村田の人生やり直し中_03_錆兎という少年

「不死川さんからすれば何故そこまで聞かされなきゃって思うと思うんですが、これ知っておかないと当分二人同室で養生してると揉めると思うんで、申し訳ないけど話させて下さいね」
と、おそるおそる始めた村田に不死川は嫌な顔をすることもなく
「おう、話せェ」
と、自分はドカリと寝台に腰をかけ、足で行儀悪くだが、小さな丸椅子を村田の方に軽く蹴って座るように寄せてくれる。

怖そうに見えて意外に優しい。
そのことにホッとしながら、村田は礼を言って椅子に座ると脳内で整理をしながら話を始めた。


「不死川さん、ご自身の最終選別の時って、どのくらい鬼を倒しました?」

いきなり質問から入る村田の言葉に不死川は目をぱちくりしながらも、
「あれは…鬼倒すモンじゃねえだろォ?
一体だけ襲ってきたから近くにいた奴と協力して倒したけどな」
と答える。

まあそうだ。
村田だって見つからないよう隠れていたし、見つかったら逃げまどったし、追いつかれたら死を覚悟した。

そうしていよいよ逃げられない、死ぬ!となった時にザザン!と音が聞こえてきそうな綺麗な波しぶきと共に、村田を追い詰めていた鬼の首が夜空に跳んで行ったのである。

ああ…あれは正直カッコよかったなぁ…と今思い出しても思う。


「錆兎は…最終選別で俺を含めて助けを求める声に応じて藤襲山にいた鬼のほとんどを倒してくれたんです。
俺は当時14で、もう8年も前のことだけど、目を閉じると今もその時の奴の見事な剣技が色鮮やかに思い浮かびます。
奴は冨岡と同じ13歳で、なのにものすごく強かった。
正直、今の俺より当時のあいつの方が絶対に強かったと思いますよ。
あいつは見事な剣技で俺達を襲ってくる鬼を斬って斬って斬り捨てて…でも最後になんでか紛れていた江戸時代から生きている少なくとも50人以上は喰ったっていう強い鬼と対峙した時に、酷使した刀が折れてしまって殺されたって聞きました。
でも奴がほぼ全部の鬼を倒しておいてくれたおかげで、俺達の時は奴以外は全員生き残って最終選別を超えたんです」

「そいつぁ…すげえなァ」
村田の話に不死川は感嘆のため息をつく。
実は素直な性格なのかもしれない。

「だから俺達同期はみんな、本当は一番最終選別を超えて隊士になるべきだったのはあいつだったって思ってきたんです。
あいつが生きていればたぶん、最強の柱になったって思っているんですよ」
と村田は思わず口にして、しかしすぐハッとした。

それはすなわち不死川に対してもお前よりも強かったと言っているようなもので、今度は不死川がキレ散らかすんじゃないかと青ざめたが、実は不死川は村田が思っているよりもずっと公正な性格の人間だったらしい。

「かもしれねえなァ。
そんな奴がそんな理由でそんなところでくたばっちまったなんてもったいねえ。
最終選別の時点でそこまで強かったんなら、そりゃあ柱にくらいはなるだろうなァ。
そしたら死んじまった柱連中の中でももうちっと生き残れた奴が出たかもしれねえし……
伊黒と甘露寺あたり、生きて添い遂げさせてやりたかったよなァ…」
と言う亡き仲間を思いやる言葉までその口からでてくるに至っては、村田も色々こみあげてくるものがあって泣きそうになってしまった。

なんだよ、まともじゃんっ!
普通にいい奴じゃん、風柱っ!
と、思いつつ、うんうんと頷いてしまう。

「そんなわけで…俺達にとってはあいつは本来は余裕で超えられた最終選別を、俺達全員を助けることと引き換えに命を落として超えられなかったって認識なんです。
だから奇跡的にあいつ以外全員超えて隊士になった同期達が戦いが終わった時に俺と冨岡以外命を落としてたのは、あいつに助けられた命をぎりぎり使って少しでも多くの人を助けようと実力を超えて頑張り過ぎたせいなのかなって俺は思ってるんですよね。
あぁ…なんだか何言いたいのかわかんなくなってきちゃったけど…」
と、感情が先走って着地点に悩み始めた村田だったが、不死川は
「いや、わかった。俺が無神経だった」
と、その背をポン!と叩いて言った。

「冨岡、俺の言い方が悪かったァ。
俺は別にそいつを落とすつもりじゃなくて、こいつが最初に言った通り、死んじまっているから物理的に手助けをすんのは無理だろぉって言ってるつもりだったんだァ。
でも、見下してるみてえに聞こえたなら本当に悪かったァ。
俺もお前みてえに世話になって助けられて、でも相手は死んで俺は生き残って柱になったって経緯がある相手がいて、そいつを落とされたらマジギレするから、気持ちはわかるわ。
そういう気がなかったとしても、そう聞こえる言い方して本当に悪かった」
と、不死川は今度はなんと義勇に向かって頭を下げる。

普段、自分に対して暴言しか吐いてこなかった不死川の潔い謝罪に義勇も驚きのあまり怒りが引っ込んでしまったようだ。

「…錆兎のことを…侮辱していたわけじゃないなら、それでいい…」
と、こちらも納得。
その場はなんとか丸く収まったようだった。


しかしながら、確かに片手が不自由な義勇には助けの手があった方が良いが、どうも誤解されやすい言動が多い不死川だと争いが絶えない。

…ということで、もう毒食らわば皿までというか、義勇を見守っていく覚悟をしていたので、医療所を出た後は何故か、村田と義勇と不死川の3人の生活が始まることになった。



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