──義勇、用心は必要だが過剰に怖がるな。大丈夫。ただ冷静に、俺の傍を離れるなよ?
とにかく村田が最初に経験した過去の最終選別の時は、生存率が多くてわずか20%ほどだと言われているそれに村田も怯えて緊張してて周りを見る余裕などなく、今目の前にいる多くの少年少女と同じようにただただ震えていた。
が、今回は二度目で普通にこの後の展開も、自分がどうやって生き残ったかも覚えているので、考えるべきは錆兎の生かし方だと、彼らに注目する。
そして多くと同じように心細げに震える義勇にそう言って笑顔で肩を抱き寄せる錆兎に、──はあ…男前かよ……と、ため息をついた。
こりゃあ惚れるわ、居なくなれば引きずるわ。
顔も態度もかっこよっ!!
こんなのと四六時中一緒にいてずっとこんな風に接していられることに慣れてしまえば、そりゃあ居なくなれば辛いだろう。
と、村田は錆兎が居なくなってからの…そして死の間際の義勇を想いだして納得した。
今錆兎の隣でそう言われて彼にぎゅっと抱き着いている、美少女にしか見えないまだ少年期の義勇を見ると、なんだかそこだけ空気が違う。
もう少年少女の初々しい逢引き現場でも目撃したような気恥しさを感じてしまった。
そんな二人の様子は置いておいて、とりあえずどうやって錆兎の死を回避するのか…。
もうあと1時間ほどで選別が始まってしまうことを考えると、あまり考えている時間はない。
正直村田も前世の経験があるなら普通の鬼くらいは斬れるだろうと思ったのだが、師範の元を離れた直後に刀を振るった感じだと、まだ体力が圧倒的に足りない感じで、うまく呼吸を使うこともできていなかった。
これは今後隊士の仕事をこなしながらなんとか鍛えていくしかないが、それでは今回は間に合わない。
弱い鬼は自分が斬り捨てて錆兎の鬼を斬る回数を減らして刀の強度を温存してもらおうと思ったのだがダメそうだ。
…となると、前世では…というか、今生でも今の時点では自分が鬼を斬り捨てることは出来なさそうだから、いっそのこと自分の刀を予備として錆兎に渡そうかとも考えたのだが、前世の諸々を知らなければ、この時点でいきなり彼に刀を差しだす理由がない。
自分で鬼は斬れない。
錆兎に自分の刀を予備に渡すということもできない。
そうなったらもう取れる方法は一つだけだ。
錆兎について回って刀が折れたら直接自分の刀を提供する。
とりあえずそれで本当に回避できるという保証はないのだが、義勇から離さずに一人きりにならないようにすれば無茶をせず冷静に対処してくれるだろうし、刀が折れなければ最後の鬼を倒せるかもしれない。
いや、ついていく以上、倒せなければ自分も巻き込まれで死亡フラグなわけなのだが…
それでもまあ、もうすでに一度は人生を送りきって死んだ身でおまけについてきたような二度目の人生である。
前回よりも少しでもいい結果を出せるよう冒険してみるのも良いじゃないか…
村田はそう決意をすると、彼らからはぐれないようにそっとそちらの方へと人込みをかき分け移動した。
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