政略結婚で始まる愛の話_87_里帰り3

そうしてリビングに落ち着いて歓談中。

それでも”おじたん”から離れずに彼の膝の上に当たり前に座る幼女に義母がぷくりと頬を膨らませて
「慎一…ずるいっ!
慎一より私の方がず~っとず~っとずぅぅ~っと桜ちゃんが来るのを楽しみにしてたのにっ!」
と長男に恨み言を投げつける。

弟たちにはからかい交じりの反応を返した慎一だが、相手が母親となると話は別だ。
男所帯だった冨岡家は唯一の女性の義母に弱い。
特に無神経な父の代わりに家庭内に対する気遣いを一気に引き受けていた慎一は他の兄弟以上に義母に気を使って生きてきたので彼女に本当に弱い。

──少し…祖母さんの所にも行かないか…?
と、おそるおそる膝の上の幼女に声をかけるが、
──や~!おじたんがいいのっ!
と、一刀両断にされ、この家の本当の女性二人の間に挟まれて珍しくおろおろしている。

「桜、お前のお祖母ちゃんなんだから、ちゃんとお話ししなさいっ」
と、義勇も口添えするが、それにも
「や~だもんっ!」
と、ぷいっとそっぽをむいて義母が泣きかけ、お義母さん大好きっこな義勇が自分も泣きそうな顔で隣に座る夫の腕を取ってその顔をみあげた。

もちろん夫の方は愛しい妻の要望はどんなことでも叶える所存。
泣かせるなんてとんでもない。

そこで錆兎は性格は自分にそっくりだと認識している娘に一言…
──その女性はお前の祖母である以前にお前が大好きなおじたんのお母さんだぞ。

「おじたんのおかあたんっ?!!!」
と、その一言で娘の目の色が変わった。

次の瞬間、ぴょん!と慎一の膝から飛び降りると、トテテっと義母の前に行き、スカートの端をちょん!とつまんで
「初めまちて。おじたんのおかあちゃま。鱗滝桜でしゅ」
と優雅に挨拶をして見せる。

その変わり身の早さに廊下で塩対応をされた”おじたん”の弟達がお茶を吹き出し、実父の錆兎は眉間に手を当ててため息をつき、そして実母の義勇はその変わり身をまったく気にすることなく、とりあえず自分の大好きなお義母さんに娘が挨拶してくれたことに満足げにうんうんと頷いた。


──…あれは……?
と、女性の突飛さには慣れているためかあるいは元々感情が顔に出ない性格のせいか表情があまり変わらない慎一に聞かれて、錆兎は少し疲れたように
──…俺の娘だから…。自分のというより、自分が好きな相手の関係者と言う方が動く。
と、答える。

その後は桜も相手がおじたんの大切な相手と認識したらしく、義母が用意した山のようなフリルに埋もれたドレスでのファッションショーにつきあっていた。

もちろん義勇も一緒で、なんならお揃いの義勇のドレスまで用意されている。

娘だけの時はにこやかに見守っていた父親は、愛妻が娘とお揃いのドレスを着て出てきた途端、いきなりスマホで写真を撮りだす。

そして祖母、母、娘が着せ替えをしている間、少し大切な話を長兄と始めたあとも、顔は慎一に向き合って意識はきちんと会話に向けながらも、手だけは器用にパシャパシャとシャッター音を響かせていた。



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