政略結婚で始まる愛の話_77_離婚の結末

2ヶ月後…公正証書を交わして子どもを引き取って離婚。
炭治郎は現在子どもと一緒に鱗滝家の善逸が住んでいる離れに転がり込んでいた。

兄の家の離れに善逸が住んでいることは知っていたが、兄が住む母屋の反対側にもう一つ離れがあってそこには兄の友人の宇髄の家族が住んでいることも、そしてなんと兄に子が二人もいることも善逸の離れに住むことになって初めて知って、かなり驚いた。

炭治郎の結婚式の頃には実家がお家騒動の真っ最中だったので欠席だったので初めて会う兄の愛妻はとても愛らしい人で、聞くところによると実父が病的なレベルで執着していた実母に似ているために実父からの性的な被害を受けないよう身の安全のために男として育てられていた…と聞いて、その事情の複雑さにも炭治郎は大いに驚く。

もちろんそれは冨岡製薬の立場を守るための嘘なのだが、こんなに愛らしい男性がいるわけないよな…と炭治郎は微塵も疑いをもたなかった。

兄は素晴らしい男だし、その嫁は絶世のと言っていいレベルの美少女で、さらに天使のように愛らしい二人の子ども。
絵にかいたような幸せ家族の図に、自分のせいで兄に色々制約のある人生を送らせてしまっていると思っていた炭治郎は心の底からほっとした。

兄の友人の宇髄の家にも兄の第二子と炭治郎の息子と同年齢の赤ん坊がいて、3人いる宇髄の内縁の嫁のうち、仕事を手伝っている一人以外の、赤ん坊の実母ともう一人の嫁と、兄の嫁の3人で子育てをしているらしいので、炭治郎の赤ん坊も一緒に面倒を見てもらえることになって、そちらも助かっている。

宇髄の家の方の子どもは別段隠す理由もないため、伯父にも宇髄の家の子と一緒に面倒を見てもらうからと言う理由で赤ん坊がある程度大きくなるまでは兄の家で暮らすと報告済みだ。
ということで、とりあえず表面的には平和が戻った。

…そう、表面的には……。


「嫌な思いさせたのに、謝罪もさせずにごめんな、善逸」

元嫁との離婚に際して要らぬ恨みを抱かせぬよう、勝手に善逸に嫌がらせの電話をかけたことについては何も指摘をしていない。

相手が有責であるにも関わらず慰謝料も取らず、あまつさえ炭治郎の特有財産で分与をする必要のない資産まで渡しての円満離婚をしていることについて謝罪すると、優しい善逸は

「いや、それは本当にいいよ。
俺は炭治郎がいてくれるだけでいいし、もう縁が切れる相手なら恨みを残すような別れ方をするよりはお互いに幸せを願って別れる方が良いと思う」
と、本気でそう言ってくれる。

むしろ無関係なはずの兄の愛妻やどこか彼女とノリの似た宇髄の赤子の実母が
「最後に謝らせるくらいすればよかったのにっ。
悪いことしたらごめんなさいしないとっ」
と我がことのようにぷんすか怒っている。


善良で穏やかな性格の恋人…善逸。
彼には汚い世界など一生目にせず生きて行って欲しい。

彼は今回の炭治郎の行動が100%の優しさからのものだと思っているし、実際、事情を知らない人間が見たらその通りだろう。
しかし当事者の炭治郎と計画を建てた実兄錆兎、そして宇髄以外は知らない。
”今回の一見美味しすぎる話にはとんでもない裏があったことを”



──炭治郎…お前の元妻からお前から連絡をもらえないかと私の所に連絡が来たんだが…
と、伯父から電話が来たのは離婚後1年もしない頃である。

──あ~…それはたぶん金の無心だと思うんで放っておいてください。
と普段は情に厚い炭治郎が淡々と突き放したようなことを言うのに、
──金の無心…?専業主婦だったから生活に困っているのでは?
と、伯父は不思議そうに聞き返してきた。

