こうして村田は少し錆兎と義勇に近づいてみて驚いた。
前世では本当にこの時点ではその存在すら気づいていなかったのだが、自分が無惨戦まで一通り経験してみたからわかる。
確かにまだ少年なので多少線は細いが筋肉の付き方や何より落ち着いた雰囲気がもう候補者というより隊士のソレだ。
それも新米じゃない。
かなり上の階級の……
さりげなく義勇の肩を抱いて村田と反対側にかばうように移動させると、にこりと村田に笑顔を向ける。
義勇に危害が及ばないようにと警戒はしながらも、警戒した様子を見せることなく親しみのこもった笑みと言うのは本当になんなんだろう、本当に年下か?とまたそれにも驚く村田。
普通なら警戒していることすら悟られないであろう笑み。
実際に義勇の方は正しく当たり前のこの年の子どもの認識力らしく、錆兎が親し気な笑みを向けた相手に対して、
「なあに?もしかして錆兎の友達?」
と自分もおずおずと笑顔を見せる。
それに対して錆兎は驚いたことに
「いや?なんだかしばらく俺達の方を見ていて、最終的に寄ってきたから何か用かと思って」
と言うではないか。
いやいや、近づいたのを気づかれたのはまだわかるが、村田の視線にまで気づいていたのか?
こんな緊張下で?!
「驚いた。
見ていたことまで気づかれているとは思わなかったよ」
と思わず正直に言えば、
「…見られることの多い育ちだったから、視線には敏感なんだ」
と、彼は言う。
どういう育ちだ?と聞いてみたい気はするが、今するべきはそんな話ではない。
錆兎を納得させる動機を考えねばならない。
お前を死なせないように守りたい…というのが本当の理由ではあるのだが、頭がおかしいのか?と鼻で笑われて終わりだろう。
この時点では初対面だし、なによりどう見ても村田より錆兎の方が強い。
時間が巻き戻った話をしたらもっと頭のおかしい奴だし…とそれについてもそう思う。
さてどうしたものか…と悩んでいると、錆兎の腕にしがみつくように立っていた義勇が
「もしかして一人は怖いんじゃないか?
錆兎が強そうに見えて、一緒に来たいとか?」
と、助け舟を出してくれた。
正直驚いた。
長らく錆兎を失った生きる屍のような義勇しか見ていなかったので、今更ながら本来の義勇はこんな風に感情豊かな抒情的なお子さんだったんだなと思い出した。
…と言っても村田が知っているのは怪我をして村田に預けられて他を助けに行ってしまった錆兎のことを思って泣いている姿だけなのだが…。
義勇の言葉に錆兎は
「お前は本当に俺のことを過信しすぎだ。
初対面で強そうなんてわからないだろう?」
苦笑する。
そう言われると義勇はぷくりと桜色の頬を膨らませて
「そんなことないっ!錆兎の強さは見る人間が見ればすぐわかるっ!」
と小さな拳を握り締めて力説した。
ああ、なんだか前世の義勇とは別人のようだ。
…というか、こんな弟全開の義勇をみれば、不死川とかも揉めることなく殴ることなく、文句をタラタラ零しながらもどこか嬉しそうに面倒を見ていたんじゃないだろうか…。
本当に不死川にこの義勇を見せたかったな…と、最後に一緒に暮らして看取った大家族の長子だという柱を思い出してそんなことを思った村田だが、そういえばこのままいけばそれが叶うのだと気づいて楽しみになった。
とりあえず…せっかく義勇が差し伸べてくれた手を取らないという選択肢はない。
なので村田は
「なんだかお前が一番落ち着いているように見えたから。
自信あるのかなって思って。
それならそっと邪魔にならない程度に近くに居れば少しは安全かなと思ったんだ」
と言っておく。
すると錆兎は目を丸くし、義勇は笑顔になった。
「やっぱり錆兎の強さは他の人にもわかるんだよっ!
いいよ、一緒に行こう。
えっと…?」
「…村田。村田大志」
「そっか。俺は冨岡義勇!
錆兎は渡辺錆兎っ!
共に元水柱の鱗滝左近次先生の元で学んだ兄弟弟子なんだっ」
どう考えても人数が増える負担を負うのは錆兎で最終的な決定権は錆兎にあるはずの状況だと思うのだが、笑顔で村田の同行を許可して振り返る義勇に錆兎は眉尻を下げて少し困ったような笑みを浮かべながらもそれを了承した。
ああ…これ、錆兎の方が義勇に弱いやつだ…と、前世ではわからなかったそんな人間関係を目の当たりにして、村田はこれから始まる厳しい最終選別を前にそれでも少し楽しみな気分になった。
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