村田の人生やり直し中_14_鬼の気配

考えてみれば村田も噂の鬼には会ったことがない。
今の自分では敵わないのはもちろんなのだが、もし普通に戦って錆兎が負けたとするならば、正式な隊士だってよほど強い熟練のつわものでなければ倒すことはできないだろう。
そんなものをどうやって生け捕ったのだろうか…
それとも刀が折れなければ勝てたのか?

長い最終選別の日々のなか、村田は命の危険を感じなくなったところで改めて色々不思議に思い始めた。

しかしどういう経緯であれいったんは錆兎はその鬼に敗れて死んでいるのだから不安を感じても良いところなのだが、実際にずっと錆兎と一緒にいると、彼が鬼に敗れて死ぬなんて信じられない。

やはり刀か?刀なのか?
予備の刀があれば勝てたのか?

そんな疑問はずっと頭の中に抱えていて、例の鬼に会うのをいまかいまかと待ち構えていたのだが、そうこうしている間にすでに最終選別も6日目。
その日の夜を越せばもう7日目の朝で試験終了だ。

そうなるともう、気になることは気になるが、もう会わないなら会わないでいいかな…と思い始める。
だってその鬼に会わなければとりあえずは錆兎を生かして最終選別を超えさせて隊士として送り出すという一番の目的は達成だ。

しかしながら、出会う心の準備をしている時は出てくることなく、もう遭遇しなくてもいいやと思えば出くわすのが災厄というものである。



「もうだいぶ鬼に会う頻度も減ったな…」
「うん、候補者も俺達を除いた男子14名女子3名、全員入口方面に逃げたよ」
「お前、ちゃんと数えてたんだ」
「うん。俺記憶力だけはいいんだ」
などと後ろで村田と義勇が和やかな様子で会話を交わしていた時、前を歩く錆兎がすっと足を止めた。

「「錆兎…?」」
同様に足を止めた義勇と村田が声をかけると、一瞬厳しい表情を見せていた錆兎は、すぐにまた困ったような笑みをみせて言う。

「この先に…少しばかり今までのと違う鬼がいる。
…どうするかな…」

「…どうって?
別に無理に戦わなくても引き返して夜明けを待てばいいんじゃないの?」
と村田が答えれば、錆兎は
「今回のことだけを考えればそうなんだが…」
と、顎に手を当てて考え込む。

ああ、なるほど。
強い鬼がいるなら、その存在を確認して報告をしたいと言っていたあれか。

「でも錆兎、それはそういう話があるってことで自分でじゃなく鬼殺隊の方に確認してもらえばいいだけじゃないか?」

出来ればフラグをへし折るためにもその鬼には近づかせたくないところではあって提案したのだが、それにも錆兎は苦笑。

「ああ。でも一般の新米隊士が”そういう噂がある”と言うだけで動いてはもらえないだろうし…」

「でもそれならそれで出世してから報告すれば?
そもそもが錆兎は以前話した時にはそういう鬼が混じっているのも方針かもしれないと思ったわけでしょ?
はっきり居るとわかって報告したって無駄かもしれないのに、命かけることじゃなくない?」
と、村田はさらにそう言うが、錆兎は彼にしては少し歯切れ悪く

「あぁ…そうなんだけどな…それもあるけど……」
と口ごもる。

そこで察したらしい。
次に口を開いたのは義勇だった。

「今ここで会っておかないともう藤襲山に入れることはないし、真菰のことを知る機会がなくなっちゃう…ってことだよね?」
と、それで思い出した。
彼らは姉弟子の情報を得るという目的もあったのだった。
そうなるともう鬼と直接対峙するしかないのだが…

「それじゃあ選択肢はないんだよね?何を迷ってるの?」
「いや、みんなで行くか俺だけで行くか…」

「「一人で行くのは却下っ!」」
と、そこで村田と義勇が二人即口をそろえる。

すると、錆兎がまた少し困ったような顔をするので、村田はさらに
「錆兎に万が一のことがあったら、鬼はその後に俺達の所に来るし、そうしたら俺達だって逃げ切れないからねっ。
それなら鬼は斬れなくても3本の矢じゃないけど俺や義勇だって何か手伝えることがあるかもしれない。
それこそ…錆兎の刀、短期間に鬼を斬り過ぎてちゃんとした手入れが必要だろ。
俺や義勇がいたらその刀に何かあった時に即自分の刀を渡してやれる」
と言うと、錆兎は、あ~刀か…と言って少しの間考え込んだ。

「確かに普通の鬼を斬る分にはまだ持ちそうだが、だいぶ刃こぼれとかもひどくなってきているし、強い鬼だと折れるかもな…。
村田はすごいな。視野が広い。
確かに自分だけでと言うのは俺の驕りだった。
一緒に来てくれ」

まあ刀に気づいたのは前世での話があったからなのだが、それを言うわけにも行かないし、それで錆兎が一緒に行く気になってくれるなら敢えて何か言うこともないだろう。

「うん。俺はお前のおかげで鬼と戦うことなく来てるから、俺の刀は師範がくれた時のままだし、万が一の時は渡すな」
と言って、錆兎の視線を追って林の奥に視線を向けた。



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