「彼女は浪費家だったので。
一応俺も離婚時には彼女が無収入なのを考慮して、兄からの援助で買った4千万払い込み済みで残り5年のローンのマンションと結婚祝い金の残り2000万を渡しているんです。
でもずっと金銭援助を求められても困りますし、離婚後は接触禁止で破ったら一度につき50万円の罰金と公正証書に遺しているので俺の方から連絡が欲しいということなんだと思います」

「ああ、それは彼女が悪いな。
本来なら彼女有責のところを慰謝料を取らないだけでなく、そこまで後の生活に配慮して別れているならもう放置だな」

炭治郎の説明に伯父は納得したようだ。
まあ…嘘ではない。
彼女は確かに浪費家だったし、マンションや貯金を渡しているのも本当だ。
ただし…毎月200万のローンが5年分残ったマンションを……


そう、渡したマンションは総額1億6千万の高級マンションだ。
頭金1600万で1億4400万を200万ずつの6年ローンで買って1年経過。
初めは全額錆兎が出すと言ったのだが、副社長から実権を取り上げて炭治郎が社長になったあとは自分で出すからと、社長になるのが遅れた場合はその都度援助追加ということで、当座の資金として7千万を贈与されていたのだ。

それとは別に炭治郎は何かあったらいつでも戻れるようにと、一応自分が元々住んでいた賃貸マンションはずっと借りたままにしている。
ただしそれまでは伯父に払っていてもらったその家賃は、結婚時代…いや、善逸に嫌がらせの電話をかけていたと知るまでは元嫁に対して申し訳ないという気持ちがあって少しでも彼女に多額の金を渡してやりたかったためにそれ込みで渡されていた50万の生活費からは出さずに、兄に援助してもらっていた貯金から出していた。

離婚の交渉時に”1年半の家賃280万”と言ったのはそのマンションの月に15万する家賃で、当然炭治郎が独身時代のマンションを借り続けているということを知らない元嫁はそれを今住んでいるマンションのローンだと勘違いしている。

もちろん誤解させるために敢えてそれを言及せずに、ただ、あとで言われた時に困らないように独身時代の賃貸は”家賃”、結婚後のマンションの方は”ローン”という言葉を使っていたのは、兄と兄の友人の宇髄のアドバイスだ。

元妻はあまり慎重な性格ではなかったので上辺をさらっと聞いて、1年半で280万のローンならあと5年ということは280万の3倍強、残債は900万ほどで、2千万円の入った口座から引き落としにしていれば放置していても大丈夫と思ったようで契約書をよく見ずに名義変更の書類にサインをしていた。

浮気相手もそんな元妻から彼女から残債900万と言われて信じ込んでいたのだろう。
疑いもせずろくに確認もしないままローンの名義変更の書類にサインをした。

あの時、マンションの総額やローンの残りの金額に気づかれたなら、また別の方向の報復措置を考えていたのだが、予想通り揃って深く物事を考えることのない二人が2千万の貯金があるしとあっさりとよく見ずにサインをしてくれたので助かった。

もちろんそんな事情を知らないので伯父はマンションと預貯金2千万も渡して1年もしないうちに金の無心をしてくるような人間は相手にすべきではないと判断したのだろう。
その後は自分にも連絡を取り継がないようにと手配したようだ。

こうして元妻はめでたく5年間☓200万=1億2千万のローンを背負い込んだのである。
ローン払えないからと売っても中古で値段下がるし、負債だけ残る感じだ。

ということでどう考えてもローンを払えない以上はマンションを売って、残った負債と自分たちが住む場所の家賃の両方を払っていくことになる。

しかも元妻への報復はそれだけでは終わらない。
温厚な炭治郎だが、なまじ普段温厚なだけに怒らせると激しいのである。
彼自身は比較的世間知らずで真っ直ぐに育っているとしても、バックには海千山千の兄と友人達が助ける気満々で控えているのだから、敵に回すと恐ろしいのだ。


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