政略結婚で始まる愛の話_86_里帰り2

初めての女の子の親族に賑わう義勇の兄達に案内されて初めて足を踏み入れた冨岡家は、実は義勇も初めて入ることになる。

そう、とどのつまりは彼らの親夫婦は正式に離婚。
母親は息子3人と共に新居に引っ越していたのだった。


新しい家は義勇の記憶にある生まれ育った実家よりは、その後に保護してもらっていた義母の実家に似た雰囲気で、さすがに財閥の総帥の本宅であるそこほどは大きくないものの、セキュリティがしっかりした一般人からするとかなりの豪邸である。

名義は冨岡製薬を引き継いだ”おじたん”こと慎一だが、ところどころどこか少女趣味な感じの可愛らしい感じの造りなのは、義母の影響だろう。

実はそんな少女趣味仲間の義勇はほぉぉ~と感嘆の息をついているが、ここにいる中で唯一の本物の少女である桜はそんなものよりもおじたんの肩車のおかげでかなり高くなった視界から見る景色に夢中だ。

錆兎と同じくらい背が高くガタイの良い慎一の肩の上できゃらきゃら高い笑い声を響かせているのを次男と三男は時折り羨まし気に振り返りながらも、先に立って廊下を先導する。

そうしてたどり着いた居間のドアを次男が開けると、中から義勇ほどの背丈の女性が飛び出してきた。


「義勇っ!私の義勇ちゃん、会いたかったわっ!!」
「お義母さんっ!!」
ヒシっと抱き合う二人。

義勇は結婚前、15で父に拉致されてラボで施された処置のせいか結局思春期から背が伸びることがなく165ほどで止まっているので、普通に少し背が高めの義母と身長が変わらないのもあり、なんだか本当に長く会わなかった母と娘にしか見えない。

二人がどこかおっとりとした性格であるとか可愛らしいものが好きなところとか、似たところが多いせいもあるのだろう。
顔立ちは似てはいないが雰囲気が似ている。

涙の再会。
義母との仲が良好なのだとは聞いていたが、なにぶん正妻である女性にしてみたら義勇は夫の愛人の子にあたるわけだし大丈夫だろうか…と少しだけ思っていた錆兎の杞憂はその二人の様子に完全に霧散した。

二人の涙ながらの再会が少し落ち着いたところで錆兎も挨拶をする。
すると、義母が目をキラキラさせて
──まあぁぁ~~!!
と声をあげた。

そしてどう考えてもそのあたりに向いていない義勇の代わりに慎一が間に入って互いを紹介し、改めて軽い挨拶を交わすと、義母は
「義勇ちゃんの王子様と言うには少し線がしっかりしすぎているけど、素敵な方ね」
と、これは誉め言葉なのだろうか、それともダメ出しをされているのだろうか…と悩む発言をする。

それに義勇が
「錆兎は甘えた王子様じゃなく、国を背負って立つよう育てられた皇太子様…あるいは皆を救う勇者様なんだ」
と、これはからかいとかではなく真面目に錆兎を全肯定しているのであろう発言で答えた。

それに対してまた、まぁぁ~!!と夢見る少女のように胸の前で両手を組んで目をキラキラさせるので、おそらく悪意はないのだろう。

そして…そんな実母の隣で慎一がはぁぁ~と頭痛でも感じているかのように少し眉を寄せて大きくため息をつき
「…失礼な上に訳がわからなくて本当にすまない。気を悪くしないで欲しい。
母はお嬢でな、たぶん3分の1ほどはファンタジー世界に住んでいる人なんで…」
と錆兎に謝罪をしてきた。

このやりとりだけでなんとなくこの家族がどういう風に暮らしてきたのかがわかる気がする。

錆兎はそんな慎一に
「いや、こんなお義母さんに育てられたから義勇があんなに愛らしい嫁に育ったんだろう。
血筋を超えて親子そっくりだな」
と笑った。

本当に本当に…義母と義勇は血のつながりはないはずなのだが、むしろ実子の慎一よりもよく似ていると思う。
慎一は彼女の夢見る少女のような突飛さに頭を悩ませてきたようだが、錆兎はそんな彼女が嫌いではないと思った。



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