村田の人生やり直し中_05_村田、人生を巻き戻る

…大志…こりゃ、大志、いい加減起きないかっ!!

いきなりゴン!!と降ってくる拳骨。
その硬さがなんだか懐かしい。
ややしわがれた声だって3年間いつも聞いていたものだ。

「何も殴らなくったっていいじゃないですか、師範…」

ありえない、ありえるはずがないと思いつつもあまりに慣れ親しんだ人物の声と拳に痛む頭を押さえながら目を開ければ、そこには11の年に家族を全員鬼に殺されて一人になった村田を引き取ってくれた鬼殺隊の育て手の老人がいる。

何かがおかしい…
自分は無惨戦を乗り越えて柱二人を見送って、最後は幼い兄妹をかばって死んだはずなのに、何故目の前に数年前に亡くなっているはずの師範がいるんだ?

そう思ってみればそれだけじゃない。
師範に答える村田の声だって随分と若いし、一般隊士なりに握り続けていた刀のせいでタコだらけだった手も一般人ほどではないにしろ随分と柔らかい。

状況がわからず目をぱちくりさせている村田の頭に
「お前はぁ!昨夜は最終選別前夜で緊張して眠れんとか言っていたのに、今度はねぼけておるのかっ!!
シャキッとして支度を終えてさっさと飯を食わんかっ!!」
と、もう一度ゴツン!と師範の拳骨が振り下ろされた。


その痛みで我に返って、村田は師範の言葉を脳内でなぞる。
…最終選別…前…夜…??!!!

「師範っ!今日は何年の何月何日ですかっ?!!」
と、尋ねて怪訝そうな表情の師範から返ってきたのは確かに村田が最終選別に向かったその日である。

え?え?なんでっ??
と思いながらも追い立てられるように布団から出て布団をたたみ、呆然としながらも着替えて身支度をして飯を食う。

今日は朝食後すぐ最終選別の地である藤襲山に向かうのでこうして食事を摂っているが、普段ならば飯の前に鍛錬なんだよな…と、飲みなれた師範の自家製味噌で作ったみそ汁をすすりながらそう思って、しかしすぐ、いやいや、普段ならってなんだよ、普段ならって…と村田は首を軽く横に振った。

この普段と言うのは修行時代の普段であって、それから10年ほど過ぎた村田はもうとっくに戦いが終わったあとの日常生活に入っていたはずである。

なのに何故今自分は最終選別当日の出来事をなぞっているのだろうか…。

これは夢なのか?
いや、でも自分は確かに死んだはずなので、夢なんか見るんだろうか?

そう悩んでいる間にも時間は当たり前に過ぎていて、村田は時間に押し流されるように過去と同じように師範に渡された刀を腰に汽車に乗るため駅に向かった。

都市近郊でそう大きな駅とは言えないが、それでもちらほらと列車を待つ人々がいて、そんな人々を目当てに弁当売りがホームをゆっくりと往復する。

村田の実家は裕福とまでは言えないが、年に一度くらいは家族で近場の温泉に一泊するくらいの余裕はあって、そういう時はたいてい汽車の中で食うためにそんな弁当売りから弁当を買ったものだが、もうそんな日々は二度と戻ってこない。

あの日々が夢だったのか今のこの状況が夢なのか…それとも何かの原因で過去に戻ってしまったのか…
どれが正解なのかはわからないが、少なくとも実家の家族は鬼に殺され、25歳でいったん終えたはずの前の人生では嫁を貰って新たな家族を作ることなく一人で死んだ。

もしこれがそんな自分を憐れんで神様とかがもう一度人生をやり直させてくれているのだとしたら、今度は友人や恩人を亡くすことなく事前に助けて、最後はまた実家のような平々凡々な家庭を持って大往生でもしてみたいなぁ…と、村田はどうも終わることがなく流れていく時間に疑問を抱くのを半ば放棄しながら、そんなことを思って汽車を待った。



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