ともあれ、初日。
ある程度村田に肉の解体方法を説明すると、義勇はそのまま食える野草や薬草を取りに森の中へ消えていった。
火をおこそうとしてモクモクと立ち上る煙をかぶって咳き込んでいる。
ケホッケホッとむせながら、
──村田…もしかして火をおこすの得意だったりしない?
と、涙目で見上げてくるのに、村田は苦笑しつつ、
──いいよ。俺が点けるから。
と、発火作業を代わってやった。
もちろん前世だったらこの時点でそれを言われてもできなかったが、そこは25まで生きた経験がモノを言う。
手際よく火をつける村田に、おお~!と目を輝かせる義勇。
──良かったぁ。錆兎が起きるまでにご飯を用意しておいてあげたかったんだ。
と、満面の笑顔だ。
ついでに河原の石をつみあげてかまどを作り、義勇に言われるままに解体したイノシシの肉を義勇が持参していた金串に突き刺して火に放り込む。
主食は糒。
前世ではこれだけで7日を過ごしたので常に腹が減っている状態だったが、今回はなんと肉を食べられて、ずいぶんと豪華な食事になった。
イノシシの肉が香ばしく焼けて飯の準備が整うと、ようやく義勇は泥のように眠っている錆兎を起こす。
──錆兎、錆兎、起きて
まだ声変わり前の澄んだ高い声でそう言いながら義勇がゆさゆさと肩を揺さぶると、綺麗な藤色の目を少し眩しそうに細めながら、錆兎が目を覚ました。
──あぁ…飯の支度をしてくれたのか。俺だけ寝てて悪かったな、義勇。…村田も……
と、寝起きでややかすれた錆兎の声は、義勇とは対照的にもうしっかりと低くなっている。
「いやいや、夜は俺達はお前についていって守ってもらうだけだしな。
飯の支度くらいはさせてよ」
と、それに対して村田は心の底からそう言って首を横に振った。
錆兎は昨夜だけでも10体は鬼を斬っている。
相手が弱めの鬼だったとしてもそれはすごいことだ。
だって、柱になる条件が甲で柱の座が空いているという前提ではあるが、鬼を50体斬ることなのだ。
まああとは12鬼月を倒すことという条件もあるのだが、そちらは滅多にないことで、やはりたいていは鬼50体である。
つまり…前提条件はとにかくとして、錆兎は一晩で柱の条件の5分の1をこなしたことになるのだ。
とんでもない数だ。
というか、これが7日間続いたら最終選別のうちに50体斬りが達成されてしまうのではないだろうか…
村田がそれを口にすると、錆兎は笑って、ないな、と言う。
「鬼の多数は入口近くで待機しているからな。
たぶん奥に行くにつれて鬼も数より質になっていく。
だからそうだな…この山の鬼を全部斬り捨てたとしても、せいぜい3,40体くらいじゃないか?」
「え?なんでそんなことわかるの?師範が元水柱だと情報が違う?」
「いや?誰が師範でも情報量は同じだと思うぞ」
「じゃあなんでそんなことわかんの?」
やけに確信ありげに言う錆兎に村田が首をかしげつつ尋ねると、錆兎はきっぱり
「最終選別の時以外はこの山には人が出入りしないからな。
鬼はすごく飢えている。
だから最終選別の時には少しでも人を食おうと人が来るあたりで待ち構えているだろう」
と言った。
「あ~!!なるほどっ!!!」
と村田は内心舌を巻く。
そんなこと今初めて気づいた。
二度目の最終選別でもそんなことには言われるまで気づかなかった。
そして今更ながら強いだけじゃなくその状況判断の鋭さに心底驚く。
もうこれは本当に13歳の隊士候補者じゃなく、熟練の剣士だ。
犠牲者が少しでも減れば…ということ以上に、もしこの神童が生きて隊士になったらその後どうなるんだろう?という好奇心に突き動かされる。
錆兎を生かして未来が見たい。
そんな思いがより強くなるような気づきだった。
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