「とりあえず…報告だな」
と、最初に義母と義勇、そして桜が隣の部屋に着替えに行ったタイミングで慎一が口を開いた。
それが慎一が錆兎を現自宅に招き、錆兎もその招待を受けた理由の一つである。
義勇の容姿が成人しても第二次成長期を迎えた男のように変化しなかったこと、前回逮捕されたのが秘書のみなことで、今後もある程度年齢を重ねて容姿が変わるまでは粘着される可能性が全くないとは言えないし、かといって子もいる状態でずっと外出しないのも不自由だ。
もちろん自分が同行できない時用のボディーガードを雇うこともやぶさかではない錆兎ではあるが、今後、子どもが幼稚園、小学校から大学までと社会生活を送るようになれば、常にボディーガードに護衛されてという状態はいかがなものだろうと思わないでもない。
それに義勇自身だってずっと邸宅内で何をするでもなくいるのも退屈だろうし、あるいは今後、その年齢には通えなかった大学に通いたいとか、仕事をしてみたいとかいうことになった時には、ボディーガードを引き連れてというわけにもいかないだろう。
拓郎には出来れば炭治郎の元嫁のように国外に出て行って欲しいところだが、絶対に無理なのはわかっている。
そうなるともう、冨岡のほうで監視してもらうしかない。
そういう方向の話であれば、確かに直接顔を見て丁寧に情報を知り要望を伝えたいのは当然である。
なので単純に里帰りをして義母に自分の子ども達を見せるのを楽しみにしている義勇とは少し違って、錆兎はもちろん義勇の実家の家族に会うのも楽しみだし重要ではあるが、それ以上にある種の緊張を持って今回冨岡邸を訪ねて来ていた。
なので慎一との話の方が本番である。
「親父な、捕まった」
「は??」
突然、いきなりクライマックスな言葉を聞かされて、錆兎もさすがにぽかんと呆けた。
いや…確かにアレな人物ではあった気はするが、何故いきなり??
いつか捕まる可能性も考えてはいたが、それは義勇や子ども達の誘拐未遂か錆兎に対する傷害未遂あたりだと思っていたのだが……と、それは思わずポロリとそのまま口からこぼれ出てしまう。
それに慎一は苦笑した。
「えっとな…とりあえず親父の矛先はあれから何故かおふくろと俺に来たんだよな。
俺に自分の地盤を根こそぎ持っていかれて普通のリーマンくらいの生活になったからな。
愚弟うんぬん以前に自分の生活が地に落ちた感じで、日々辛かったらしい。
さらに結婚…いや、婚約して以来か。
自分が何をしても自分を欲していたおふくろが自分を見限ったことでかなりプライドが傷つけられたというのもあって、おふくろのことも逆恨みだ。
てめえがずっとないがしろにしてきたくせに、おふくろの側から離れられると腹が立つらしい。
で、離婚の調停中に俺が愚弟の関係でとある人物と会合後、おふくろと飯を食う約束をしていたんだが、どうせなら一緒に食おうということになって、相手と俺とおふくろと3人で実家でよく足を運んでいたレストランに行ったんだが、どうしてだかその前で親父が待ち伏せていてな。
いきなりおふくろに突進。
刃物振りかざしてきて、それを相手が取り押さえたんだ。
で、少しばかり手を切ったがとりあえず軽傷。
親父は逮捕。
……で、おふくろはああいう女だから危険を冒して自分を守ってくれたと、相手に一目惚れ。
ああ、もう恋はするってより落ちるっていうのが正しいんだなと思うほど、スト~ン!と。
それで…だ、あの手の女を振り切るのは鉄の意志がないと難しいっていうか…相手が押し切られて、その後すぐにさすがに親父との離婚が成立したんで、半年後に再婚することになった」
あ~…と、錆兎は片手を額にあてて、ため息交じりに確認した。
「ああ~…うん、誰かはわかる気はするんだが、一応聞いておく。
相手はあれだな?
炭治郎の……」
「ああ、あんたんとこの会社の副社長だ」
「…やっぱり……」
世の中には色々と運命というものがあるのだろう。
錆兎と義勇だって普通なら結婚どころか出会うことすらなかっただろうし、そんな二人が結婚しなければ、義勇の義母と副社長が一緒になることなど絶対になかった。
そもそもが、炭治郎が社長業を継がないとほぼ決定して炭治郎に関して手離れをしていなければ、副社長は絶対にそちらを優先して自分が結婚するなどと言うことはしなかったと思う。
実に実に色々が複雑に絡み合ってとんでもない偶然と言う名の必然を生み出していた。
最初の頃の副社長なら勘弁してくれと頭を抱えるところだが、義勇に出会うきっかけになり、義勇を守るために協力してもらい、そしてその後、炭治郎を社長にと固執していた理由が自身の私利私欲ではなく本当に亡き妹、そしてその忘れ形見である甥の炭治郎に対する家族愛から来た行動だったとわかった今は、まあもうみんなで大家族扱いで良いんじゃないかと錆兎は思う。
唯一まだ遠ざけたいままの親族と言えば
「…で、親父も資産はほぼ会社名義だったから個人資産はほぼなく、副社長に対する治療費や慰謝料で消えて、さらに自ら傷害事件を起こしたため仕事は解雇。
しかも会社の跡取りとして何不自由なく育てられてきたから生活力がない。
…ということで、出所してきても生活にまず困るだろうということで、弁護士を通して出所後は某地域に購入済みの館で生活にかかる費用の一切をこちらで持つ代わりにその地域を無断で出ないという形で管理することになった。
館内には監視カメラをいくつも設置。
特に館の出入り部分には重点的にカメラを置いて監視するから大丈夫だと思う」
ということで、冨岡の方で監視してくれるらしい。
「おじたんっ!しゃくら着たのっ!!」
と、そんな話をしていると、リビングのドアが開いてフリルに埋もれそうなドレスを着た幼女が優雅とは対極の暴れん坊将軍っぷりで慎一のもとに走って来てその勢いで膝に飛び乗る。
「こら、桜っ!ちゃんとレディらしくしないと…」
と、ドアの所にはやはりフリルをまとった錆兎の愛妻。
こちらは錆兎の方がすかさず立ち上がってドアの所の彼女に駈け寄ると、恭しくその手を取ってソファまでエスコート。
そして…最後の一人、義母の隣にはすでに見知った顔がいて、少しきまり悪げな笑みを錆兎に向けると、ついで
「説明は…終わっているのかな?」
と、視線を慎一に向ける。
そして慎一がそれに頷くと、彼はまた錆兎を振り返り
「…君と…こういう形で家族になる日が来るとは思わなかったな」
と、また少し困ったような笑みを浮かべた。
それは錆兎の方も同じだ。
まさに”昨日の敵は今日の友”と言ったところである。
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誤変換報告です。「正体を受けた」→「招待を受けた」かと…ご確認お願い致します。そういえば副社長名前出てましたっけ?(?_?)
返信削除ご報告ありがとうございます。修正しました。
削除出てなかったと思います。
途中で便宜上名前つけようかと迷ったんですけどね😅