうに…」

との言葉は、やはり厳しい戦いの中で死んでいく仲間を見送ってきたすべての人間の感想だよなぁ…と、村田も心の中でそれに頷いた。

「うん。でもまあ…その鬼は例の錆兎が倒したから…」
と、おそらく色々悲しい過去を思い出している師範の気をそらせようと口にすると、師範は

「あ~…水柱様のとこの子かぁ…。
あの方の所もずっと選別を超えられないと噂に聞いて不思議に思っていたものじゃが、みんなそこまでたどり着くくらいに強い弟子ばかりだったのが災いしたのか…。
しかし…それでも諦めずにそれを打ち倒すくらいの子を送り出すのだから、やはり柱はたいしたものじゃ…」
と、うんうんと頷きながら納得している。

いや…実は錆兎達で諦める予定だったんだけど…と村田は知っているわけなのだが、そこは黙っておいた。


そうしてしばらくは老人らしくうんうんと頷いていたが、師範は急にハッとしたように村田に視線を向ける。

「大志、もしかしてその鬼を倒した子どもは宍色の髪に藤色の目の子か?!」
「うん。そうですけど?」
いきなり変わった師範の反応に村田が首をかしげつつそう答えたら、師範は
「そうかぁ……四天王の子か……」
と、ため息交じりに言った。

「四天王?」
いきなり飛んだ会話に村田がオウム返しに聞き返すと、師範はなんとも言えない表情をする。

「頼光四天王…。
お前も話くらいは聞いたことがあるじゃろう?
あれはおとぎ話じゃない。
本当にいらっしゃった方々でな。
出来れば今の時代で鬼との戦いを終わらせるべく、元柱の育て手のどなたかがその筆頭の渡辺の家の子を手元に引き取って育て始めたという噂があったんじゃ。
あれは本当のことで、水柱様のところじゃったんじゃな…」

と、そこで師範からとんでもない言葉が飛び出てきたが、村田はそれが本当のことなんだろうなと納得してしまった。


──実家は代々炎風水土光の複合の型を使っているんだ。
でも俺がちゃんと経験を積んで強くなるまで家業の諸々は言うなと言われているから、俺達3人だけの秘密な?──
と、いたずらっぽく笑う錆兎を思い出す。

あの実家と言うのはおとぎ話で語られる渡辺綱の家のことなのだろう。


鬼退治で有名でおとぎ話にまでなる武将の子孫で代々伝わる剣技をひっさげているとなれば、そりゃあ期待も大きいだろうに、前世ではそれがあんな風に亡くなってしまったのだから、本当に浮かばれない。

しかし今生ではそのあたりのまだ子どもで感情の制御が仕切れていない状況での死と言う場面を回避したし、このまま生きていれば確かに対無惨の最終兵器だ。

そう考えると錆兎をその死から回避させた時点で自分はとんでもない偉業を成し遂げたのではないだろうか…。

…まあ…前世でも始まりの呼吸の剣士の子孫の無一郎は刀を握って2か月で柱にまで昇格したというから、錆兎もすぐ自分の手には届かないあたりに爆走していくのだろう。
だからもう一緒に戦うことはないだろうが、それでも彼の命を救えたのは今生での一生の誇らしい思い出になったな。
もう会うことはないと思うが、それでもきっと……

…と、村田はこの時はそんな風に考えていた。
そう、本当にそう信じていたのである。



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