そうこうしているうちに全員が集まって、鬼殺隊の方から説明がある。
この説明役はお館様の奥様…奥方様と呼ばれている産屋敷あまね様だ。
前世では無惨をおびき寄せるために自らを囮に使って爆死されたお館様と共に壮絶な最期を迎えられた美女。
今生ではこの方も救えたらいいなぁ…と、村田は二度目になる説明を適当に聞き流しながら思う。
──…村田は…いうほど緊張していないよな。
と、義勇を挟むように並んで話を聞いている錆兎がふとこぼした。
え?と驚く村田。
確かに自分はこれが二度目の最終選別になるから、一度聞いた説明を半分流していたのだが、別に目に見えて無視していたわけでもないし、何故その目に見えぬ手の抜き方に気づいた?!
「…お、俺はさ、このあたりの説明は兄弟子から何度も繰り返し聞かされてたから、ああ、本当にこんな感じなんだなって半分流してたんだけど…
そんなことにまで気づく錆兎の方が緊張してなくない?」
村田がそう返すと錆兎はやっぱり眉尻を下げて困ったように笑う。
前世では実は錆兎と接する機会は義勇を預かった一瞬のみで、あとは藤襲山の鬼をほぼ倒したこととか功績しか知らなかったので、最期はぽっきりと折れた強い刀のような印象を持っていた彼が、こんな風に笑う時は困ったように笑う少年だとは思ってもみなかった。
「村田は…戻ってきた兄弟子がいるんだな」
と言う錆兎に村田は首をかしげる。
「…錆兎は元水柱が師範だって言ってたよね?
そんな人の弟子なら軽々超えてるんじゃないの?」
そういえば前世で一緒に暮らしていた時に義勇の口から他の兄弟弟子について聞いたことはなかったけど…と思いながら聞くと、返ってきた返事は
「いや…不思議なことに先生の弟子の中で最終選別を超えられた人間は一人もいないんだ。
すごく強くて超えるだろうなと思っていた姉弟子も去年死んだ。
それで先生は俺達を最後に弟子を取るのはやめると言っているんだが…。
…厳しいけど優しい人で…俺は先生をとても尊敬している。
だから先生の育て手としての生活が意味のないものじゃなかったと証明するために俺は立派に最終選別を超えて先生に報告したいし…あとは、義勇も守らねばならないから、すごく緊張している。
緊張しているから周りがすごく気になっているんだ」
…ああ…そんなことを考えて自分たちの英雄はこの最終選別に臨んでいたんだ…。
錆兎に関しては同期の皆が強くて…とまず言うのだが、彼はそれ以上に優しい少年だったのだということを、村田はこの時初めて知った。
自分の栄誉より戻らぬ弟子に悲しむ先生のために、そして一緒にいる自分より弱い兄弟弟子のために…。
とにかく自分が生きて隊士になることしか考えていなかった当時の自分と違って、彼はそんな思いで参加して…同期全員を救うのと引き換えに自分の命を落としたのかと思うと胸が詰まる思いがした。
──超えようぜ
と、村田は思わず口にする。
「立派じゃなくだっていいっ。
立派なことするのは隊士になってからっ!
今はとりあえずがむしゃらにでもこの最終選別を超えようよっ」
と泣きそうになりながらそういう村田に、錆兎は
「ああ、そうだな」
と、やっぱり困ったような笑みで答えた。
そうしているうちに説明も終わり、
──ご武運をお祈り申し上げます…。
の言葉のあとに、少年少女達は各々山の中に散っていった。
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