こうして6日目の夜が明けて7日目の朝が来た。
村田が錆兎と義勇と共に集合場所に戻ると、同期が一人残らずそこにいる。
「あ~!!キツネ様だっ!!」
「ご無事でなによりですっ!!」
「このたびは助けて頂いてありがとうございますっ!!」
など口々に言いながら、みんなが錆兎を取り囲んだ。
皆が笑顔。
ああ、これが見たかったんだよな…と村田も笑顔になる。
係の隠達も前人未到の全員最終選別突破に驚きながら笑顔。
もちろん
──お帰りなさい。おめでとうございます。ご無事でなによりです
と言う奥方様の美しいお顔にも笑みが浮かんでいた。
その後、
──お前の鋼は俺が選ぶから、お前は俺のを選んでくれ。
なんてもうお前ら仲睦まじすぎだろと思うような錆兎と義勇のやり取りを横目に、村田は前世と同じように特別に特徴もなさそうな鋼を選んで係の隠に渡す。
誰一人として死なずに全員生還ということもあって、前世の時とは打って変わってにぎやかな会場。
皆わいわいはしゃぎながら隊服の採寸を終えて、それぞれ手を振りながら各々の師範の元へと帰っていく。
──先生に『ただいま』って言えるねっ
と無邪気に笑う義勇と、それには笑顔で『そうだな』と答えつつも、どこか浮かない顔の錆兎。
前世では戻れなかったということを知らなければ、彼にしてみれば戻れることは当たり前で、むしろ姉弟子や他の兄弟弟子が全員戻らなかった理由について知ってしまったことで、それを師範にどう伝えようかと悩んでいるのかもしれない。
村田だって彼と同じ立場ならおおいに悩むだろう。
──錆兎っ!
とそこで村田は腕組みをしたまま難しい顔の錆兎に駈け寄った。
──ああ、村田っ!今回は本当に世話になった。ありがとう!
と、錆兎は悩ましい表情をぱっと消して、笑顔で村田に手を振ってくる。
本当に今回の最終選別については錆兎に何度もお礼を言われるのだが、逆だろう。
確かに義勇を怪我からかばったが、その代わりに村田はずっと錆兎に守ってもらって命を救われている。
しかしまあ選別中も何度も繰り返したその問答をまた繰り返しても仕方ないので、村田は話そうと思っていたことを口にした。
「あのさ、あの大鬼はあの場所から動かなかったと思うんだよね。
だから強い候補者だけがあの場所にたどり着いて死んじゃったんだよ。
あそこにたどり着いたのは立派に戦える強い剣士だった証拠。
でももう錆兎が倒したしね。
これからは強い候補者を送り出しても大丈夫。
なんならさ、錆兎の師範は元柱で偉い人なんだから、師範から今回の鬼について進言してもらえば?
知らずにおいていたなら今後気を付けるだろうし、隊の方針で置いてたとしても一般の新米隊士が言うよりは色々考えてもらえるかもしれない」
その村田の言葉に錆兎は驚いたように目を丸くして
「…村田…すごいな。
俺なんか足元にも及ばないくらい色々を覚えていて色々が見えている。
大人だな…」
と言ったあと、
「そうだな。嘘はつけなくとも伝えること伝えないことの取捨をして、次につなげればいいんだな。
最後の最後まで世話になったっ!ありがとう、村田っ!」
と、それは困ったようないつものではなく、年相応に見える満面の笑顔を向けてきた。
こうして錆兎と義勇とも別れて、村田も帰路に着く。
前回と違って錆兎を生かして最終選別を超えさせるという目的も遂げて、前世で見続けた錆兎を失った義勇の生気のない様子を見ることもなく、本当に達成感に満ち満ちた状態である。
始まりから順調に進んだことで、なんだかこの先も諸々がうまくいく気がしてきた。
同期は死なず、隊士達の犠牲者も減り…そしてできればお館様や奥方様も無事なまま無惨を倒せればいいな…と、そんなことを考えながらご機嫌で汽車に乗って、師範の元を目指した。
前世では命からがらと言った感じで疲れ切って進んだ駅から師範の家への道だったが、今回はなんだか足取りも軽く、顔には満面の笑顔が浮かんでいる。
師範は家の前で待っていてくれたのだが、笑顔で飛び跳ねんばかりの足取りで戻った村田を見て、
──お前は…楽しい旅行にでも行ってきたのか?
と、呆れながらも、村田を家の中へと招き入れてくれた。
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