村田の人生やり直し中_11_仕事の交代

前世では錆兎と出会って義勇を預けられてからもいつ鬼が来るか不安でびくびくしながら隠れていたのだが、今回こうして錆兎の後ろについていると、鬼が全く怖くないもののように感じられてヤバい。

一度見逃して村田が軽い怪我を負って以来、錆兎は前だけじゃなく前後左右上空にまで注意を払うようになったので、襲ってくる鬼もどこか他人事だ。

おまけに錆兎大好きな義勇が村田が一人増えたことで錆兎について語れるのが嬉しいのか錆兎がいかに強いかカッコいいかをまるでおとぎ話の勇者を語る幼子のようにずっと語って聞かせてくるので、余計に緊張感が薄れてしまう。

…というか、冨岡、お前こんなによくしゃべる奴だっけ?
と、無惨戦後、だいぶおだやかな表情をみせるようになってからも口数の少なさは相変わらずだった前世の義勇と比べてあまりによくしゃべる少年期の義勇に村田はあきれ返ってしまった。

そしてまあなんというか、すぐ後ろで繰り広げられる義勇の自分に対する賛美が錆兎の耳に入らないわけもなく、かといってやめろと言って黙ることもなさそうなせいか、いちいち反応をすることなくスルーしつつ前を行く錆兎にこそりと目を向けると、耳が赤くなっているのが年相応の少年らしくて可愛らしいと思う。

錆兎はその後も本当にしらみつぶしに鬼を叩き潰しながら進んで、悲鳴が聞こえれば駆け付け、助けた相手には
──入口の方は殲滅できたと思うから、そちらの方向に逃げておけば良いと思う。
と、声をかけた。

中にはついてきたがった者もいたが、それには
「俺はこれから鬼がまだ多くいるあたりに行く予定だし人数が多いと守り切れないから、鬼を殲滅した場所に居る方が安全だぞ。
助けた奴らはみんなそっちに逃げてるし」
と、暗に最低限自分で自分の身を守れないなら安全地帯に避難しているようにと指示を出す。

そうして夜は鬼を斬って斬って斬り続けて、日が昇って鬼の心配がない時間になると錆兎はようやく一息ついて
──悪いが先に寝る。
と、義勇と村田、どちらにともなくそう言って、ストン!と眠りに落ちた。

するとその後はどうやら義勇の時間らしい。

「俺、食べられる野草や薬草の補充に行ってくるから、村田はここで待ってて」
と、よいしょ、と、風呂敷の中から薄い布地を出して錆兎にかけると、自分はさらに風呂敷の中から少し大きめの袋を出して背負い込む。

それに村田が
「いや、一人じゃ危なくない?」
と声をかけると、義勇はにこりと笑って
「鬼がいなければ大丈夫。
俺も錆兎と一緒で山育ちだからクマくらいなら倒せるよ」
などと言うので驚いてしまった。

クマ?!クマアァッ?!!!
こんなに可愛いのに?!!

驚いている村田の前で義勇は何かを見つけたように静かに走っていき抜刀する。
そうして光る刃が跳ね飛ばしたのは通りがかりの(?)イノシシのようだ。

そうして手招きをされた村田が駆け寄ると、義勇はコテンと可愛らしく小首をかしげながら
──村田…イノシシさばける?
などと聞いてきて村田をさらに驚かせる。

もちろん町のど真ん中ではないが町近郊の道場で師範の作ってくれたものを食べて育った村田がそんなことをできるわけがない。

なので即首を横に振ると義勇は
──うん、そうか。これから7日間必要だし教えるからやってみて。
と、村田に処理をするように促す。

ということで今回の最終選別では鬼の脅威よりもイノシシの解体の方が衝撃の体験だった。


「俺はね、戦いには向いていないかもしれないけど、錆兎と同じくらい役にたつことはあるんだって、錆兎が言ってくれたんだ」

自分もイノシシの解体を手伝いながら義勇が話し始めた。

師範の元で一所懸命修行して錆兎よりはだいぶ遅れたが師範が最終選別に送り出す最終試験としている大岩を斬ることはできるようになったこと。

自分が斬れるようになるまで時間がかかったことで自分よりだいぶ早く岩を斬ることができるようになった錆兎を足止めしてしまって申し訳なくていつも泣いていたこと。

そのたびに錆兎が
『刀の扱いは俺の方が得意かもしれないが、義勇は記憶力がすごい。
実際最終選別に行ったり仕事をするようになれば、常に街に帰れる状態ではないのだから、刀を振るうだけじゃなく薬草や食える植物を覚えておくのは絶対に必要なことだ。
だからお前が不得意な刀の鍛錬をしている間、俺は俺が不得意な野草を見分けたり道を覚えたりする訓練をしていようと思う。
それは確実に俺の生きる力になるのだから、お前は何も申し訳なく思うことはない』
と言ってくれたのだそうだ。

確かに義勇の事を思いやった言葉ではあるのだが、それを別にしてももっともな話だ。
自前で自然の中から食料を調達する術があれば鬼を追える範囲もおのずから広がるし、いざと言う時に生死をわけることすらある。

しかし必死に隊士を目指して刀を振るっている齢13歳にも満たない頃の少年がそれをきちんと認識しているというのは本当にすごいことだ。

この年で剣の技術だけではなくこれだけ色々見えている人材が自分たちのような凡才のために命を落とすような可能性のある選別方法はどこか欠陥がある。
村田はこの時生まれて初めて鬼殺隊の制度に疑問を感じた。

それはさておき、こんなに色々見えていて剣技にも優れた少年が何故命を落としたのだろうか?
刀が折れた…とは聞いていたが、刀の劣化に気づかないほど疲弊していたのか、それとも何か他の要因があったのか…
そのあたりはその状況に居合わせるのは恐ろしくはあるが、村田は非常に興味深く思ったのだった。

その要因は最終日前日…ほぼ他の鬼が居なくなったあたりで驚くほど大きな鬼と遭遇した時にわかるのだが……

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2 件のコメント :

  1. 🎂望奈
    お話が進むにつれワクワクします。いつも楽しいお話をありがとうございます。今日は大好きなぎゆさんのお誕生日。新作が拝見出来て嬉しかったです☺️

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    1. ああ、義勇さんのお誕生日ですよね。2月8日😊
      元々弟っぽい印象を持っているので、冬生まれ&早生まれってなんとなくイメージに合っている気がします💕

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