村田の人生やり直し中_04_それぞれの最期

25歳まで…と聞いていたのだが、村田と暮らし始めて2年後…23で義勇が逝った。

最後は幻覚を見ているのか…いや、本当に迎えに来ていたのかもしれない。
それまではほぼ指一本動かせなくなるほどに弱っていたのに、虚空に向かって両手を伸ばし、

──錆兎…錆兎、会いたかった…
と、これまで見たことのないほどに嬉しそうな満面の笑顔でそう言ったあと、ぱったりと力を失くして息を絶える。


村田は最終選別で怪我をした義勇を自分に預けて錆兎が駆け去るまでという短い間ではあるが生前の二人の仲睦まじさを間近で見ていた。
だから悲しくはあるがまた、喪失感を抱え続けた人生を終えて彼の元へ行けたのかと思えば少なからず良かったな…と思う気持ちがあったのだが、錆兎を知らぬ不死川はまた別の思いを感じたらしい。

──直前まで一緒に暮らしてた俺達より、昔馴染みかよォ。お前は最後の最後まで……
と、悲し気に肩を落としてそうつぶやいた。

そうして
──…結局俺は…誰の特別にもなれなかったなァ…
などと彼にしては随分と弱気な言葉を素直に漏らす。

それに村田が思わず
──あ、じゃあさ、俺が死ぬときは不死川さんの名前呼ぼうか
と言うと、じ~っと視線を向けられたので、また呆れたようにため息をつくか照れ隠しに殴ってくるかするかと思えば、

──村田ァ…お前って本当にいい奴だよなァ……
などと本当に柄にもないことを言って力なく笑うのが、不死川の死期も近い証のような気がしてなんだか怖くなった。


義勇が先に逝ってから、不死川が怒鳴る声を聞くことはほぼなくなった。
彼も体力がかなり落ちて力仕事などはできなくなってきて、それでも可能な限り家の諸々の雑事をこなしながら、時折ぽつりぽつりと亡くなった弟妹や兄弟子、そして柱仲間の思い出を語る。
怒鳴られたいわけでは決してないのだが、村田はめっきり力を失くした最近の不死川を見るのはなんだか辛かった。


その後…まるで老衰前の翁のように緩やかに弱っていった不死川は、義勇の死からちょうど一月後に義勇の分と合わせた莫大な資産を村田に遺して息を引き取る。

最後は笑顔で、
──…こんな嫌われモンを最後まで看取ってくれてありがとなァ…
なんて悲しい言葉を邪気のない笑顔でつぶやきながら…


…嫌われものなんかじゃないよ……少なくとも俺には嫌われてなかった……

すでに熱を失くした不死川の指の欠けた手を握りながら、村田はそう言ってポロポロ涙をこぼした。

義勇は迎えに来たのであろう錆兎に向かって手を伸ばして振り返らずに逝ったが、不死川は最後の瞬間まで残されていく村田を気遣って振り返ってくれていたように思う。

優しい男だったのだ。
きっと鬼が居なければ弟妹を優しく労わり守っていく気遣いに満ちた優しい兄だったのだろう。

そう思えば余計に悲しくて……でも村田はそこで足を止めることはできない。
どれだけ悲しかろうと辛かろうと明日は来るし生活はしなければならない。


義勇と不死川から遺された莫大な遺産があるので、その気になれば遊んで暮らしていける。
だが村田はそうはしなかった。

何もしないでいると悲しさとか辛さとか諸々に押しつぶされそうになる。
だから普通に働いて生きて行こうと決意する。

そうなると遺産は自分には必要ない。
置いておいて邪魔になるわけではないが、無駄にはなっている気がする。

最後を共に過ごした自分が少しでも良い人生を送れるようにという元柱二人の気持ちは大変ありがたいことではあるが、彼らの命と引き換えに得たこの財産は無駄なことに使いたくない。

村田はそう思って義勇と不死川の介護でしていなかった仕事を探し、それが見つかるまでの間の最低限の生活費以外は親を亡くした子が集う孤児院に全部寄付することにした。

なんのかんので五体満足で生き残って自分で働いて自分の身を養える村田が分不相応な贅沢をして暮らすのに使うより、立派に生きた彼らの遺した金はそういう恵まれない子ども達を救うために使う方が似つかわしいだろう。

村田はそう考えて産屋敷輝利哉の伝手できちんとした孤児院に寄付をして、そのことをそれを遺してくれた柱二人の墓参りに行って手を合わせて報告した。

これで本当に鬼殺隊隊士であった村田の人生は終了。
今後は一人の一般人としての人生が始まる……ところだったのだが……

人と言うのは役割を果たすまでは生かされている…ということがあるのだろうか。

墓参りの帰り道、ひどい雷雨の中、田舎道を走っていると、同じく横を走る幼い兄妹。
しっかりと手を繋いで、自分だけなら速く走れるであろう兄は妹の速度に合わせてずぶぬれで走っている。

──これ…かけていきな。少しはましかもしれないから。
と、村田は柱の墓参りだからと着て行った隊服の上着を脱いで兄妹にかけてやる。

それは寒さ暑さをかなり防ぐ優れた素材で出来ていて、それまで着ていた村田の体温で温かい。

兄は少し戸惑ったようだったが、寒さに歯をカチカチ鳴らしていた妹はその温かさにふわりと笑みを浮かべて
──ありがとう、温かい
と、邪気のない様子で言う。

──いいよ。俺にはもう必要なくなったものだから。気を付けて帰りな。
と、それに村田も笑顔で返した次の瞬間だった。

ドドン!!!!
と耳をつんざくようなものすごい音と共に雷がすぐ近くの大木に落ちる。

メリメリと折れて倒れ掛かる大木。
驚きに目を丸くしたまま硬直する兄妹。

──危ないっ!!!
と、彼らをかばったのは、隊士としての条件反射だった。

折れた枝が体に突き刺さる。
泣き叫ぶ妹。
口と目を大きく見開いたまま声を出せずにポロポロと涙を流す兄。

──…かみなり…危ないから……気を付けて…帰り……な…
と、それが村田の最期の言葉だった。

こうして家族が鬼に喰われた時も、鬼との戦いで同期が義勇以外全員戦死した時も、何故か生き残ってきた村田の人生は、幼い兄妹の命を救って終わったのである。



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