政略結婚で始まる愛の話_89_エピローグ

こうして錆兎も炭治郎も継がないと宣言した会社の方はと言うと、なんと最終的に義勇が継ぐことになった。

…と言っても…いまだ完全には落ち着かない状態の宇髄の会社をその会社の役員になって手伝っている錆兎が継げないため、その配偶者の義勇に名義だけ…と誰もが思っている。

これは実は裏で副社長が提案してきたことだった。
古参の社員からは簒奪者の急先鋒と思われている自分が継いだら宇髄コーポレーション以上に会社が真っ二つどころか空中分解をする。

ということで誰が社長職につくのが一番揉めないかと言えば錆兎なのだが、その錆兎が否というなら錆兎に近い人物が宜しいのではないだろうか…ということだ。

錆兎が後ろ盾になって何かあれば錆兎が出てくると言えば、古参の社員達も納得するだろう。
ということで、錆兎との間にすでに二人の子がいる愛妻であれば、錆兎の子どもが成人して跡を継げるまで…と、暗にそんな方向に考えを向けられる。
さらに実家も冨岡製薬で、そちらの後ろ盾も見込めるし、宇髄コーポレーションの跡取り息子の実母とは同い年の息子を持つママ友だ。

そういう対外的な面とは別に、義勇にとっても今後子どもたちの諸々で出歩く時も名義だけでも大企業の社長ともなれば普通に外出時にボディーガードが常についていても違和感を持たれないし、錆兎に万が一があった時でも資産だけでなく子どもたちの社会的地位が保たれる。

そんな説明の後に、
「…もしも…冨岡製薬の方に何かあった時に妻の身の保証をしてもらえると心強い…というのもあるのだが…」
と、少し気まずそうに笑って言う副社長の本音をちらりと聞いて、錆兎もなんだか納得したし、義勇も何かあったら錆兎に気兼ねなく義母を助けられるということで、やる気満々だ。

こうして夫の実家の跡を継ぐことになった女性社長という少し変わった立場の義勇は、それでもなんだか今の時代にマッチしているのかなかなか有名になって評判もよろしくて、鱗滝財閥のイメージアップに大いに貢献することになる。


始まりは最悪だった。

実家はほぼ後妻の兄に乗っ取られ、しかしながら唯一仲の良い異母弟を見捨てられず実家の諸々に関わっていたら、子を作れない相手との政略結婚を勧められた。

結婚というものに過度な憧れがあったわけではないが、実家関係で家族に恵まれなかったため、そのまま温かな家庭というものを知らずに生きていくのかとは思う。

しかしいざ出会って一緒に暮らしてみると世界で一番可愛い嫁。
しかもその嫁は実家の製薬会社の社長である父親の画策で男性でも子を産めるような処置をされ、今は一男一女のいる4人家族だ。

その嫁のために購入した広大な土地に建てた母屋の両隣にはそれぞれ親友夫婦と異母弟カップルが住んでいて、それぞれの子も含めた家族ぐるみの付き合いをしながら住んでいる。

そして…嫁の異母兄弟や義母とも円満で、しかもなんとあれだけ敵対していた異母弟の伯父である副社長が義母と一緒になることで、気の置けない身内となった。


双方家族に恵まれずギスギスした家庭で育って政略結婚をしたはずが、驚くほど何もかもが平和に円満に。

物語は常にハッピーエンド。
めでたしめでたしで終わるのである。

──完──







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