うわぁ……
そんなため息しか出てこない。
一度は無惨戦まで経験した村田だが、こんな見事な剣技は早々お目にかかったことがない。
自分も水の呼吸なのだが、おそらく生き残った時点での22の自分ですらこんなすごい剣士ではなかったと言い切れる。
そう思うと江戸時代から生きて50をくだらない数の候補生を食ってきた鬼とは言え、負けてしまったのが不思議なくらいである。
今も目の前で
──肆ノ型…打ち潮
との声にうねる帯状の水が、綺麗に鬼3体の首を跳ねる。
まるで岩を叩きつける波のような力強さ。
柱時代の義勇の流れる波のような剣技と比べても遜色ない…いや、もっとわかりやすく強さを感じる。
まだ隊士にもならない頃にこれだけ強ければ、生きて隊士になれば本当にとんでもない強さの柱になっただろう。
と、そんな風に見惚れていたのが悪かったらしい。
ふと気づけば同じように錆兎に見惚れている義勇の横の木から何かが飛び降りてきた。
──危ないっ!!
思わず義勇をかばうように突き飛ばせば、左腕を走る痛み。
それでも反射的に血だらけの腕で頭をかばうが、さらに振り上げられる鬼の爪。
しかしそれは振り下ろされることなく
──壱ノ型 水面斬り!!
と言う声と共に、鬼の首が夜空を舞い、塵と消えていった。
「村田っ!すまん!!対応が遅れたっ!!」
と、振り向く錆兎。
いやいや、お前が謝るところじゃなくて俺が礼を言うところだろ…と思いつつ、
「大丈夫。お陰様で薄皮一枚だから」
と、腕をあげれば、ちりりとわずかな痛みはあるが、深手の重い痛みではない。
するとその村田の言葉に錆兎は心底ほっとしたように息を吐き出し、今度は
「良かった。
でも……義勇を守ってくれてありがとう。
お前が居てくれて本当に良かった…」
と笑みと共に礼を言ってきた。
「…村田、俺、錆兎に見惚れててぼんやりしてて御免。
腕、見せて」
と、義勇も謝罪しながら駆け寄って来て、背負っていた風呂敷をほどいて錆兎に渡す。
そしてそれを受け取った錆兎が怪我の手当てをしてくれた。
え?え?これも錆兎の仕事なの?と村田が口に出すまでもなく、義勇もそう思われるだろうと感じるのか
「…ごめん…。本当は俺が手当てしてあげたいけど、不器用だから包帯とかすぐほどけちゃうんだ」
と、肩を落とす。
あ…可愛い…と不謹慎ながら思った。
一歳しか違わないはずなのに、義勇はなんだか幼子のような可愛らしい雰囲気がある。
これ…このままだったら絶対に周りにもっと優しくされてたよな…と、錆兎が早くに死んでしまったのがもったいないと思うと同時に、それによって義勇のこういうところが失われてしまったのももったいないと村田は思った。
そんなこんなで錆兎に手際よく手当てをしてもらってふと思う。
もしかしてこれは義勇が頭に怪我を負った場面だったんじゃないだろうか…。
もしそうならば錆兎が義勇を置いていくことはなく、一人きりになるフラグが折れる。
そこで怪我をした村田を前に口を開きかけた錆兎が何かを言う前に、村田は
「怪我は軽傷だしおいていくとかなしね。
移動に問題がない限りどう考えてもお前と一緒に居た方が安全安心だからねっ!」
と釘を刺しておく。
その村田の言葉に、やはり怪我をしているなら動かない方が…と言おうとしていたのだろう。
錆兎はそうか…そうだよな…。
鬼が来たら自衛できないもんな…。
と思い直したらしく、
「傷が痛む場合は休憩を取るから無理をしないで言えよ?」
と言って、薬を包んだ風呂敷をまた義勇に戻した。
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